キョコ誕話デス~。
キョコちゃん、お誕生日おめでとう!!
早く幸せが訪れますように!!
めろキュン第7弾企画への、参加作になりますが…。
めろはどこ!?
きゅんってなに!?
毎度のことながら、迷走中でございます★
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一人暮らしを始めて初めての誕生日。
一年で最も心浮かれる時期に、キョーコは一人寝込んでいた。
「けふんっ!!」
くしゃみをするたびに、体の節々が痛む。
頭ももうろうとするし、ずるずると流れ出る鼻水の所為で息をするのも苦しい。
「もぉ、やだ…」
おでこには『ひえひえ君』を張り、口鼻には高性能マスクを装備。
熱っぽい顔をしながら布団に包るキョーコの姿は、正しい病人の姿。
「誕生日なのに…」
壁に掛けられているカレンダーの日付は、12月25日。
キョーコの誕生日当日で、グレイトフルパーティの当日だ。
部屋中を彩っている、クリスマスの飾り付けが眩しく虚しい。
「へっぶしゅん!!」
潤んだ瞳でカレンダーを見た後、時計を確認する。
カチカチと規則正しく動く針は、11時34分。
「終わっちゃう…」
誕生日も、楽しみにしていたパーティも。
今年も下準備から参加して、メニュー作りにも参加して。
今年はコックコートではなく、ドレスで参加できるよういろいろ準備したのに。
大風邪を引いて参加できないなんて、何てついてないのだろう。
自分の運の無さに、辟易する。
「うぅ…」
ぼわぼわする頭をなんとか持ち上げて、携帯を持ち上げた。
新着のメールはなく、込み上げてくる悲しい気分を飲み込みながら受信ボックスを開く。
そこにずらっと並んでいるのは、親しい人たちからの心配とお祝いのメッセージ。
モー子に千織に、マリアに百瀬。
貴島に緒方監督、社。
ローリィや光などもメッセージをくれているのに、肝心の人からのメッセージが、ない。
改めてそれを確認して、悲しい気持ちが募る。
「どうして…」
キョーコのガードを軽々と飛び越えて、大事に大事に守ってきた大切な場所を踏み荒らして。
その大きな足で消えることのない痕跡を残して行った、男。
何時もは誰よりも先に、キョーコの傍に来てくれるのに…。
『25日』が終わろうとしているのに、彼からの連絡はまだない。
朦朧とした頭は、すぐに悲観的な方へと走り出す。
「好きって言葉を素直に受け入れなかったから? お付き合いしてくださいって言葉を、すぐに受け入れなかったから?」
熱で溶けた頭は、悲しい想像をいくつも思い浮かべてぼろぼろと涙をこぼす。
涙は枕とマスクに吸い取られて姿を消すが、それを生みだした気持ちは胸の中で凍りついた。
「わたしの、ばかぁぁ…」
騙されているんじゃないか、また遊ばれているんじゃないか。
そんな猜疑心が素直に頷かせなかったのだ。
今はそれが、猛烈に悔やまれる。
「そうしたら、メールぐらいくれたかもしれないのに…」
鼻をぐしゅぐしゅ言わせながら、一人静かに涙をこぼす。
うめき声を上げながら、もう二度と会ってくれないのではないかと悲しい考えにまで思い至ってしまう。
ガンガンなる頭と、痛む節々。
それらを細い体に押し込めながら、一人布団の中で啜り泣く。
「さみしいよぅ…」
風邪で弱っているときは、思わぬ本音が飛び出すもの。
「あいたいよぅ…」
そして、ぎゅっとしてほしい。
あの優しい声で、大丈夫だよって言ってほしい。
そうすれば、風邪なんか吹っ飛ぶに違いないのだから。
「…そう思うなら、メールをくれないかな?」
「ふえ!?」
一人のはずのこの家で、自分以外の人間の声が聞こえるはずがない。
慌てて声のした方を見れば、蓮と奏江の姿があった。
「なんでぇ…」
綺麗にドレスアップした二人の姿は、和室の中でひどく浮いて見えた。
「あんた、泊りに来てって言って鍵預けてたでしょ? まったくもう!! そんなに具合悪いなら、ちゃんと言いなさい!!」
そんな話もしたが、キョーコが体調を崩したため断ったはずで…。
預けた鍵は後日返してと、言っておいたはずで…。
なんで奏江と蓮がここにいるのか、上手く飲み込めない。
奏江がぷりぷりしながら、キョーコの枕元に膝をつく。
大分温くなったひえひ君を変えてくれて、浮いた汗を拭ってくれる。
「まったくもう!! 敦賀さん、お願いします。こんなに具合が悪いなら、一人にさせておけません」
奏江はキョーコのおでこを小突くと、蓮を振り返った。
蓮も動じることなく、キョーコの傍に寄ってきて熱のこもった体をそっど抱き上げる。
「こんない具合が悪いのに、一人にしておけないだろう? 俺の家においで」
「私は明日からロケなの。だから、敦賀さんの家で『大人しく』看病されてなさい。帰ってきたら、誕生日お祝いしましょうね」
何度か来たことのある奏江はタンスの中を漁って、必要最低限のものを紙袋に詰めてゆく。
「れも、うつったら…」
「大丈夫。高熱で魘されてる人を、残してゆく方が心配だよ」
軽々とキョーコを抱き上げて、玄関をくぐる。
奏江も荷物を詰めた紙袋を片手に、玄関を出た。
そして、鍵と紙袋を閉じると蓮に手渡す。
「じゃぁ、敦賀さん。よろしくお願いします」
「うん。琴南さんも気を付けて」
「いえ。キョーコもまたね」
そう言って、呼んでいたタクシーの中に消えてゆく奏江。
その後ろ姿が消えるのを完全に確認してから、蓮も自分の車の中にキョーコを乗せた。
「寒くない?」
毛布でぐるぐる巻きになっているキョーコ。
苦しくないようにと、甲斐甲斐しく調整してくれる。
「だい、じょうぶです…。あんまり…、見ないでください」
綺麗に着飾った蓮の隣にいる自分が、恥ずかしい。
(顔だってぐちゃぐちゃで、髪もぼさぼさだもん…。それにきっと、汗臭い…)
風邪を引いてる状況ではどうしようもないけれど、恋する相手には見られたくない姿だった。
毛布の中に体を埋めるようにして、蓮の視界になるべく入らないように身を縮こまらせる。
「そんな姿も可愛いよ。遅くなってごめんね。風邪ひいてるって知らなくて…。グレイトフルパーティにいないのも、てっきり裏方にいるからだと…」
謝りながら蓮はぼさぼさの髪を梳いてくれた。
あの綺麗な指が、汚れるのが嫌で首を縮こまらせるけれど…。
何処までも追いかけてくるそれ。
「一番最後になっちゃったね。お誕生日、おめでとう。キョーコ」
小さく小さくなったキョーコの頭に、そっと触れたなにか。
前髪を擽った顎に、キスされたのだと知る。
「ふぇ…」
普段と変わりない優しい触れ合いに、先ほどとは違う涙が零れだす。
蓮はその涙に気付いているはずなのに、唇を触れ合せたままハッピーバースデイの歌を、歌ってくれる。
囁くような声で。
キョーコにだけ、捧げられた歌。
その優しく甘い旋律は、熱に浮かされたキョーコの頭をさらにぐずぐずにしてゆく。
「まにあって、よかった…」
見ればデジタルの時計は、11時58分。
あと少しで誕生日が終わってしまう。
「…つるがさん、まだ、わたしのこと、すきですか…?」
平時なら絶対に尋ねることのできないそれも、熱に浮かされている今ならするりと聞ける。
「勿論。愛してるよ」
間髪入れずに帰ってきた返事。
「も、一回。ゆって…」
キョーコが強請れば、
「何回でもいうよ。君が信じてくれるまで、何回でも。何度でも。愛してる、愛してるんだ」
旋毛から離れた唇は、額を通り頬を通り抜け顎に至る。
そして、視線を絡めたまま何度も何度も囁かれる、愛の言葉たち。
魂の底から絞り出される言葉たちを浴びて、キョーコは静かに涙を流す。
「わ、たしも…、大好き…」
熱のこもった声は、がさがさでみっともない事この上ない。
けれど、彼に応えたいと。
彼の思いに重なり合いたいと、思ったのだ。
何より強く。
「・・・・っ!!」
吐息が触れ合う位、間近に会った彼の体が大きく揺れた直後きつく、息も出来ないほど抱きしめられる。
「も、一回言って…。いや、いい。熱が下がったら、もう一回聞くから。その時、まで…」
痛い位抱きしめられたのは、ほんの一瞬。
彼は苦く苦しい顔をしながら、キョーコを解き放つ。
熱に浮かされて、心細さから出た一言だと思ったのだろう。
奥歯をきつくかみしめながら、ハンドルを握る彼の横顔を見つめていると
(あぁ…、私ひどい事してきたんだなぁ…)
そう言う実感がわいてきた。
彼の優しさに甘えて、辛い思いをさせていたことも。
静かに発進した車に揺られながら、ぼんやりと蓮の横顔を眺める。
「何度でも、聞いてください…。私も、なんどでもこたえますから…」
ゆらゆらと車に揺られていると、ゆっくりとした足取りで睡魔がやってくる。
心地よいそれに身を任せながら、呟くと
「そう期待してるよ、お姫様。目が覚めた時、ちゃんと覚えて…」
蓮が何か言っているが、睡魔に引き込まれているキョーコにはもう聞こえない。
(こんどは、わたしがしんじてもらうばんだもん)
とろとろとした夢の世界へ引き込まれながら、キョーコはぼんやりと思う。
(ついてないと思ってたけど…、今年ほどスペシャルに過ぎた誕生日はないかも…)
体の中にあった『寂しい』も『会いたい』も、何処にもない。
代わりにあるのは、『大丈夫』と『嬉しい』の気持ち。
(わたしの、だいすきだって…、まけてないんですから…)
むにゃむにゃと呟いた言葉は不明瞭で、蓮には届かないけれど。
二人で紡ぎだす時間は、これから無限にあるのだから。
何度でも、何回でも言えばいい。
それだけの事。
(これからずっと一緒にいられるんですよね…?)
蓮からの返答はなかったけれど、優しく丁寧な運転が『そうだよ』と言ってくれている気がした。
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