Motion City Soundtrack(モーション・シティ・サウンドトラック)の新作「Even if it kills me」が9月にリリースされるという。僕はあまりシングルを聴いて何かを判断するということをしないので、前作「Commit this to memory」を再度引っ張り出して来る日に備えてみたい。




久しぶりに特徴的なムーグ風味の効いたサウンドを聴いてみて歌詞カードを読んでみて思い浮かんだ単語が、よく言えばナイーブ悪く言えばヘタレ。ことばにしてみると印象がずいぶん違っているのだけれど、どちらを選んだとしても当たらずとも遠からずという印象を持つのではないか?


ナイーブといえば“純真な、うぶな、素朴な”という意味合いがあるだけでなくちょっと線が細く感受性が強く傷つきやすいけれども仕事や勉強も出来て意外とモテるイメージで、ヘタレとなるとちょっと内気で外部からの攻撃に対する防御力が弱くちょっとしたダメージで精神的に大打撃をうけて弱っているモテない君かつ仕事も勉強も中途半端というイメージだろうか。


Commit this to memory」の冒頭を飾る“Attractive today”は“ぼく破局しちゃったんだよね”で始まり“ぼく今日という日がもうちょっと良い日に感じたいだけなんだよね”に終わるヘタレ全開ソングであるし、続く“Everything is alright”は“ねぇキミお願いだから全然平気だって言ってよ”である。そのことばが届けられるサウンドもピコピコサウンドが施された確信犯的に可愛らしいものであって、ヘタレもここまでくれば立派な才能なのである。しかもその全開ヘタレを堂々とシンガロングするロック・ミュージックにトランスフォームしてしまえるあたりの自虐ぶり。モテないことを逆手にとってモテてしまうメガネ君たち。“僕らヘタレてるんじゃなくて感受性が強くてナイーブなだけなんだもんね”と言っているかのごとくサウンド・歌詞の徹底振りは情けないを大きく凌駕して素晴らしいのレベルにある。


パンクをポップにするとこういう用途にも使えるのだということを身をもって教えてくれる稀有なバンドであって、それはアキバでとてつもないパワーを発揮しているオタク君たちのようでとても微笑ましい。こういうバンドをすんなりと許容できるアメリカのマーケットもまた微笑ましいし、そういえばアメリカではオタクをgeekといって侮蔑的な意味ではなく特殊な能力をもった人として一目置かれる存在であるということを思い出した。果たして彼らの9月にドロップされる新作を日本市場はヘタレとして馬鹿にするのではなく、ナイーブとして暖かくしかも諸手を上げて受け入れることが出来るのだろうか?


そうあってほしいなと思う。


公家尊裕Takahiro Kouke