卒業 | 妄想★village跡地

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めろきゅん企画第十弾『卒業論文』への、提出作品になります。

最後なので、糖度割増しで!!

では、サンドヘルへいってらっしゃいまし~☆


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いい加減卒業しなきゃ、と思う事は沢山ある。


例えば、キラキラに弱い事。

直ぐにメルヘンの世界に旅立ってしまう事。

猪突猛進な所。


状況も忘れて、自分の世界に入ってしまうのはいけないと思う。

直さなきゃと思う。

けれど、もっと早くに卒業しなければならない事が、ある。


「キョーコ、これ…」


現場で貰ったらしいお菓子を、コチラに差し伸べていた彼がそう言っただけで…。


「ひゃゃゃゃゃゃぁっ!!」


名前を呼ばれただけで、飛び上がってしまう…。

この情けない現状を、何とか卒業したいと思うのに…


「くすっ…。まだ慣れない?」


「はひ…」


涙目になる私の頭を、優しく撫でてくれるのは敦賀さん。

恋人になって、もう二か月になるのに彼の声で名前を呼ばれると…。


(心臓、破れそうになっちゃうんだもの!!)


幼馴染に呼ばれる時とは違う。

親友に呼ばれるときとも、違う。

爪先が熱くなって、きゅうっと心臓が踊り出すの。


「早く、なれてよ…。最上さん」


ちょっと呆れた顔をしつつも、優しく髪を撫でてくれる。

その優しさに甘えて、その手の平に頭を押し付けた。

さらさらと動く手が、キモチイイ…。

私があまりにも過剰反応するから、敦賀さんは『最上さん』って呼んでくれる。

申し訳なくて、早く慣れなきゃと思うのに…。


「ごめんなさい…」


甘くて低い声が、私の名前を呼ぶのを思い出しただけで…。


「はぅぅ…っ!!」


顔が沸騰してしまうの。


「最上キョーコさん、落ち着いて」


どう考えても挙動不審の私。

彼は呆れることなく、付き合ってくれる。


「ほんとに…。ごめんなさい…」


「ゆっくり慣れようか。それと同時進行で、俺の名前も呼べるようになってね」


「はぅ…」


それも、大きな課題。

全てをさらけ出してくれた、彼の本当の名前。

幼いころは簡単にいうことが出来たそれを、今は呼ぶことも出来ない。


「練習、しようか?」


「れ、れんしゅうっ!?」


「そう。ちゃんと『恋人』っぽい会話ができるように、名前を呼びあう練習をしよう」


髪を梳いていた手が、頬へ降りてくる。

産毛をなぞる様に、ごつごつした親指が頬を撓めて行く。


「最上キョーコさん」


「……っ…」


形のいい口が、そう名前を刻む。

向い合せに座って、彼の指で顔を固定されているので視線を逃がすことも出来ない。


「ほら、呼んで」


「ぁぅ…」


「もがみ、キョーコ」


滑らかな声が、響く度どんどん耳が熱くなる。

赤くなる。

呼んでと、誘う指は頬から唇に移った。


「ほら…」


「つ、つるがさん…」


苦し紛れに、ついつい口に馴染んだ名前を呼ぶと、唇を摘まれてしまった。

むにゅっとタコの様な形に、撓められたそれ。


「違うよ。次間違えたら…。どうしちゃおうっかな」


にやりと悪い顔になった蓮は、キョーコの唇を離して…。

もう一度、


「キョーコ」


囁かれて、ぶわぁぁっと体中に血が廻ってしまう。

くらくらする頭。


「キョーコ」


「く、く、く…」


何とか呼びたい。

ちゃんと『恋人』らしい呼び方へ、変化させたいと思うのに…。

口から零れるのは、変な笑い声みたいな…。


「キョーコ」


敦賀さんは、怒るでもなく突放すでもなく、ただ待っていてくれる。

私が、『先輩』というくくりから解放されるのを。


「く、く、くっ!!」


酸欠に陥りそうになりながらも、もてもてと動きの悪い舌をなんとか動かして。


「うん。キョーコ」


「く!! くオん、さ、ん」


初めて音にした名前は、なんだか変な響きになってしまった。


「キョーコ」


「くお、んさん…」


「キョーコ」


「くおんさん…」


呼ぶ度に、呼ばれる度に。

心臓が跳ねそうになるのは、変わらない。

けれど、ばくばくというその音すら…


「だいすき…」


「俺も。漸く、呼んでくれたね」


頬をなぞっていた手は、同じに滑り降りて…。

真っ直ぐに絡まっていた視線は、だんだん近くなって…。


「あいしてるよ…」


そっと触れ合った、唇。

本当に些細な事だけれど、これで本当の『恋人』になれた…。

恋愛拒否症からも卒業して、きちんっと彼に向き合うことが出来て…。


色々より道もしたけれど、私の中にはちゃんと『私』が詰まってる。

彼と出会い、彼に導かれ、彼と歩む形で…。


(さよらな、空っぽの私…)


昔の私からの、卒業。



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一年と言う、長いようで短い間。

本当にお世話になりました。

寄稿出来たお話も少なくて…。

ご迷惑をかけてばかりでしたが…。

めろキュン万歳!!


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