オランダ出身のWithin Temptation(ウィズイン・テンプテーション)とアメリカ出身のEvanescence(エヴァネッセンス)。

共通するのは女性がヴォーカルをとるメタルバンドであること。

ヘヴィなサウンドにシンフォニック・オーケストラ・フレーバーが香ること。

衣装や醸し出される雰囲気がゴス風であること。


キャリアとしてはWithin Temptationの方が長いのだけれど、世界的な大ブレークを先に果たしたのがEvanescenceだったために彼ら(この場合には彼女たちが正しいか?)に似ていると言われる羽目になっている。確かに傑作デビューアルバム「Fallen」における楽曲の完成度、Amy Leeの物悲しくも力強いメロディに乗せて歌われる世界は素晴らしかったし、突然この世に出現したAmy Leeという稀代のキャラの新鮮さも相まってアメリカではLinkin Parkの傑作「Meteora」をもチャート的に凌駕するほどのブレークを果たすことになった。とにかくシンフォニックでゴスでクールでヘヴィでダークかつメロディアスな世界の至宝とも言える作品だったといえる。


同じEvanescenceという名前を冠してはいるけれど、Amy LeeBen Moodyの二本柱時代のEvanescenceは、Ben Moody脱退後のAmy Lee一本柱体制となった現Evanescenceとは別のバンドと考えてもいいのかもしれない。とりわけシンフォニックという部分においてBen Moodyを欠いたことによって生じたサウンドの深みの欠如はいかんともしがたく、様々な角度から音を嗜み眺めても楽しめ、ヴェールを1枚剥がせば別のヴェールが現れるというシンフォニックな階層構造は激減している。悪くはない。十分にコマーシャルではあるけれども2作目「The Open Door」はリスナーに聴き方を変えることを強要するアルバムとなっている。


そうしたバンドの主要メンバーの変遷も磐石の態勢を続けるWithin Temptationとは大きく違うところではある。

サウンドはどうか?楽曲のコマーシャル度合いではEvanescenceの「The Open Door」とWithin Temptationの「The Heart of Everything」を比較しても依然Evanescenceのメロディがより一般人受けしそうなメロディであると言える。そういう方向に舵をきったのだから当然といえば当然である。

ではそれは楽曲のクオリティの差なのか?否である。




違いはヨーロッパのWithin TemptationとアメリカのEvanescenceという事実が大きいのではないか?

作り出すサウンド・イメージが近いバンドであることは事実であるけれど、ヨーロッパという土地柄“適度な憂いと湿り気と哀愁”を帯びたWithin Temptationに対して、アメリカで育ったEvanescenceには(少なくとも現時点では)“ドライ感”が強く、さらにメロディにおいては“ポップ感”が強い。極論すればWithin Temptationの作り出す音世界は“聴く人を選ぶ世界”であるのにたいして、現Evanescenceの場合には奇しくもアルバムタイトルがそうであるように“より多くのリスナーにオープンな世界”なのではないか?


あとはどちらの世界の住人が多いのかということになってくるのだけれど、“寒さや冷たさ以外は何も感じない。自分には何ができるのだろうか?”と絶望の世界を歌いながら弱者を救済していくための歌を鳴らすWithin Temptationの世界の住人は少なくないし、世界の扉はまだ閉まっていると絶望し、助けを求めている人は極めて多いと思う。


「答えを知っている」と自信満々な人間よりも、「常に迷い悩んでいる」という謙虚な人間の方が信頼に足るというのも事実なのである。


公家尊裕Takahiro Kouke