雨の帳と湯気の向こう 上 | 妄想★village跡地

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魔人様のリクエスト。

「湯気の中で(仮)」←便宜上つけただけ


蓮からの告白済みで、キョーコの返事待ちという微妙な時期。季節は冬。
マンションの前で言い争いになり、土砂降りの中、キョーコ走り去る。
そしてそれを蓮が追い、近くの公園で捕まえるがそこでも言い争い。
二人共ずぶ濡れで、震えが止まらない程冷えてしまう。
なんとかキョーコを連れてマンションの部屋に帰った蓮。
服を着たままキョーコを連れ、お風呂場に直行。

つるっとどぼんで、行ってきます★


魔人様に捧げます



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二人の間に漂うのは微妙な緊張感。

原因は、先日の告白。


『結婚を前提に、お付き合いしてください』


逃げ道を全部ふさがれて、追い詰められて告げられた言葉はキョーコの頭に一度では入らなかった。


『えっと・・・。お芝居の練習ですか?』


『違うよ、最上キョーコちゃん。君に、プロポーズしてるんだ』


誤魔化さないで、逃げないで。

長い腕を壁に付かれて、その間に囲われて。逃げを打つキョーコの脳みそにしみるように蓮は何度も囁く。


『大好き、愛してる。初めて会った時から、ずっと』


『あう・・・』


『理解してくれた?』


半ば耳たぶに口付られるように囁かれながら、キョーコは必死に頷いた。


『返事は急がないよ。でも、逃げたら許さないからね?』


『ひぃぃ・・・・・』


とびっきりの笑顔でささやかれて、キョーコの笑顔が固まる。


そんなやり取りの後、どことなくぎこちない二人の距離感。

いや、正確にはべったべたに甘やかす蓮に往生際悪く逃げようとするキョーコ。

そのやり取りが、ぎこちなさを産むのだ。


(こんな風になるくらいなら、後輩のままでいたかったわ・・・)


自分がはっきりしないせいで、こんな風になっているのは自覚しているけれど。


(今はまだ、恋愛できそうにもないんだもの・・・)


蓮の事は大好きだ。

先輩として、ではなく一人の男として、好き。


(でも、蓮さんといるともやもやとした、嫌なものがひろがるのよね)


キョーコの知っている恋愛感情は、甘くってふわふわしていて、ハッピーに満ち溢れたもののはずだ。

黒くどろどろとしたこの感情は、恋愛感情にふさわしくない。

蓮の告白を素直に受け入れられない理由がそこにある。


(きっと、愛を失ったときどこかおかしくなっちゃったんだわ・・・)


ひっそりと笑い、蓮のマンションを見上げる。


(早く伝えなきゃ・・・)


キョーコは蓮の告白を断る気でいた。

その為に、今日はこのマンションまで来たのだ。

どんよりと曇った天気は、キョーコの心をよく表していた。

預かっていた合鍵で、オートロックを開錠しエレベータを上がる。

通いなれた通路を通り、蓮の部屋の前へ立つ。

チャイムを鳴らそうとした、その時。

扉が開いた。


「すみません、わざわざ来てもらって」


「いえ、こちらこそ貴重なもの見せていただいたかから」


大好きな人の声と、それに答える女性の声。


(だれ・・・?)


開いた扉から出てきたのは、知らない女性と蓮の姿。


(だれ・・・?)


仲良さそうに玄関先で話す二人を、キョーコはただ茫然と眺めていた。


(ここに、女の人いれないんじゃなかったの?)


この部屋に入ったことがあるのは、キョーコだけ。

そういっていたではないか。

なのに・・・


(あ、すごくきれいな人・・・)


すっきりとしたスタイルで、パンツスーツが良く似合う。


(おとなの、おんなのひとだ・・・)


キョーコとは違う、成熟した大人。

それを見せられて、キョーコは思う。

蓮の告白を受けなくて良かった。

やっぱり、自分なんて見向きもされないのだと。

一瞬でも喜んでしまった自分が、惨めだ。


「キョーコちゃん、来てくれたの?」


居場所なく、チャイムの前で立ち尽くすキョーコに気づいたらしい蓮が破顔して、キョーコの来訪を歓迎するそぶりを見せる。


(うそつき・・・)


その笑顔に、騙されていたのだと。

キョーコは泣きたい気分になった。


「あら、この子が・・・?」


「ええ・・・」


意味深に目配せし合う二人が、とても仲好さそうに見えて。


(もぉ、やだっ!!)


「あの!! 敦賀さん。突然お邪魔して申し訳ありません。実は、これを返そうと思って・・・」


そういって、蓮の手をとり滑り込ませたのはこの部屋の鍵。


「え!? それって・・・・」


「・・・・・・・・・・・・お返事だと、思っていただければ・・・」


強張る蓮の顔と、今にも泣きそうなキョーコの顔。

その間に立つ女性はさぞ居心地が悪いだろう。


「私は、この辺で・・・」


そろそろと告げられたそれに、キョーコも乗っかる。


「あ、私も!! もう帰らなきゃ。敦賀さん、今までありがとうございました」


何かを言いたげな蓮を振り切り、女性と共にエレベーターに乗り込む。


(もぉ、やだ・・・・)


惨めで悲しくて。

エレベータに乗り込んで、女性に背を向けたときこらえていた涙が零れ落ちる。

一度零れた涙はとどまることを知らず、次から次へと溢れてくる。

嗚咽を抑えるのが精いっぱいだ。


(わたしの、ばか・・・)


扉が閉まる寸前、がこん!! と不自然な音がして何かが無理やり乗り込んでくる。


「下までおくりますよ」


「・・・・そう? 悪いわね」


凍りつく様な、蓮の声。困惑した女性の声。

二人に向けた背中に、突き刺さる冷たいし視線。

おそらく連の物だろう。


(もぉ・・・・はなして・・・・)


狭いエレベータの中に閉じ込められた時間は、ほんのわずかだったけれど。

キョーコには永遠にも感じる程、長い時間だった。




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またしても、続きます

ごめんなさい(T▽T;)