『「リク魔人」の妄想宝物庫
』のseiさんよりお預かりした、罠お題です。
完結しましたが、その後日談になります~
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色々あって結婚にこぎつけた蓮とキョーコ。
ゆっくりと手を繋ぎながら歩いた道のりは、10年にもなっていた。
蓮は父親同様、着実に経歴を重ねて仕事の半分はハリウッドになっている。
キョーコも映画や舞台を中心に活動を重ね、今やなくてはならない存在になり芸能界に降臨し続けている。
「10年目の記念の年なんですし…。一番最初に戻ってみませんか?」
恒例になっている、夏の旅行。
二人で色々な場所を巡った。
有名な観光地も、人に知られていない秘境も。
様々なところを巡り、記念の年にはどこに行こうと様々なガイドブックを捲っていた。
夏にスキーが出来るここもステキだとか、いっそ冬の南半球に行ってみないかとか。
ああでもないこうでもないと、額をくっつけて旅行の日程を考えつつ言い合っていた時、キョーコがそう言いだした。
「一番最初…?」
「えぇ。プロポーズされたあの砂漠に…、また行きたいんです」
そう言ってキョーコはソファから立ち上がり、寝室に備え付けられている本棚を漁って古いガイドブックを持って来た。
「この景色を、もう一度見たいなぁって…」
少し縒れたそのガイドブック。
開き癖の付いたそのページには、夕日に焼けた砂漠が写っている。
「あぁ、確かに。あの光景は圧巻だったからね」
「でしょう?」
すっと近寄ってきたキョーコの頭。
見える旋毛に、そっとキスを落とす。
「いいよ。ここにしよう。…プロポーズの地で授かる子供っていうのも、素敵だしね」
「…もう…。そんなの、分からないじゃないですか…。授かり物なんですから」
何時もより長い休暇は、そろそろ『子供を授かりたい』という二人の希望をすり合わせて取った結果。
二人で仕事に向き合って、互いを大事にしながら歩いてきた10年。
長いようであっという間だった、10年。
そろそろ次のステップに進もうと、そういう流れになったのも自然にだった。
「俺は頑張るつもりだけど?」
「砂漠に散歩に行ける位の体力は、残してくださいね?」
「善処します」
「そうしてください、旦那様」
10年たっても、新婚字と変わらず仲のいい会話を重ね、旅行の計画を詰めはじめたのだった。
「……変わりましたね…」
10年前にも訪れた街。
古の街としても名高いそこの様子は、少し変わっていた。
ホテルの部屋から見える、街と砂漠の境界線が記憶の中にあるそれよりずれている。
「だね…。やっぱり砂漠に飲まれてるのかな…」
砂漠の淵に立つこの街は、常に砂と闘っている。
風に乗り柔らかく動く砂。
一粒は小さくても、数が数。
飛んでくるそれを防ぐことも出来ず、この街は少しずつ後退していた。
「砂漠は綺麗ですけど…、怖いですね」
「遊びに行くのをやめて、ずっと寝室に籠ってる?」
ホテルの窓辺に釘図けのキョーコを、背中から抱きしめてからかう様に唇を素肌に遊ばせる。
「もう!! 馬鹿言ってないで!! 砂漠に行きましょう」
「はいはい。奥さん」
振り上げられたキョーコの拳。
それを甘んじて受けながら、蓮は砂漠用の服に着替える。
キョーコもこの国の伝統にのっとった衣装に、着替えていた。
砂漠でのアクテビティは、10年前と同じ。
ラクダに乗り、ガイドの張ったテントで星空を楽しむ。
「この景色は…、変わりませんね…」
濃紺の上に散りばめられた、銀河。
降って来そうなそれを見上げて、キョーコはため息を零した。
「だね…」
蓮もキョーコを膝の上に置き、空を見上げる。
今宵も流れ星が行く筋も、尾を引いていた。
「今回はお願い事しないの?」
「…しましたよ? 一個だけ」
そのお願いも聞いてみたいが、決して教えてもらえないだろう。
それは見えていたので、違う質問をしてみることにした。
「そう? ねぇ…・、ずっと気になってたんだけど…」
今更聞いてもいいのか。
今更聞く必要があるのか。
逡巡するが。
心に引っかかっているものは、なるべくなら消してしまいたい。
キョーコに纏わることなら、尚更だ。
「なんで、ここに着たい言ったの? 流れ星に願いをかけるため…?」
キョーコの好みとは、少し外れたこの砂漠の街。
来たいと言った理由が、知りたかった。
「…………砂漠が見たかったんです。砂漠って、私に…似てるなって…。だからどうしても、見たかったの…」
「似てる?」
「うん」
さらさらしてるくせに、つかめない。
風が吹くたびに、姿を変える。
「オアシスを探して、歩き回ったら。蜃気楼に捕まって…。回り道をして…。一人じゃ歩けなくて、どうしようもなくて…ぐずぐずになっていたら、オアシスに連れてきてもらえたの。その気持ちを、その感覚を『幸せ』になることで薄れさせたくなかったんです。だから、感じて刻み込もうと思って…」
「そう…」
「それに、あんなに大きな街なのに、こんな小さな砂に負けそうになってる」
そう言ってキョーコは、砂を一掬い手のひらに掬った。
緩く吹く風に、流れてゆく。
「変わらないものなんて、無いんだなっていうのも…。分かりました。変わらないために、努力しなきゃいけないって」
一掬いの砂は、あっという間に大きな海に混ざって消えた。
「流れ星に願ったのは、おまけ…、みたいなものです。自分への誓い、かなぁ…」
「どんなことを願ったの?」
夜空と砂漠の境目に彷徨うキョーコの眼差しは、10年前に戻っている。
蓮が傷つけて、脅えている少女だ。
「ん…、幸せが続きますようにとか。一秒でも長く、傍に入れますようにとか。そんなちっちゃなことです」
そう言って、蓮を振り返った視線は『今』のキョーコだ。
幸せを体いっぱいに詰めて、それを大事に抱えて守り育てている、蓮の大事な妻。
「そう…」
大事な大事な女性の体を、両腕で抱きしめる。
強く、強く。
「…? 痛いですよ…?」
その腕の強さに、キョーコがそう抗議するが蓮は腕を緩めない。
(ごめんね…)
ふわふわと幸せそうに笑うから、ちっとも気づかなかった。
そんなに深く傷ついていたなんて…。
傷は癒えたのではなく、それを抱きかかえながら傍に居たなんて…。
「大事にするから」
「十分大事にしてもらってますよ?」
「もっと、幸せにするから」
「じゃぁ…、可愛い赤ちゃん期待してますね」
きつく回っていた蓮の腕に、キョーコのそれが重なる。
「俺とキョーコの子供なんだから、可愛くない訳ないだろう?」
「ふふっ…。そうですね」
腕の中で幸せそうに笑い、子供が出来た後の事をあれこれと話し出すキョーコ。
その旋毛を見ながら、蓮も流れ星に誓いをたてた。
(この人を、二度と泣かせません)
すぅっと、尾を引き消えて行った流れ星。
蓮の願いを乗せて、宇宙の何処かへ旅に出たのだろう。
もし、その流れ星がこの空の上に来ることがあったら…。
(この人が笑っているかどうかを、確認してください)
キョーコに気付かれないようそっと、髪の毛に唇を落とした。
今まで以上に、大事にするとの誓いを込めて…。
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キョコが砂漠を選んだ理由への質問が、ちらほらあったので…。
書いてみました~。
こんな、感じです。皆様の推測に沿ってるといいんですが…
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