傍に居るあなたへ、贈る言葉 | 妄想★village跡地

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めろきゅん研究所の企画、第8弾に遅ればせながら参加させてもらいましたww

お預かりした文字は、


【そ】


めろきゅん度、でろ甘度、控えめに仕上がっております。

今回は胸やけの心配はありませんよ~


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世の中には『ふみの日』と言うものがあるらしい。

手紙の普及と振興を図るために、設けられた数ある記念部の中の一つだ。

番宣を兼ねた取材の中で、教えられたその日付にキョーコは少し目を見張った。


奇しくも封切間近な主演映画は、誤配達された手紙が発端で巻き起こる人々の出会いを描いたものだった。

公開日が『ふみの日』に当たり、尚且つ映画の内容が『手紙』に纏わるものという事もあって…。


「京子さんが、手紙を贈りたいと思う方は…。どんな方なんですか?」


少し前に蓮との交際を発表したこともあり、なんとかその話題を引きだしたいという、番組側の意図が透けて見えるその質問に少しだけ困ってしまった。


「え、っと…」


隠すようは事ではないし、率直に尋ねられた方が答えやすい。

番宣なのに、キョーコの私事ばかり流されるのもおかしな話だ。

どういう答えを返すのがセオリーなのか分からずに、言い淀んでいると…。


「そりゃ、もちろん日ごろお世話になってる人みんなに、だよね?」


横から救いの手を差し伸べてくれたのは、共演者でもある貴島だった。


「えぇ。この映画に係ってくれた人すべてに、お礼のお手紙を出したいです」


何とかそつのない答えを返せたと思ったのだが…、相手も百戦錬磨のインタビュアー。

こんな答えが返ってくるのは、想定内だったのだろう。


「その中でも、特に長い手紙になりそうなのは…、何方ですか?」


「うぅん…。監督…、かな。新しい私を見せてくださいましたし…」


インタビュアーの求める答えを返さず、『優等生』の返答をすれば苦い笑いを落とした。


「俺もそうですね。監督と、共演した皆さんには特に長い手紙になりそうです」


貴島もそう返すと、ようやく諦めてくれたらしい。


「なるほど。では、最後にテレビの前の皆さんに、一言お願いします」


「この映画は、手紙のやり取りを通じて、失われていた人のつながりがよみがえるお話です。暖かく優しい映画に仕上がりました」


「恋人や友人と見るのもいいですが、ぜひ自分の親と見てほしい一本です」


「映画、『かけたてがみ』ぜひ映画館で、見てください」


「よろしくお願いします」


「明後日公開の、映画。『かけたてがみ』主演の京子さんと、貴島さん。本当にありがとうございました」


そんなやり取りの後、開放された二人。

貴島は女性誌の取材が入っているからと、別のフロアへ移動していった。

この後地方ロケの為、新幹線に乗らねばならないキョーコ。

列車の時間にはまだ間があった。


「……寄り道していこう…」


降下するエレベーターの中で、逡巡した後駅のホームではなく、局に隣接されているショッピングモールにつま先を向けた。

そこで目当てのものを購入した後、新幹線が発着する駅に移動する。

そして駅中にあるカフェに入り、先ほど買い求めた便せんを取り出した。

薄く桜の透かしの入った、縦書きの便箋。

それに向き合い、文字を綴って行く。


「……改めて書くと…、難しいな…」


今のご時世、手紙を送ることなどめったにない。

カードとかはあっても、『認める』となると上手く文字が出てこない。

先ほど受けたインタビューで知った、『ふみの日』

その日に当たる明後日は、キョーコは東京にはいない。

だから、愛しい人へ向けて手紙を贈ろうと思ったのだ。


メールや、電話ではなく…。

今どきクラシカルな、手紙を。


小さなカフェの片隅で、暫しの間離れ離れになる人へ向けて…。

言葉を紡いでゆく。





「ただいま…」


しんっと静まり返った室内。

同居人たる恋人は、地方ロケの為来週にならないと帰ってこない。

ずっと一人だったくせに、同居人の存在に慣れてしまうと…。


「こんなにも寂しく感じる物なんだな…」


がらんっとした印象の拭えない、部屋。

暖房を入れ冷蔵庫の中を漁り、作り置きされている料理を温める。

その間に郵便受けに入っていた、新聞や手紙を整理する。

殆どがダイレクトメール。


「…?」


その間に薄い桜色の封筒が姿を現した。

リターンアドレスはなく、悪戯か? とも思ったがあて名書きの文字は、キョーコのもの。

メールでもなく、電話でもなく。

こういう形で彼女からのメッセージを受け取るのは初めてで、少し戸惑いながら、少し心を浮つかせながら。

行儀悪くダイニングテーブルに腰を預けて、封を開いた。

中から姿を現した、揃いの便箋。


『拝啓、敦賀蓮様』


定型の文言から始まる手紙に、蓮はすらすらと視線を流す。


『梅の便りが聞こえてくるこの頃、お変わりありませんか?

って、今朝あったばかりですね。

今回主演した映画を振り返り、私も大切な人に何かを贈りたくて筆を執ってみました。

何時も言葉を交わしていた方に、改めて文字を贈るというのは、思った以上に面映ゆいですね。

勢いで筆を執りましたが、何を贈ればいいのか…』


率直に綴られている、キョーコの言葉。

それを追う度、蓮の顔はだらしなく崩れてゆく。

どうせなら身支度をすべて終えて、ゆっくりと向き合いたいと思った。


「よし…」


半端に腰かけていたテーブルに手紙を伏せ、温めが終わった料理をかきこむ。

そしてシャワーに飛び込むと、手早く体を洗い再びリビングへと駆け込んだ。

シャワーに入る前に落としてあったコーヒーを移し替え、桜色の便箋に視線を落とした。


『色々伝えたいことはあります。

悋気は控えめにしてほしいとか。

ご飯はちゃんと食べてほしいとか。

クーパパと仲良くしてくださいとか。

多分、この便箋に収まらない位。

けれど、今の私が蓮…、ではなく久遠に伝えたいことは、一番伝えたい言葉は、


ありがとう


この言葉です。

文字に直すと、たった五文字ですが色んな『ありがとう』が詰まってます。

傍に居てくれて、ありがとう。

手を引いてくれて、ありがとう。

待っていてくれて、ありがとう。

私を見つけてくれて、ありがとう。

いっぱい、いっぱい。

ありがとうと言いたいことがあります。

面と向かっては中々言えませんが…。

いつもいつも、本当に感謝しています。

これらかも、よろしくお願いしますね。

今度は、ちゃんと目を見て言えるように…。

修行しますので、今はこれで許してください。


まだまだ寒い日が続きます。

ちゃんと髪を乾かしてから、寝てくださいね。


かしこ


愛をこめて。

キョーコより』


「まったく…。君って子は…」


何処までもどこまでも…。

俺の心を浮き立たせるのが上手なのか…。


読み終えた手紙を畳み、己の肩を抱く。

この広い家で、自分が一人だという事を…、改めて強く感じたからだ。


「会いたくなるじゃないか…」


愛には行けないけれど…。

声を聴きたいと、思ってしまう。


「手紙は、また別に機会にね…」


形に残る手紙もいいが、今すぐに彼女と繋がりたい蓮は簡単な手段を選んだ。

手にした携帯から、アドレスを呼び出し流れるコールをじりじりと聞く。


(繋がったら、すぐに言おう…)


軽い電子音の後、繋がった電話。


「もしもし、キョーコ?」


『今晩は、蓮さん』


「あのね、俺も伝えたい言葉があるんだ」


蓮が告げた言葉。

キョーコの『ありがとう』と、同じ五文字だがもう少し重たい言葉だ。


「帰ってきたら、まだまだ伝えたい言葉がある。だから、早く…」


『まってて…、ください』


電話越しにも、キョーコが息も絶え絶えになっているのが分かる。


贈りたい言葉は、形こそ違えどそこに籠る思いは一緒。


沢山の『大好き』と『愛してる』が詰まっているのだから。



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あんまり甘くないですね~。

むむむっ…。

次は、糖度割増しで頑張ります~。


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