
- ぶらんこ乗り (新潮文庫)/いしい しんじ
- ¥500
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あらすじ
ぶらんこが上手で、指を鳴らすのが得意な男の子。声を失い、でも動物と話ができる、つくり話の天才。もういない、わたしの弟。-天使みたいだった少年が、この世につかまろうと必死でのばしていた小さな手。残された古いノートには痛いほどの真実が記されていた。ある雪の日、わたしの耳に、懐かしい音が響いて…。
お姉ちゃんが弟の昔のノートをきっかけに、昔のことを思い出して書かれている作品です。
とても4歳のときに書いたものとは思えないつくり話や、6歳とは思えない行動が、「あの子」の天才ぶりを見ることができます。
が、この作品は全編通してとても悲しい物語です。
読んでいて胸が苦しくなってしまうような切なさや悲愴感が押し寄せてきます。
弟がノートに綴ったつくり話も、どうしても悲しみが感じられてしまう。
でも、読む手を止めることはありませんでした。
それだけの魅力がこの弟にはあったのではないでしょうか。
見た目はこども、頭脳は大人…と他作品の言葉を引用してしまいましたが、そんな少年です。
声を失い、ぶらんこの上で生活をするようになり、孤独とともに生きていく少年。ただでさえ現実離れしていた彼の姿は孤独感をなんとなく感じてしまっていたのですが、事故以来余計に孤独との生活が強まってしまったような気がします。
この本を読み始めたときは、こういう天才少年の話は案外好きだし、「僕はフィクションだ!」というような登場人物も結構好きだったので、わくわくしながら読んでいましたが、途中からこの少年が怖くなってしまいました。
というと、お姉ちゃんに怒られるかもしれませんが、なにかのモンスターにとり憑かれているのではないか、と思ってしまうほどの一種のカリスマ性があったからです。
心の純粋さが、素直さが、彼の考えるつくり話にじっとりと反映されている。
そう、純粋というものがモンスターの正体なのかもしれません。
真っ直ぐな思いというのはとてつもない力を持っていて、例え優しい姿でも、やわらかな想いでも、なにかを動かす力になる。。。
そんな少年に対して、僕は怖いと思ったのです。
正直、何度も読み返したいとは僕は思えませんでした。けれども、
この弟には、一度出会った(読んだ)ほうがいいなぁって思います。
なんだか黒い渦に巻き込まれたような感情で感想を書いてしまいましたが、、、
それだけこの作品に引き込まれたってことなんでしょうかね(^▽^;)
この物語のラストは、何度か読み返しています。
結果が明確に提示されていないということもありますが、この少年のその後を考えてしまいます。
そして僕は、この弟がにっこり笑ってこちらを向いている姿を思い浮かべているのです。
ふぅ…
個性的という言葉も、どこか怖いイメージがあります。
個性的なファッション、個性的な作品、個性的な人…
個性を主張することは悪くはないが、個性を強制することはどうしたものか。
なんだか、日本中が個性的という言葉に、意識が高まりすぎている気がします。
この弟は『個性的な子ども』と表現できるのでしょうか。
違うんだ、彼は皆とさほどかわらない。ただ…
ただ…この言葉の後には、僕はやっぱり個性的だとつけてしまうのだろうか。