空色ヒッチハイカー (新潮文庫)/橋本 紡
¥540
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あらすじ

受験勉強を放り出して、彰二は旅に出た。兄が残したキャデラックに乗り込み、兄が残した免許証を持って、ただひたすら西へ走り出したのだ。助手席には謎の女性を乗せて、行く先々で出会うヒッチハイカーを後部座席に乗せて、今はもういない兄の背中を追うように。

大人になろうとする少年のひと夏の冒険。ポップでクールな青春小説。



勉強が出来る彰二には4つ年上の兄がいた。彼は何でも出来る天才で、東大現役合格、国家試験一種にも合格、彼の将来はばら色だった。しかしその兄は突然消えてしまった。彰二が追いかける目標が突然消えてしまったのだ―ということから物語は進んでいくのですが…

この作品、非常に面白かったです。

兄がいなくなったことにより、心の不安を感じた彰二は無免許でありながらも車を動かします。彼の抱える苦悩は兄弟をもつ身としてはもしかするとよくあるものなのかもしれません。兄弟との比較、劣等感、そういったものの中で戦っていくのですが、根底にはヒーローのような兄を心から慕う弟の真っ直ぐさがよく感じられました。


また、タイトルにあるように西へ向かう途中で様々な人を車に乗せます。

終始助手席に居座る謎の女性、仕事に悩む男性、おじいちゃん、二人組みの女子大生…まだまだ他にもたくさんの人と出会っていきます。旅は道連れ、世は情け、そんな感じでヒッチハイクを求めている人たちを次々と目的地まで乗せていくのですが、それぞれに特別なドラマがあるわけではありません。

しかし、どこか人間臭さのある彼らとの接触は、西へ黙々と車を進める彰二たちにはかけがえの無い出会いだったのではないでしょうか。


話の途中で少しずつ知らされていく彰二の過去もまた物語を面白くしています。なぜ彼は西を目指したのか、彼と兄との関係、彼の人間性、そういったものは物語の本筋ではなかなか描かれないのですが、こうして少しずつ彼を知っていくことでロードムービーならぬ、ロードノベルの雰囲気を感じさせてくれます。


彰二は勉強が出来、物事もよく知っている。しかしまだまだ青い。だから青春小説なんだけれど、がむしゃらさや無邪気さと、大人的な思考回路を揺れ動く彼の雰囲気のよい、満足感のある青春小説でした。



そういえば、この作品にはファンダンゴという映画が登場し、兄弟の絆を意味する重要なキーワードとして度々出てきます。英語の台詞も出てきたりするのですが…このときほど英語が出来ない自分に落ち込んだことはありませんでした。。。いや、英語が出来るとラストの展開が見えてしまうのでよかったといえばよかったのですが…

僕はこの作品を見たことが無かったので、読後見てみようと近くのレンタルショップへ行くも無し。古い映画らしいですからねぇ。そこがちょっと残念でした。


ふぅ…


There's nothing wrong with going nowhere, son.

It's a privilege of youth.