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[ “ハブーな体験”って、したことある? ]

恋文の技術/森見 登美彦
¥1,575
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あらすじ
大学院に進学したと同時に京都の大学から能登の研究所へ飛ばされた男・守田一郎。彼は遠く離れたこの地で、文通武者修行と題して京都にいる友人たちとの手紙のやり取りを行うようになった。友人の恋の相談にのり、先輩にはご機嫌を伺い、家庭教師の教え子や妹には見栄を張る。そして旧友であり、密かに思いを寄せていた伊吹さんへの手紙は…
この文通武者修行により、彼の恋文の技術は上達するのだろうか。


僕の好きな作家である森見さんの新作です。
ハードカバーを買うか、数年後の文庫化を待つか悩みましたが、なかなか興味深い作品であったので購入を決意。これで僕も恋文の技術が上達するのではないかという期待も込めていた事は内緒である。

相変わらずの森見節・森見調で、あーいえばこーいうような京都の学生を主人公に、不毛な大学生活を送っているのですが、今作は手紙を書くということがテーマで、どれも手紙のやり取りで成り立っています。
そしてどれも守田目線のため、相手からの手紙の内容は守田からの手紙から推測するしかないのですが、要点はしっかりと書かれているので置いてけぼりにならず、楽しく読めました。

始めの方は、なるほどなるほど、と読んでいく感じなのですが、中盤(おっぱい事件のあたり)から後半にかけて笑いどころが多かったように思います。前半も十分面白いのですが…もしかしたら電車内で前半を読み、後半は家で読んだので、遠慮なく笑い、つっこんだのかもしれません。
どこか生意気で、ムカッとする反面、しょうがないなぁという哀愁を纏う守田氏の文章能力、言葉遣いはあっぱれです。

『伊吹夏子さんへ 失敗書簡集』は守田一郎の馬鹿さ加減と、どこか共感してしまう部分があり、人事ではないような感じで笑いつつも心から涙が流れてしまうという失態も…

ただ、不思議と森見さんが描くどうしようもない大学生は、心優しく、よくよくみれば魅力的な青年ばかり。今作ではその魅力がさらに増大し、僕が今までに読んだ森見作品の中では一番可愛げのある青年でした。
そもそも今の時代に文通というあたりが微笑ましいです。

さて、この作品の一部には次のような文章があります。守田一郎の妹から森見登見彦さんへ宛てた手紙です。
そうそう、森見さんも守田氏の友人ということで登場します。

私は恋文なんか、いりません。なぜならば、そんな関係になることが想像できない人から恋文をもらったって気持ち悪いだけだし、そんな関係になる人だったら口で言ってほしいと思うからです。もちろん恋人同士だったら恋文もありだと思いますし、そういうのはステキです。

・・・・・・・・・お・・・・・おっしゃるとおりでございます。
言うこと全てが御もっとも。

でもさ…恋文という手段の奥に隠された悶々とした恋心をどうかわかって頂けるとありがたい。
恋文自体が悶々としたアイテムであり、かわいらしい便箋とは裏腹にまがまがしいオーラで包まれているものであり、しかしそのまがまがしさの中に思いやりがぼんやりと溶け込んでいるのだということを知っていただきたい!
そうあひるは思うのですよ、守田さんの妹よ…

妹にこのようなことを言われていることも露知らず、守田一郎は恋文を書くのである。
僕から言わせていただくなら、最後の手紙、なかなかステキでありました。と弁護、いやいや、援護します。


ふぅ…
ところで、なにがハブーな体験かといいますと、この物語に出てくる人たちは皆(守田氏からすると)ハブーな体験なのでした。元々狭い空間ではあったものの、それでもなかなかハブーである。ましてや自分は遠く離れた地で過ごしており、手紙のやり取りをするうちに、「え?あなたとあなたはアレで、あなたとあなたはソレだったの?」という状況を知るわけです。
こんな話、小説以外にあるんかい!!って思っていましたが、案外皆さんある様子。
何やら羨ましい限りでございます。