ホーキング博士の道案内で数学史の世界を探訪 | ゼルプスト殿下の事情

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ご多分にもれず、わたくしにもいろいろな事情があって、ここに書けたり書けなかったりいたしますが、書けることは書きます。

今回紹介する本は、名高いイギリスの宇宙物理学者ホーキング博士が編纂した数学論文集です。数年前に一度日記にも書いたのですが、改めて少し詳しいめに紹介します。タイトルと版元は次のとおりです:


“God Created the Integers, the Mathematical Breakthroughs that Changed History,” edited, with commentary, by Stephen Hawking, Running Press, Philadelphia, 2007 [『神が整数を作られた~歴史を変えた数学』ステファン・ホーキング編注, 米ランニングプレス社2007年刊]

God Created The Integers: The Mathematical Brea.../Stephen Hawking
¥2,783
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数学の歴史に一時代を画した重要な業績を、作者である数学者のプロフィールと、論文の英訳によって紹介したアンソロジーで、古代ヘレ ニズム時代のユークリッドから現代のアラン・チューリングまでをカバーしています。取り上げられている数学者は

  • ユークリッド(『原論』抜粋)
  • アルキメデス(球と円柱について、「方法」他)
  • ディオファントゥス(数論・抜粋)
  • デカルト(幾何学)
  • ニュートン(『プリンキピア』抜粋)
  • オイラー(逆数の和について、ケーニヒスベルクの七つの橋、すべての整数は4つの平方数の和である)
  • ラプラス(確率に関する試論)
  • フーリエ(「熱の解析的理論」第III章、無限な矩形の固体における熱伝導)
  • ガウス(「数論」第III節:平方剰余について、第IV節:2次の合同式について)
  • コーシー(無限小解析についての講義・抜粋)
  • ロバチェフスキ(平行線の理論についての幾何学的研究)
  • ボヤイ(絶対空間の科学)
  • ガロア(方程式論三論文)
  • ブール(思考の法則の探求)
  • リーマン(三角級数論・幾何学の基礎をなす仮定について・素数の数について)
  • ワイエルシュトラス(函数論講義・抜粋)
  • デデキント(『数についての試論』)
  • カントール(『超限数の理論の基礎への貢献』(抄))
  • ルベーグ(『積分・長さ及び面積』(抄))
  • ゲーデル(『プリンキピアマテマティカおよび関連する体系の形式的決定不可能な命題について』)
  • チューリング(『計算可能な数とその決定問題への応用』)

どうでしょうか。アーベルもポアンカレもヒルベルトもいないので、数学史の全容をカバーしているわけではありませんが、なかなかすごいラインナップです。これで3,000円弱なんですから、アンソロジーとしてだけでもずいぶんお買い得だと想います。そのうえ、編集と解説を執筆しているのがあのホーキング博士なのですから、正直な感想として「なにそれ英語圏のひとちょっとずるいよぉ」と思うのです。


ですから、ここは声をちょっとだけ大にして言いますが、数学好きの高校生・大学生のみなさん、数学だけじゃなく、英語をちゃんと勉強しましょう。絶対損はしませんから。


こうした自然科学的文化事業が日本でももっと盛んになればいいのですが…って、いや、ここに登場した数学者の場合ゲーデル以外は著作権の保護期間満了してるんだから、そんなこと言ってないで、原文から和訳してどこかに公開すればいいんですよね。うーん。


結論:原典に基いて数学の歴史を探訪する1,300ページの旅。ガイドはあの「車いすの天才物理学者」ホーキング博士です。取り上げられている数学者の誰かひとりについて知りたいというだけの人も、このさいこのアンソロジーを手元に用意されてはいかがでしょうか。


最後に、このアンソロジーのタイトル God Created the Integers について。これは、残念ながら今回は選に漏れた19世紀後半の数学者で整数論の権威、レオポールド・クローネッカーの言葉と伝えられる「神が整数を造られた。それ以後のことはすべて人間のしわざだ。」から取られているようです。