
- 夜明けの縁をさ迷う人々 (角川文庫)/小川 洋子
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あらすじ
9つの短編からなる作品集。
どれも奇妙で変わり者が登場し、静かに消えていく。哀しみや痛みを抱えてひっそりと生活する彼らのすがたはまるで夜明けの縁をさ迷うかのように緩やかで冷たい。河川敷で逆立ちの練習をする曲芸師、放浪の涙売り――彼らの決して揺るがない心が恐怖と官能美をそそる珠玉の短編集。
小川洋子さんの官能美とおどろおどろしさを存分に感じさせてくれる一冊です。
僕の好きな作品は「曲芸と野球」。河川敷で逆立ちの練習をするひとりの女性を気にするがあまり、彼女がいるレフと方向へ打球を飛ばすことの出来ない少年の話です。
曲芸師のお姉さんは順々にいすを積み上げ、その上で逆立ちをしている。職業柄主人公の父がやっている整形外科には何度もお世話になっているが、彼女を止めるものはおらず、ましてや話しかける人もいない。
そんな彼女に興味をもった主人公は彼女が逆立ちをしているときに話しかけると、彼女のサーカス団の話や逆立ちについて話を聞かせてくれた。
あるとき野球の試合中、スイングが空をきった瞬間、大きな音が響く。彼女が落ちたのだ。
彼女は大きな怪我をした。公演に支障をきたすほどの――。
という感じで小さな世界に存在する一風変わった人との短い時間。そこに漂う冷たさや痛み、それによる恐怖が読み進めていくうちにじっとりと背後に迫ってきます。
この曲芸~では官能性は少し薄いものの、彼女が逆立ちしている様子を細かく描いた場面はちょっとどきりとさせられます。
他にももっと痛みを伴う作品や、目を覆いたくなるような表現、首筋から汗がつぅっと流れるような怖さがあったりと、僕が抱く小川作品像がまさにこの短編集でも感じさせてもらえます。
あ、それから食事をする場面を「教授宅の留守番」で書いているのですが、やっぱり食事シーンもえげつなくて好きです。なんだか「千と千尋~」の豚に変わる食事シーンのような絵が浮かんでくるようです。
たまぁ~に無性に読みたくなるのが小川さんの作品です 、といえるほど小川さんの本を読み漁っているわけではないのですが、ちょっとおどろおどろしい感じのある小川作品は読後にまた再読してみよう!!って思うのではないのだけれど、時間がたつとまた手を伸ばしてみたくなります。
不思議な感じですが、これが小川さんのよさなのかもしれません。
冷たいものがすっと喉を通りぬけるのではなく、
人肌のとろりとしたものがゆっくり喉にへばりついて過ぎていく、そんな感じがします。
この重みが僕は好きなのかもしれません。
ふぅ…
でもやっぱり小川さんの作品は、読んでいて自分の体が痛むような気がします。
それだけ表現が上手だといえるのかもしれませんが、ちょっと猟奇的なんだけど美しさもある。だから本を閉じることなく読み進めてしまう。
ホラーとはまた一味違う怖さを感じられるので、この夏にひとつ読んでみるのもいいかもしれません。
―追記―
記事内では食べたくなるものではなく、読みたくなるものでブログネタを書いているように感じるでしょうが、もちろんブログネタの『読み間違いではなく』、『読み間違いではなく』、食べるように、消化するように本を読みたくなる…そういった解釈でひとつ。。。