今日が発行日なので、ちょっと早いけど、テーマがテーマなので、早めにブログにアップします。
 ノートも加筆しました。

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「カンクン合意でようやくスタート台に戻った温暖化交渉-COP16の足を引っ張った日本政府」

 11月29日~12月10日にかけて、メキシコのカンクンで開催されたCOP16(気候変動枠組み条約第16回締約国会議)は、今後の地球温暖化国際交渉の基盤となる「カンクン合意」を採択し、閉幕した。この合意には年間1000億ドルのグリーン気候基金の設置や途上国の排出量削減の検証(MRV)などの点で一定の進展が見られた。しかし、2013年以降のポスト京都に関する進展はなく、来年、南アフリカのダーバンで開催されるCOP17以降に先送りされた。

日本の爆弾発言で始まった会議

 COP16では、そもそもポスト京都に関する合意は期待されていなかった。むしろ、途上国対策としてのグリーン気候基金、REDD+(森林保全に関するメカニズム)、技術移転などの問題に関する合意が期待されていた。また、ポスト京都については、合意よりも議論を進展させることが求められていた。
 しかし、ポスト京都については、議論を進展させることができず、一方で途上国対策については一定の成果を上げたというのが、今回の会議の成果だった。したがって、求められた成果は出したことと、前向きな交渉姿勢が確認されただけでも、COP16は成功だったという評価もある。同時に、ポスト京都については、大きな不安を残すことになった。
 ポスト京都の議論が進展しなかった最大の理由は、日本政府が開幕早々に「京都議定書の延長を受け入れない」という爆弾発言をしたことによる。
 京都議定書は米国が参加せず、中国などの新興国が参加していないため、実効性がないというのが、日本が受け入れない理由だ。EUも同じ理由で単純な延長には反対だが、妥協する余地は残している。一方、途上国は削減目標を持たないため、延長を求めている。
 しかし、ポスト京都の議論は気候変動枠組み条約と京都議定書のそれぞれの作業部会で平行して議論されているが、一方の議論がストップしてしまえば他方の議論もストップしてしまうとい状態だったたため、日本の頑なな立場が、最後まで障害として残ることになった。日本は最終日に、京都議定書の延長の検討を行なうことについてようやく認めたが、もっと早く柔軟な態度を示せば、議論は進んだと見る関係者は多い。
 この発言以降、日本は会議で孤立し、会議における存在感を失うことになる。日本国内には、京都議定書延長に反対する声が少なくない。しかし、2013年以降、新たな枠組の設定には時間がかかるし、とりわけ中間選挙でオバマ政権が敗北した米国は当面は合意に参加できない。こうした状況で、排出権市場やCDMを存続させるには、京都議定書の延長は避けられない。そのため、域内排出権取引制度を持ち、グリーン産業の発展を目指すEUは柔軟な姿勢を取らざるを得ない。

カンクン合意は前向きな妥協の産物

 COP16に対しては、近年最も議論が進展した会議だと評価する声は多い。昨年のCOP15が失敗だったという評価に対し、少なくとも議論が進んできた途上国対策については、各国の歩み寄りによって合意に達したということだ。また、COP17以降の交渉については、気温上昇を2℃未満にするといった前向きな姿勢も確認できた。
 カンクン合意を最も好意的に受け止めた国の1つが米国だ。会議が終了した翌日、オバマ大統領はメキシコのカルデロン大統領と電話で会談し、歓迎を伝えた。
 米国にしてみれば、COP15でオバマ大統領が強引に合意に結びつけた「コペンハーゲン合意」が正式な合意として進化したのがカンクン合意だからだ。また、法的拘束力がないことも、米国の意向に合っている。さらに、年間1000億ドルのグリーン気候基金は、そのままグリーン技術の新たな市場ができたことを意味している。
 一方、先送りされたポスト京都だが、COP17では京都議定書延長が改めて主要なテーマとなりそうだ。EUが90年比マイナス30%を表明すれば、日本は苦しい立場に立たされる。
 ポスト京都の新たな枠組については、COPだけで合意するのは、困難だと見られる。というのも、経済問題がより重要となっているからだ。その点、G20といった主要国首脳会合での、低炭素社会に向けた議論が重要なものとなる。とりわけ、自由貿易の進展に対する炭素関税といった新たなテーマが浮上してくることが予想される。温室効果ガスの削減義務を持たない中国や京都議定書に不参加の米国が、温暖化対策に前向きな背景には、こうした低炭素経済に向けたグリーン成長戦略があると見られる。
 米中が積極的な交渉を展開する、G20を中心とした経済的な温暖化対策の枠組と、COPによる政治的な枠組は平行して交渉が進められ、並立していくだろう。
 京都議定書延長になお反対する日本だが、結果として世界のグリーン成長に取り残されつつある。早急に成長戦略と外交戦略を立て直し、マイナス25%の削減目標を成長の起爆剤としていくことが求められるだろう。

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 連載「世界を読む」は、毎月15日号に掲載します。
(本紙・本橋恵一)


ノート:日本政府の問題はいくつかある。
第一に、外交をゼロサムゲームだと考えていること。このことが柔軟性の欠如につながっている。外交はゼロプラスゲームになっている。
 第二に、だからこそ、京都議定書の延長に頑なに反対していくことには、メリットがない。温暖化対策は、政治的交渉と経済的交渉に分かれていくし、それは統一されないものだろう。互いに関係はするが。それが、COPとG20のそれぞれの役割だ。そこを割り切れない点が問題だ。G20という枠組では、力の強い国家が決定権を持つ。しかし、実体経済の上でも、それは当然のことだ。問題は、そこの公平性をいかに実現していくかだけだ。具体的に言えば、アンティガ・バーブータが炭素関税を導入すると言ってもたいした影響はないが、米国や日本が入れるとしたら、その影響は大きい。
 第三に、温暖化の国際交渉を見誤っている結果、グリーン成長を指向できていないということだ。投資も少なければ、制度の導入も遅れている。排出権取引制度の先送りや脱力レベルの環境税では、何も変わらない。
 第四に、米中関係を正しく認識していないことだ。米中の間で、何を争い、何を協調しようとしているのか。中国の成長著しい市場に対し、米国と中国がどれだけ利益を分け合うのか。中国は自国だけでは成長できないし、それだけの技術もない。でも、だからといって外国を制限なしに受け入れていけば、自国のお金は海外に出て行ってしまう。ジレンマを解消したいが、素直にはできない。そのことが、例えば人民元をめぐる交渉に現れている。
 第五に、したがって、日本は自国のグリーン成長の戦略を立てるべきだし、そのための投資も必要だ。また、米中にわってはいるだけの技術を持っているので、それを活用し、中国の経済成長から利益を受け取るようにするべきだ。そのための通貨政策も不可欠だ。しかし、投資を通じて円安に誘導することも可能だろう。また、マイナス25%のコミットは、積極的に生かしていくこと。多くの企業は、マイナス25%ということに腹を決めているし、それをいかに自社の成長につなげるのか、戦略を立てているのが現状だ。それをどうやって支援するのかが、大切なことだ。
 第六に、温暖化国際交渉の課題は、時間が限られているということだ。温暖化は待ってくれない。

 以上(12月15日)。