『「リク魔人」の妄想宝物庫
』のseiさんよりお預かりした、罠お題です。
長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません…。
魔人さんの書かれた一話の続きを、書いて行きたいと思います~
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「恋を、したいんだけどな…」
呟いた言葉は、真っ白い吐息の中に消えた。
蓮の家に招かれて、男性に贈るもののアドバイスを受ける日。
エントランスの近くに植えられた生垣に腰かけながら、手にしたホットコーヒーの缶を握りしめる。
前なら絶対思わなかったであろう。
でも、今は何が何でも『恋』がしたい。
いや、しなければならない。
何よりも大好きで、慕う人に嫌われないために。
その何より慕う人によって、ざっくりと切られた心は今でも痛む。
彼がくれたその痛みすら、嬉しいと思ってしまうのだからどうしようもない。
「…どうしたらいいのかしら…」
恋を否定して、がちがちに身を固めていたキョーコ。
尚を思っていた時も、蓮を慕っていた時も。
意識せず恋に落ちていた。
だから、改めて『恋をしよう』と思ってもどうしたらいいのかが分からない。
ただ『恋をしよう』と決めてから、共演する俳優陣やお世話になるスタッフの方々から、よく声をかけられるようになった気がする。
色々な誘いをかけられるようになり、広がった交友関係。
嬉しいし、楽しい。
「でも、ドキドキしないの…」
この決心をしてから、社長にも何度か会っているが『卒業』の言葉は出てこない。
きっと見抜かれているのだろう。
「嘘の恋なんて…、相手にも失礼なのかな…」
大分温くなった缶を頬に当てると、じんわりと温まってくる。
「でも、よく言うものね。失恋を忘れるには新しい恋をするのが一番って」
きっと彼に伝わってしまったのだ。
『後輩』と言っておいて、誰よりも近い場所にいる優越感に浸っていたことに。
『尊敬』と言う言葉を使って、甘えきって頼り切っていたことに。
ちんけで歯牙にもかけない女から、そんな好意を寄せられて困惑していたのだろう。
「馬鹿ね、キョーコ。何度もふられて…。それでも気づかないなんて…」
思い返せば、蓮の言葉の端々に兆しは有ったのだ。
鈍くてどうしようもない自分が、気づかなかっただけ。
「本当は…、来たくなかったんだけど…」
通いなれた蓮の家。
蓮の上に恋心があるうちは、来たくない場所だった。
少し静まりかけたそれが、また燃え上がるに違いないのだから…。
「どきどき、したいな…」
貴島もいい人。
村雨もいい人。
「すっごくいい人」
光もいい人。
社もいい人。
「でも、違うのよね…」
蓮の様に、目があっただけでときめかない。
気配を感じただけで、心臓が破れそうになったりしない。
褒められたら浮かれて、舞い上がったりしない。
触れられて、体温が上がったりしない。
「忘れなきゃ…。めいわく、かけられないもの…」
一人で蓮を待っていると、彼が付けた傷口が疼きだす。
その痛みを耐える気配こそが、今のキョーコが醸し出す色香の源。
ナツや雪花を演じていたせいもあって、滲み出るそれに誘惑される男が羽虫の様に寄ってくるのだ。
「うん、がんばろう…。恋する相手位、自分で見つけるもの…。」
その位、自分で出来る。
恋する男に、『恋人』を宛がわれるなんて悲しすぎる…。
手にしていた缶を手の中で転がして、一度開いたパンドラの箱に鍵をかける。
そこに封じたのは『蓮への恋心』
しっかりと鍵をかけて、封をして。
「あ、きた…」
見慣れた車影がキョーコの視界に飛び込んできた。
恋しく思う相手。
傍に居たいからこそ、キョーコはそれを押し殺す決断をしたのだった。
悲しいぐらいすれ違う二人。
その二人の行く末は、まだ見えない。
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