オアシス対ブラーのシングル対決が新聞の一面を飾るという社会現象を巻き起こしたブリットポップ。あれから10年という歳月が流れブリットポップに影響を受けたという世代が台頭してきてもおかしくはない。「影響を受けたのはブリットポップ、バンドで言えばオアシス」と言い切っているのだけれど、全英3位という破格ヒットとなったtwangのデビュー作「Love it when I feel like this」からはそれほどオアシスの匂いもブリットポップの匂いもしない。すでにコピーの域を超えて自然に身体の中に溶け込んでいるということなのだろう。




強いてオアシスに近いものを探せば強烈な労働者階級を思わせる歌詞であり、オアシスから遠いものといえば正統派なシンガロング調の歌メロというよりは特異なグルーヴ上にメロディが踊っているということであり、いずれのバンドもスーツを着て決められた時間に通勤して上司の下で数値目標達成を強要されるような仕事とは縁遠い人間性を感じる部分である。一緒に仕事をするには最悪だろうけれど周囲で見ている分には最高だろう。


いわゆる決まりの中で自分の動きを制限されることをもっとも嫌うことは歌詞を聴いてみるととてもよくわかる。

歌詞カードがついていないだけでなく訛りが強いので聞き取るのが難儀なのだけれど、例えばオープニングの“Ice Cream Sundae”(インテリジェントと評されるバンドはこういうタイトルつけないし)で繰り返される「オレにはどのくらい時間があるんだろう?」という社会から阻害されたと感じる者たちの多くが常に感じる疑問もそうであるし、ヒットシングルとなった“Wide Awake”では「彼女がここにいて抱きしめていてほしいんだ」と恥ずかしげもなく情事について歌っているし、アルバムを通して「現実の世界に向かい合いたくない」「何が起こっているのかを直視しなきゃいけないんだ」「オレは救ってほしいんだ」という言い訳なのか泣き言なのかわからないことばの連発であるし、つまり現実社会で何とかやっていくためにtwangに残されていたものはロックだけであるということである。


勉強も嫌い、仕事も嫌い、時間を守るのもルールを守るのもみんなと同じことをやるのも、面倒くさいことすべてが嫌い。そうすると生活に窮することになるから現実も見たくはないし人妻との情事に明け暮れるか、酒を飲んでサッカーを見て暴れるという流れになるのだろう。そうした若者を救ったのがブリットポップでありオアシスだったのだ。人の人生を大きく変える力を持つという意味でもロックの持つ力とは恐ろしい。


初めてやりたいものを見つけたtwangが強かったところ。それはやはり労働者階級としての腕力の強さと誰にでもわかる日常を恥ずかしげもなく歌詞にできるところだろう。音楽的には違うけれどハードファイがそれに近い(ハードファイの方が遥かにいろいろなジャンルのミクスチャーである)のではないか。つまりはリリカルとか繊細さとかを無視した肉体的パワーである。


頭で考えて音楽を作る人には決して真似できないロック。それがtwangでありtwangを白昼堂々と聴くことファンであることを公言することは一般人にとってはささやかな情事のようなものだろう。

ハードファイ衝撃のデビューアルバムと同等レベルの素晴らしさである。


公家尊裕Takahiro Kouke