『「リク魔人」の妄想宝物庫
』のseiさんよりお預かりした、罠お題です。
長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません…。
魔人さんの書かれた一話の続きを、書いて行きたいと思います~
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「結構美味しいんだよ」
そう言って連れてこられたお店は、高級店ではなく居酒屋に毛の生えたような店だった。
店員に案内された個室は、少し狭い作りで掘り炬燵になっていた。
(恋人席…、って事なのかしら…)
ほんの少し身じろぎしただけでも、触れ合う肩の距離にキョーコは戸惑う。
まずは乾杯しようかと、広げられたメニュー。
互いの覗き込むと、ふわっと触れ合った髪。
(あ…違う…)
咄嗟にそう、思ってしまった。
本当に条件反射で、何が違うとかどこが違うとか。
明確な何かがあったわけではない。
殆ど条件反射で、そう思ってしまったのだ。
そんな自分が後ろめたくて、申し訳なくて…。
熱心にメニューを覗き込む。
彼はまずビールだといい、キョーコはアップルマンゴーを頼む。
ほどなくして運ばれてきたグラスを触れ合せて、当たり障りのない言葉で乾杯をする。
「ぅぅ~~!! やっぱこれだね!! 京子ちゃんも、早く飲めるようになるといいね」
一杯目を瞬く間に飲み干し、二杯目をお代わりする。
実に美味しそうに、飲み干すその姿にキョーコは思わず見とれてしまった。
「美味しそうに飲みますね」
そう言えば、『彼』がビールを飲むところあまり見たことがなかった。
(こんな風に、飲むのかしら…)
ほどなく運ばれてきたビールを、また美味しそうに飲む姿を見て脳裏に過る疑問。
『恋人候補』の人といるのに、キョーコの心に居座る男の影がちらついて離れない。
事あるごとに気配をにおわせて、キョーコの心を、覚悟を揺さぶる。
(いけない…)
また蓮の事を考えていた自分に気づき、ぷるぷると頭を振る。
突然のキョーコの行動に、目を丸くしているのが見えたが何でもないと、誤魔化し笑いを浮かべてお茶を濁す。
すると、何を勘違いしたのか。
「あ、ひょっとして飲んでみたかった? そういうお年頃だもんね」
そう言って、半分くらいになったそれをキョーコに差し出してきた。
キョーコは興味の欠片も無かったので、断るけれど。
「まぁまぁ。一口だけなら、いいんじゃない? ココには俺しかいないんだし」
先日酒を勧めなかったのは、『世間の目があって芸能人としての世間体』に係るからであって、『二人だけの今日この空間は、無礼講』という腹積もりなのだろう。
(…こういう、人だったんだ…)
垣間見えた、『本性』に少しキョーコの心が冷える。
けれど、彼を構築する『ほんの一部分』にすぎないと目をつぶることにした。
未成年だからと言う理由で、酒を固辞して。
適当に頼んだ料理に箸をつける。
「へぇぇ…、綺麗ですね」
フレンチやイタリアンの要素を取り入れた、創作和食は目にも鮮やかだった。
キョーコの慣れ親しんでいる、『おばんざい』とは色彩から違う。
味は普通だが、食事は目で食べる物でもある。
「こんなに綺麗だったら、食べるのも楽しくなりますね」
醤油以外で食べる刺身や、こってりとしたディップソースで食べる野菜。
そのどれもが目新しくて、キョーコは顔を輝かせた。
「だろ? 奇抜で嫌だって人もいるけど、俺は結構好きなんだ」
「お食事って目でも楽しむものですものね」
他愛のない話に始まって、仕事の話や面白いスタッフの話。
色んな話に花が咲く。
その時にも、蓮の気配が目の前を横切る。
こんな話をしない、とか。
こんな風に食べない、とか。
何度追いやっても、追い払っても。
(消えてくれない…)
彼の影にちらつく、蓮と言う男の気配にキョーコは泣きそうになる。
(好きでいる事すら許されないのに…。早く忘れなきゃいけないのに…)
奏江や千織の言葉が、頭の中で響く。
『それって、相手に失礼じゃない?』
『まぁまぁ。上手くいくかもしれませんよ? 一生自分を騙すことが出来れば出すけど』
出来ると思っていたけれど。
女優魂で何とかなると思っていたけれど。
(…………)
狭い掘り炬燵の中で膝が触れ合うたび、ぞわっと鳥肌が立つ。
怖気のような、嫌悪感のような。
何とも言えないそれから逃れるため、何気なさを装って距離を取るけれど。
狭い中では逃げ場も限られてくる。
追ってもくるそれから逃げるすべはなく、ぴったりと膝を張り付けたまま食事を取らなければならなくなった。
(……………モー子さん達の、言うとおりだったのかな…)
意識すれば口数は減り、食事も砂を噛む様なものになった。
ため息を堪えるのが、精いっぱい。
(いい人、なんだけどな…)
ジュースからお茶に変えたグラスを傾けて、その中に堪えていたため息を流し込む。
「でさ…」
彼はそんなキョーコに気付くことなく、酒に赤くなった顔で饒舌に語っている。
半ば呂律の妖しいそれを聞きながら、キョーコは強く思った。
(敦賀さんに、会いたい…)
それが全ての道しるべで、何も飾ることがない、紛うことなき本心。
けれど、彼の誘いに乗った時点で引き返すすべはない。
(いいひと、だもの)
キョーコに良い所を見せようとしているのか、恰好を付けたいのか。
次第に自慢話ばかりになってきたそれに、品性が見えた。
(いいひと、なんだもの…)
何時まで続くか分からないそれに相槌を打ちながら、キョーコは進まなくなった箸をおいた。
「しっかり、歩いてください…」
ゆっくりたっぷり食事を終えて、後にした店。
ほんの数メートル先では、タクシーが扉を開いて待っている。
酔いに酔った彼を抱えながら、その扉を目指してキョーコは歩いていた。
千鳥足の彼の歩行は定まらず、ゆらゆらと危なっかしい。
「きょ、こ…、やん…」
益々怪しくなった呂律。
それに返事を返す余裕は、今のキョーコにはない。
支えるので精いっぱいだから。
ほんの少しの距離が、とても遠い。
酒臭い彼の呼気に、キョーコも酔いそうになる。
「もう少しですから…、しっかり・・・・」
支えて歩く間、誰かに見られている気がしたが気にして振り返る余裕もない。
何とか載せて、運転手に彼を預ける。
一緒に帰ろうと、言われたけれど酔っ払いの戯言と、相手にしないで扉を閉める。
そして、間をおかずにやって来たタクシーに乗り込んで
「ふぅ…」
自宅に帰るべく、走る車に身を委ねたのだ。
「・・・・なに、これ…」
朝のニュースに飛び交う自分の名前。
どれもセンセーショナルに、『熱愛報道』と題していてスキャンダルの匂いがプンプンする。
「どういうこと…?」
歯磨きをしていた手を止めて、テレビを食い入るように見つめる。
大きくモニタに映し出されるのは、週刊誌に掲載されている写真。
「あ!!」
酔った男をキョーコが抱えている、写真だ。
それがもとに、『熱愛報道』が広がっているらしい。
「どう、しよう…」
面白おかしく語る、キャスター達の顔。
ありもしない事実を掻きたてる、週刊誌。
暴き立てられる恐怖に、キョーコは呆然とし…。
「そうしたらいいの…? 敦賀さん…」
助けを求める気持ちは、あの男へ向かっていた。
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お題の方向性を、大きく間違えている気がしてきました…orz
↑お気に召しましたら、ぽちっとww