毎月たくさんの新人バンドが登場してくるけれど強く印象に残るものはそれほど多くはない。売れているからとか話題が先行しているからとかレコード会社がプッシュしているとかメディアがプッシュしているからとか、そういう外部からの影響のもとに能動的に印象付けしようというアクションがあるものを除けばサウンドだけで勝負して人々の印象に残るというのはそれ相応に難しい。


ロンドン出身の4人組Switches(スウィッチズ)のデビューアルバムHeart turned to D.E.A.D を購入した理由はとてもシンプルで、CDを物色している最中にBGMとして流れていたサウンドがあまりにもカラフルでブライトでおまけに歌メロもギターのリフさえも殺人的にメロディアスだったからである。




近年エア・ギターと呼ばれるギターの弾き真似が市民権を獲得し世界大会というようなものまで開催されて盛況を呈しているのだけれど、更に新しい遊び(エア・ギターをやっている人が真剣なのは理解しているけれど)としてマウス・ギターなんてものが流行すれば、そのネタとして真っ先に使い倒されることになるのがSwitchesだろう。いま大ブレーク中のムーディ勝山よろしくクチだけでギターから歌までをこなすことを勝手にマウス・ギターと命名してみただけの話で、つまりはすべてのメロディがリズムが簡単にクチでコピー可能なほどにわかりやすいということだ。


カラフルではあるけれどサイケデリックでさまざまな色の迷彩感を想像されるとそれは違う。シンプルにカラフル&ビッグ。T-REXあたりのサウンドを2000年代風にモダナイズ解釈してみましたというところか。サウンドは詰まった感じがなくどちらかといえばスカスカに近く、だからこそクチ・コピー可能なほどのメロディがリフが引き立つのだと言ってもいい。音作りがシンプルなだけでなく実は歌詞も驚くほどにシンプルであって歌詞カードを開いてみて驚いたのはたぶん僕だけではないだろう。近年まれにみるほどの文字数の少なさ、同じ単語とフレーズの繰り返し。ことばまでも音のひとつとして捉えているかのようだ。

そうなのだ、サウンドだけでなく歌詞までもが一瞬でコピー可能な作りになっていて確信犯的にやっているとしか思えないのである。


僕らの身体に勝手に切り替えスウィッチを作ってしまうバンドSwitches。そのスウィッチを入れられた瞬間に無意識に身体が反応し、歌とリズムを口ずさみ、気がつくと今日もヘヴィローテーションしている。


一瞬でメロディも英語の歌詞もコピーできる快感は、なんだか自分が写輪眼のコピー忍者“はたけカカシ”になったようでとても嬉しい。


公家尊裕Takahiro Kouke