朝、出勤しようとマンションのエレベータに乗り込んだ。

僕の部屋は5階。

途中で停まらなければ15秒くらいで1階に到着する。

出掛けに実家の母から電話がかかってきたせいで、

いつもより家を出るのが遅れた僕は、

少しイライラしながら

エレベータ上部の電光掲示板に映る数字をじっとにらんだ。


5階・・・

4階・・・

3階・・・


2 が表示されたと同時に、急激にエレベータの速度が減速した。

誰かが乗り込んでくるみたいだ。


「2階からエレベータに乗るなよ・・・階段使えよ」


どんなビルでも3階までは必ず階段を使う僕にしてみれば、2階からエレベータに乗り込むなんて、怠慢でしかない。


しかも下りで・・・


少しムカッとして僕は誰かが乗りこんでくるのをじっと待った。


金属がきしむ音をかすかに鳴らしながらエレベータの扉がするすると開く。

誰かが乗り込んでくるのを待ったが、

その気配はない・・・


おかしい・・・


しばらくすると、今度は音もなくドアが閉まった。

一瞬、無声映画でも見ているような感覚になる。

すると突然


ガタンッ


という、どこか乱暴な音とともにエレベータが上昇し始めた


瞬間、どっと毛穴から汗が噴出した。

会社に遅刻するかもしれないという焦りと、


いや、それよりも

突然自分が想像していた方向と逆の方向に進みだしたエレベータに恐怖を覚えた


あわててエレベータのボタンを確認すると

7階のボタンが淡く光っている。

自分の思いとは裏腹に、ぐんぐんと視界が高くなっていく。


7階に到着し、乗り込んできた人の顔を見て


「はっ!」


と気づいた・・・。






間違えて自分で2階を押しただけだった。


チーン