すいかの匂い (新潮文庫)/江國 香織
¥420
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あらすじ

あのときの記憶はいつも、いつまでも鮮明に思い出される。それはアイスクリームを食べたときの気べらの味、けたたましく鳴くセミの声、体育館裏の焼却炉、そしてすいかの匂い。襲い掛かる不安を打ち消す日々、忘れようとも消えない思い出、私だけが抱えるあのときの記憶は小さなきっかけで思い出されるのだ。

11人の少女が抱える彼女だけのあの夏の記憶を読み返す短編集。

先日どんな本が面白いのかと聞かれ、その人が詩集はよくよむということだったので、なんとなく江國香織さんを薦めてみました。(具体的なタイトルではなくて作者さんを。)

僕の江國さんのイメージは 

・やわらかな文章

・不思議な世界観

・一言一言に閉じ込められた重さ

というイメージで、さらに恋愛小説があったり、ファンタジーなものがあったり、短編やエッセイがあったりと幅広いからということで薦めたものの、薦めておきながら自分はほとんど読んでいないというのは如何なものかということで改めて江國さんの作品を読んでみました。


さて、そうしてえらんだのは「すいかの匂い」。

江國さんの素敵なところはタイトルがきれいなところもいいですよね。


が、読み出してみればおっと…

僕が抱いていた江國さんイメージと少しずつ離れていく。。。

いや、離れつつも一定の距離は保っている感じで、イメージが崩れたというよりもこういう作品が強みだったのかなと教えられるかのよう。


他の著者と比較して申し訳ありませんが、小川洋子さんのほの暗さに近いかなと。

読んでいる間は少し怖さを含みつつ、終わりにはすっと何かが消えていくような儚さがある、そんな作品が並んでいました。

僕はこういったちょっと暗い、鬱な部分というのは嫌いじゃないのですんなり読み薦められましたが…

人によっては重い、辛いと感じるかもしれませんね。


僕が特に好きなのは

「すいかの匂い」と「焼却炉」でしょうか。

「すいかの匂い」の一瞬たじろいでしまうような人物設定にぐっとひきつけられ、最後にふわっと香りだけを残す感じがまたタイトルにあっていてよかったなぁ。ホラーととってしまうとそれまでですが、それを不思議な、でも確かにあった記憶として女の子は胸にしまわれるという基盤をしっかり1作目で描かれているので次からの話にもすんなり入っていけました。

「焼却炉」ではドクリと音が鳴るような重みのある男と女の関係みたいなものを感じたのだけれど、それが小学生の女の子だって思えば思うほど愛くるしさの中に怖さを感じて面白い。僕がいった小川洋子さんのようという部分が色濃く出ているのはこの作品かなと思います。


他の作品に出てくる女の子たちも深くて重い雰囲気を持っていて、その重みが心地よかったりもして。。。



コンセプトが11人の少女の物語、ということなのでここにどうこういうのは違うかもしれませんが、もう少し幅広い年代の女の人が出てきても面白かったんじゃないかなと思いましたが、こうした昔の話を何かのアイテムで思い出すというテーマの良さと江國さんの文章ががっちりはまっていたのでこれはこれで十分魅力のある作品だったかなと結果的には思うわけです。


解説で、川上弘美さんは江國さんの作品について 「たぶん、こんなにこれがわかるのは、私だけじゃないのかな」 と言っています。そうなんです、特にこの短編集ではどこかしらに自分の影の部分を感じ、それがわかるのは自分だけだと錯覚させられる。

この作品の魅力はこの一文ですべてが伝わるといってもいいかもしれません。



ふぅ…

僕が以前読んでいた江國作品は、ファンタジー色の強いものでやわらかな作品だったので安易に薦めてしまいましたが…

でも、決してこの類の作品も面白くないというものではなく、むしろ良い作品なので人に薦めてもいいとは思います。

本当は自分の好きな本を薦める方が楽だとは思ったのですが、森見作品のような癖のある作品をいきなり読んでみて!というのもなんだし、そもそも僕は読むジャンルが偏っているしなぁ。

人に本を薦めるのって音楽を薦めることよりも難しい気がします。。。(´_`。)