『「リク魔人」の妄想宝物庫
』のseiさんよりお預かりした、罠お題です。
長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません…。
魔人さんの書かれた一話の続きを、書いて行きたいと思います~
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羽虫の様にキョーコに群がる、キャスターたち。
相手の男にも同じように群がっているが、向こうにはマネージャーと言う守りがいた。
けれどキョーコには、誰もいない。
「キョーコさん、あの記事は本当なんですか!?」
「一体どうなってるんですか!?」
売出し中の女優の、初スキャンダル。
どのマスコミも特ダネとして扱っていた。
他にネタがなかったのも、有るのだけれど。
肩を縮こまらせて、もみくちゃになるキョーコの姿がモニタに移っていた。
『事務所サイドから出されたコメントには、『仲のいい友人として、お付き合いさせてもらっている関係です』と発表がありましたが…。どんなふうに、仲のいいお友達なんでしょうね? それに京子さんはまだ高校生ですから。こんな深夜に、連れ回すなんて…。『ただの』お友達じゃないことは明白ですよね。ねぇ、そう思いませんか?』
スーツを着た司会者がコメンテーターに水を向けると、したり顔で口を開いた。
そのたるんだ顔から言葉が発せられるのを待たず、蓮はテレビの電源を落とした。
「………」
何の感情もみせない表情で、傍らに置いてあった携帯を手に取り操る。
呼び出した番号は、『最上』
何度かけても繋がらない、その番号に呼びかけることを止めない。
時間があれば電話をかけて、留守電にメッセージをのこす。
沢山吹き込んでも、還って来たことはないけれど…。
それでも。
「もしもし…」
今どこにいるのか。
ちゃんと寝起きで来ているのか。
辛いことはないか。
かけたい言葉は沢山ある。
けれど、口からは何一つ溢れることはなかった。
「…今度、会いたい…」
何とか絞り出したその言葉も、きちんと吹き込めたかどうかわからない。
本当は駆けつけたい。
誰よりも、問質したい。
なにより、何であんな男を選んだのか聞きたいし、あの男に『ネクタイ』を贈ったのか、聞きだしたい。
「くそ・・・・」
携帯を閉じて、自身の膝に頭を埋めた。
身動きが取れない自分に、いらいらする。
頼ってくれないキョーコに、いらいらする。
理性ではわかっているのだ。
報道陣が飛び交っているキョーコの周りに自分が行っても、何も良い事はないと。
スキャンダルの種を植え付けるだけだと。
キョーコの方も、それが分かっているから蓮には頼ってこないのだろう。
…そうだと、思いたい。
「…避けられてるなんて…、思いたくない…」
膝から頭を上げて、くすんだ天井を見つめる。
ぐるぐると思考の渦に嵌り込んだ蓮は、どんどんマイナスな方へ傾いて行く。
「やっぱり、嫌われたのか…?」
最後にあった夜の、キョーコの涙。
気配すらつかめない現状。
それらが入り混じって、蓮の心に焦燥感を産む。
焦れば焦るほど、足は動きだしそうになる。
形振り構わず走り出して、捕まえて。
張り巡らされたバリケードを、壊して回りたい。
「せめて…、隣に帰ってきてほしい…」
気が付けばいつも近い位置にあった、キョーコの気配。
それがないことが、たまらなく堪える。
重苦しいため息を天井にぶつけた時、ノックの音が響いた。
撮影の順番待ちだったため呼びに来たのかと、何とか気持ちを入れ替えて扉を開けた。
けれどそこに立っていたのは、時間に追われて焦っているスタッフではなくて…。
「琴南さん…」
キョーコの親友である、女性だった。
少し硬い表情で、いいですか? と問うてきた彼女。
断る理由なんて、何処にもない。
楽屋に招き入れ、席を進めると躊躇うことなく腰を落とした。
その所作の端々に、苛立ちが見て取れる。
「単刀直入にお聞きします。敦賀さんは、キョーコの事が好きですか?」
あまりにも唐突なその質問に、蓮は面食らってしまった。
からかっているのかとも思ったが、彼女の目は真剣だった。
射抜くようなそれに、気圧されて思わず居住まいを正して。
「好きだよ。好きじゃなきゃ、追いかけたりしない」
馬鹿正直に、何も包み隠さず答える。
すると、鋭い針の様だった彼女の視線は緩んで…。
「であれば、これをお渡ししておきます」
バッグの中から一枚の紙を取り出した。
そこに記されていたのは、会社が社宅として借り上げてる住宅のもの。
「社長が陣頭指揮を執ってくださってるので、まだ嗅ぎつけられていません。変な方向へ歩いてるあの子を、引き戻せるのは敦賀さん、あなたなんです」
「変な方向…?」
「貴女の傍に居るために、恋人を作らなきゃいけないんだって。あの子思いつめてました。そう思い込んだのも、貴方が原因ですよね? その変な思い込みから、開放してあげてください」
蘇るのは、キョーコの涙と。
悲しげな言動。
そこまで思い込ませてしまったのが、自分だと思うと…。
「…本当に…すまない…」
「謝るのは私にじゃありません。慣れないことをして、傷ついてるあの子に。誠意を見せてください」
「あぁ。もう、大丈夫だから」
「そうであることを、期待してます、では。私も撮影があるので、これで失礼しますね」
そういうと奏江は来た時と同じく、迷いのない足取りで歩き去って行った。
その背中に見とれていたら、入れ違いに社が帰って来た。
「お客さん来てたのか?」
「えぇ…。背中を、押されました」
その言葉と、表情で伝わるものがあったのか…。
社は何も言わずに、撮影が始まると伝えてきた。
(…もう、迷わないから。君の手を引けるよう、頑張るから。待ってて…)
揺らがない瞳の先に見える未来は、一つしかない。
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