エンド・ゲーム 常野物語 (集英社文庫)/恩田 陸
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あらすじ

拝島時子は「あれ」と出会うたびに「裏返したり」「裏返されたり」という戦いを続けていた。時子と父、母親の暎子、拝島一家は特に「裏返す」力が強く「あれ」を寄せ付けていた。そんな生活の中、父は数年前に失踪した。そして今度は母が倒れて意識を戻さない。どうやら「洗濯屋」という人々が関係しているようだ。

「裏返す」力が導く彼女たちの生き様を描く、常野一族の物語。


この作品は読みたいと思いつつ敬遠してしまっていた本でした。

といいますのも、読む前にamazonの評価を見てしまったことがことのはじまり。

常野物語の中でもイマイチいい評価がもらえていない作品だったからです。

作者も最後に言っていますが、シリーズものの三作品目というのは結構怖い。

映像作品では特にそれを感じてしまいますが、小説だって難しいのでしょう。


さて、読んでみた感想ですが、

僕は素直に面白いと感じました。

次は?次の展開は?と次のページが気になってしまうほど。


この作品は「裏返す」という言葉がひとつのキーワードになってきます。

そもそも「裏返す」とはなにか。

この力は常野一族に伝わる力のひとつで、「あれ」と呼ばれる人に寄生される存在を倒すことを意味しています。もしかすると倒すという表現よりも、閉じ込めるという表現のほうがあっているのかもしれません。そして裏返されると「あれ」は消え、その人は廃人と化すといわれているが、定かではない。

そもそもなぜ彼らは「裏返す」のか、「あれ」とは何か。

どちらも作中にふんわり やんわりと説明されています。が、説明は足りません。


僕は恩田さんの作品はあまり読んでいませんが、どうやらもとから「説明不足」なところがあるようですね。

恩田さんの頭の中で世界がめぐっているということらしい。

どうやらこういった部分が評価を落としている原因にもなっているようです。

前の僕だったらそんな半端な状態を嫌っていたかもしれませんが、なんだか「説明不足」に不満を感じなくなってきました。

といいますか、これが論文やエッセイ、推理小説ならば論外ですが、ファンタジーやホラーの類ではそれもありじゃないかなって思うようになってきたので。

もともと別世界に飛ばされた身。

知らないことがあって当然。今知っている中で解釈するしかないよなって。


ちょっと話がそれました。


この作品のラストはしっくりこない。

「もう裏返すことに意味を成さない、終わってしまったことさ」とある種の夢落ちに近い落とし方をします。

そこに追い討ちをかけるかのように拝島家は、自分たちが存在するために話を作ったという冷たい言い方をする。日浦に対する最後のやり取りは嘲笑しているようにも取れる。その姿がどこか悪魔に見えて、常野一族と思えなかったという寂しさを感じます。

この部分も評価が低かった原因のひとつのようです。

でも、常野=聖人君子とは限らない。『光の帝国』でもそんな描写はなかったわけだし。ただ、光の帝国を読むとそうであってほしいという思いになるから不思議です。



最後がなるべきしてなったというよりも、こうなるしか終われなかった、という気がして残念だったけれど、物語の最後まで目が放せない作品でした。

なんだか僕の感想も悪評っぽくなってしまいましたが、

どちらかといえば…いや、どちらかといわなくても好きな本です。


常野一族の悪の力、悪の部分ととらえ、ホラーとして読むとなかなかおもしろい作品だったと思います。

ただ、独立した小説としてみると読みづらい部類かもしれません。

常野一族という人たちの力を知った上で(光の帝国を読んだ上で)手をつけたほうが説明不足のほんの1頁を補えるかもしれません。



ふぅ…


常野物語はまだ続くのでしょうか。

もっと読みたい、そう思っている読者は多いでしょうね。

僕もその一人です。

今回のような現代に生きる常野一族でも、まだ力が神秘的に感じられる時代の一族の話でもいい。

彼らの生き様をもう少し読んでみたいものです。