現時点で2010年の個人的ベストシングルはa-haの“Butterfly, Butterfly (The last Hurrah)”であって、最終アルバムとなるベストアルバム「25」(デビュー25周年にちなんで名づけられ39曲の名曲が収録されている)に収められているa-haとして最後のシングルということになる。昨年2009年にドロップされた「Foot of the mountain」も個人的2009年ベストアルバムであったし、楽曲を作るアーティストとしての能力も、それを表現するパフォーマーとしての能力も、25年前に世界中を席巻した名曲“Take on me”を凌ぐレベルにあるといって良い。そんなa-haに別れを告げなければならないのは衝撃以外の何物でもない。



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日本ではデビュー曲の衝撃が強すぎたためか、以後も数多くのヒット曲を放ち、25年経った現在においても地元ノルウェーやドイツ、イギリスなどのヨーロッパ諸国ではスタジアム級の人気を誇るバンドであるにもかかわらず、ここ日本では“一発屋”として認識されることが多いのは怒りを通り越して呆れるばかりである。



現在のa-haサウンドは、デビュー時のようなエレクトロポップな印象こそ大幅に後退しているけれど、透明感溢れるサウンドスケープ、世界屈指のヴォーカリストである(と個人的には確信している)Morten の印象的なファルセット、メインソングライティング・コンビであるPaulMagneが楽曲に与える繊細かつ豊かな色彩感覚、全てが高いレベルで融合している。


口ずさめるくらいポップであり、憂いを湛えた優しいメロディを持ち、明るいけれどどこか物悲しく、心の琴線に優しく触れる癒しを与え、聴き終わった後に気持ちをポジティブにしてくれる。それが現在のa-haが紡ぎだす唯一無二の音楽なのだ。



前期A-HAが世界を意識した野心的a-haであるとすれば、後期a-haは大きな成功で得た精神的余裕から彼ら本来の持ち味を発揮している状態にあると言って良い。セールス的には前期a-haが勝るも、彼らのインタビューなどから感じられる充実感やアーティストとしての自信は現在の方が遥かに大きいことがよくわかる。事実、後期a-haのシングル“Analogue”“Summer moved on”“Foot of the mountain”などの素晴らしさは、“Take on me”“Living Daylight”などの世界的ヒット曲と比べても何ら遜色はないし、個人的には圧倒的に後期a-haを聴くことが圧倒的に多い。多くのa-haファンも僕に近い感覚なのではないかと思う。



では、なぜアーティストとしてピークに近い状態で、しかも再度セールス的にも上昇基調にある中で解散という道を選ぶのか。もうa-haとしてやることがなくなったのか、あるいはメンバー間の関係に問題があるのか。いずれも否だろう。



最終シングル“Butterfly, Butterfly (The last Hurrah)”からも彼らの意図を読み取ることはできるのではないか。過去のインタビューでMortenは「僕は音楽に興味を持つ前は蝶々とか昆虫とかにしか興味がなかった」と言っていた。この曲はPaulの作品ではあるが、歌い手であるMortenのこの発言が全く関係していないと考えるのはむしろ不自然である。



サビを除けば、Mortenが歌う最後のフレーズは「Here’s our last hurrah」であって、この解散はネガティブな原因に起因した後ろ向きなものではなく、それぞれが個人的にやりたいことに時間を使うという新たなステージに挑戦する前向きなものと考えるべきなのであって、Butterflyというのはそれを象徴したものではないだろうか。アーティストと個人的に会って話がしてみたいと思うことはほとんどないのだけれど、願わくば一度でいいからMortenと会って、彼のこれまでの人生、a-haで得た経験の何を糧にして今後何をしていきたいのかなんて話を、フィヨルド沿いの静かなホテルのバーでゆっくり聞いてみたい。



ノルウェーの歴史を変えたa-haという名の英雄は、“英雄のまま”今年12月のオスロ公演でカーテンコールを迎える。


彼らの残してきた偉大な足跡と美しい楽曲に感謝しながら、スタンディングオベーションで英雄を送り出そう。新しいチャレンジに困難はつきものだけれど、今までそうしてくれたように、そんな厳しい時こそポジティビティ溢れるa-haの名曲群を聴けば良いのだから。


MortenPaulMagne、素晴らしい名曲をありがとう。

a-haは今でも世界最高です。



公家尊裕 (Takahiro Kouke)