そして君の声が響く (集英社文庫)/池永 陽
¥450
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あらすじ

フリースクールのボランティアを勤める大学生の翔太。彼はそこで美しい歌声と容姿を持った美咲に恋をした。しかし彼女には悲しく大きな問題を抱え、生きることに絶望していたのだ。愛するということ、その人のために命をかけること、その切なさと優しさを純粋に描いた青春小説。



話の筋としては純粋な青春恋愛ドラマで、コッテコテな感じは否めない。

けれどもやっぱり青春というキーワードのおかげか、スッキリした読み心地はあります。

相変わらず青春というワードに弱い僕はストンと本棚から手の中に落としましたが、少々こそばゆい感じがしたのは恋愛の部分か。

でもまぁその辺がまた青春なのかもしれませんがね。


この物語には美咲を含め5人のフリースクール生(不登校生)が登場しますが、彼らの持つ雰囲気が結構いいです。フリースクールの現状って言うのはまったく分からないのでその辺はなんともいえないのですが、彼らの美咲に対する接し方、翔太に対する信頼感なんかはこの物語の甘酸っぱさをより強調していたんじゃないかなぁ。


特に未央は数学においては天才的な少女なのですが、物事を数式で考えるあたりはちょっと笑いな部分があったり、おいおいという部分でもあったり、彼女たちの独特な個性がどこか「ぼくらのシリーズ」のような青さを感じて好きですねぇ。


僕は池永さんの作品は2作目なのですが、以前読んだ「走るジイサン」のときのような不思議な匂いのする文章とはまた違う作品でした。こちらは不思議なというよりは常に桜か果実の匂いがするようないい香り、といったところでしょうか。

文章がキレイであるとか、描写が素敵だというようなことはあまり感じなかったのですが、登場人物のもつ雰囲気が醸し出した香りかもしれません。


ちょっぴりインパクトには欠けるものがありましたが、心の保養には十分なった、そんな作品でした。



「止まない雨はない」と  誰かに言って欲しかった

たとえそれが使い古された  キレイな嘘だとしても


美咲の作詞より


ふぅ…

物語の終わり方は、苦手な人は苦手かもしれません。

というのも、その後は読み手のご想像にお任せします的な終わり方だから。

僕はどちらかと言うともう少し収束した形で終わってもらった方が…という方なのですが、この物語の大事な部分はしっかりと終えた、これから先は彼女たちの進むべき道だ…という作品だと思うので、パタリと本を閉じられたかなぁ。