時間を強引に捻じ曲げたような気分だ。


何年かぶりに見る十数人の顔は以前とちっとも変わらない。

そもそも数年くらいで人の顔はそう変わらないのかもしれない。

大学の同じサークルの連中で同窓会を開くのはこれが初めてだ。


3、4人単位くらいでグループが出来て、それぞれが思い出話や近況を伝え合いながら話に花を咲かせているみたいだ。


そして、彼女は奥のテーブルに座っていた


彼女も仲がよかった女友達とキャハキャハ笑いながら白い歯を口元から覗かせていた。


彼女を見つけて僕は少し苦々しく思った。



そうだ。

彼女と最後に会ったのは、大学の卒業式の日だった。



就職先の関係で、この街を離れることになった僕は、ギクシャクしていた彼女と別れて社会人になったんだ。


「別れようか?」


そう言ったのは彼女の方だったけど、

そう言わせたのは僕の方だった



わざと冷たい態度をとったり、あの時は彼女といても僕はいつも上の空だった。

彼女にしてみれば冷静に別れ話をするように努めていたのかもしれないけど、

彼女の唇はかすかに震えていた。


それを見たとき、僕は彼女を自分が想像していたよりもたくさん傷つけていたことに気づいたんだ。

それでも、僕は一人になることを選んだ。


そして彼女と別れた


会社に勤めるようになって、

彼女と別れたことを少し後悔したこともあった。

でも今はもう、僕は一人の自分として毎日をめくっている。

そして僕はまたこの街に戻ってきた。


そう、それが今の自分


気が付くと彼女が隣に座っていた。

驚いて目を丸くして彼女をみつめると、


「ひさしぶり」


彼女はあっけらかんとした感じで話しかけてきた


もう昔のことなんだから・・・


彼女の目はそう言っているみたいだった。

僕は動揺を隠しながら、うなずいて彼女に応えた。


お酒がまわったせいか、それから彼女と昔話に花を咲かせた。

お互い、昔のことを笑って話せるようになったのは、どこかくすぐったくもあり、うれしいものだ。

二人のあいだに昔みたいな、安っぽく言えばトキメキみたいなものはもう戻ってこないことは直感で感じてはいたけど、ただ単純に、


こういう関係も悪くないな・・・


そう思えた。






しばらくすると、


「これ・・・」


と彼女はかばんから銀色に鈍く光る何かを差し出した。


鍵だった


ずっと返せなかったけど、返すね


目の前に古びた鍵があった。


捨ててよかったのに、それにもうあの部屋は引っ越したしさ


そう言う僕を制止して


だめ、ちゃんとかえさなきゃ


と彼女は僕の手に鍵を無理やり渡した。


わかった、もらっとく


僕はそそくさと彼女から返してもらった鍵を右ポケットにいれた。

それから僕は他のなじみの連中とも話が弾み、

いつになく速いペースで目の前のグラスに注がれるアルコールを片っ端から空にしていった。


久しぶりに会う面々に気持ちが緩んだせいか、気持ちのいい夜だ。






一人マンションに着いたのは、日付が変わって1時間が過ぎたあたりだ。


僕は半ば朦朧としながら部屋のドアを開けた。



・・・・・・



変だ・・・


酔っ払いながらも、何かに大きな違和感を感じる・・・


おかしい・・・


・・・・・・






ドアを開けたのは、さっき彼女から返してもらった鍵だった








※ 本記事は、下記の出来事を脚色して作成したフィクションです

2004/9/09【 再会 前編 】
2004/9/10【 再会 中編 】
2004/9/11【 再会 後編 】



【 その他の『小説風に描写』 】

02/22 「小説風に描写① ~ エレベータ」
02/23 「小説風に描写② ~ 僕らのキンモクセイ」
02/25 「小説風に描写③ ~ 返せなかった鍵」
02/28 「小説風に描写④ ~ 新幹線で(前編)」
03/01 「小説風に描写④ ~ 新幹線で(中編)」
03/02 「小説風に描写④ ~ 新幹線で(後編)」