明日この手を放しても (新潮文庫)/桂 望実
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あらすじ

19歳で視力を失った、潔癖症で完壁主義な妹・凛子。女にもてるのにふられてばかりの、無遠慮で口喧しい兄・真司。父がなぞの失踪をとげ、2人きりの生活が始まった。近くにいると相手に合わせることさえ不満でも、遠くにいけばいつの間にか無事を祈り、あの人のために変わりたいと願ってしまう――複雑で決して派手じゃない、だけど確かな愛しさを描いた、兄と妹の12年間の奇跡。



ボーイズ・ビーが印象的だった桂望実さんの書籍が文庫化されていたので手を伸ばしました。


まずひとつ。

以前ボーイズ・ビーの帯に書かれていた文書もそうでしたが、今回も文庫のカバーにのせられた一言は読者の期待ばかり煽ってしまう気がします。

「地球上で一番複雑な男女関係」

これは言い過ぎです。

地球上で一番、、、

複雑な男女関係、、、

言い過ぎって言うよりも、なんか内容とまったくリンクしない気がするのは僕だけなのかな?


凛子は弁護士を目指していたからか思考や口調は常に冷静で、一方真司は常に文句を言っている喧しい。互いに相手の嫌なところが気になり、不満は募るばかり。そんなふたりに突然の出来事が押し寄せてくる。


妹の凛子は突然視力を失い、同時に夢も失う。真司は入社してすぐに別事業へ追いやられ、ディベロッパーからブライダルプランナーへ肩書きが変わってしまう。

凛子がまだ視力を失って間もない頃、母親は心臓発作を起こした老人の車で轢かれて死んでしまい、漫画家の父親は突然姿をくらました。

それぞれが突然の不幸に見舞われてしまうが、残された凛子と真司はなんとか自分たちの居場所を守っていた。

凛子は父親の漫画の原作者ということで進めていた視覚障害者を主人公にした漫画は漫画家を変更してもなお成功していたし、真司は仕事を嫌々ながらもしっかりとこなしていた。

しかしそんな二人の前には次々と不幸が訪れる。。。なんで私だけ、なんで俺だけ。。。そんなとき不満を発散してくれる兄がいた。冷静に物事を考えてくれる妹がいたのだ。



帯に書かれていたような複雑な男女関係(兄妹のいない僕は余計複雑さがわからないのですが)はなく、ましてや不幸が続いたからといって世界一というのも違う気がする。

もしぼくがポップを書くならば、

「不幸に追いかけられる兄妹が寄り添い歩く」

といった感じでしょうか。


そう、この作品のいいところは兄妹の仲のよさなんですよね。

確かに最初はいがみ合うふたりなのですが、ふたつ目の凛子の話のあたりから、ふと真司のいい部分が目立ってきます。それこそ突然だったのでちょっとにやけてしまうほど。

そして章が進むにつれて真司はいい男に、凛子は健気な妹に思えてくる。

こういった兄妹の成長を微笑ましく見守るのがこの作品を楽しむコツかもしれません。

各章ごとにまだ起きるかというほど不幸に追いかけられるふたりですが、だからこそいい成長をみせてくれ、不幸を跳ね飛ばしてくれるかのようです。


ラストは誰もが期待していたような展開は起きませんでした。

それが不満だという人もいるのかもしれませんが、僕はやっぱりこれの主題は兄妹の歩みなんだろうなと思ったわけです。

何も語られずフェードアウトするような作品はあまり得意ではないのですが、これはこの終わり方が大事なんだろうなと思わせてくれる。そう思わせるほど作品のメッセージ性を強く感じた作品でした。



ふぅ…


口喧しい真司。でも彼を冷静に見ることができたことで凛子の歩みは以後とまることなかったのではないでしょうか。よかった探しはなかなか出来ないことですが、それが出来たときやっぱりそこには「いいもの」が映ってくるんでしょうね。