僕は文庫本が好きです。

何がいいかって、かさばらないから。

単行本だと重いし、でかいし、読むのに一苦労だから。


それでも読みたいと思った作品が今回の『夜は短し歩けよ乙女』です。

夜は短し歩けよ乙女/森見 登美彦
¥1,575
Amazon.co.jp

さらに付け加えれば、僕は流行が苦手です。周りが盛り上がっている中に突き進む勇気がないと同時に、周りと同じ世界に染まってしまう怖さがあるから。

『世界の中心で愛を叫ぶ』 『東京タワー』 『電車男』 『ホームレス中学生』...どれもいくら世間が騒ごうとも手をつけまいと思っているものです。(結局映画やドラマでは観てしまいましたが…)


『夜は短し歩けよ乙女』も同様。といってもこれは東京タワーのときのような勢い、認知度ではなかったけれど、いまいち手が伸びなかった。

ただ…ただこのタイトルは非常に興味深い。タイトルマニアとしてはこんなに美しいタイトルがあるのかと思ったくらいです。夜は短し歩けよ乙女ですよ?単純なようでなかなか奥が深そうじゃないですか。単語一語でまとめられたようなタイトルにはない魅力。その美しさがここにあるわけです。

買おうかどうしようか迷いましたが、本が語りかけてきました。

「読んで悔いナシ」と「それにほら、世間が騒いでいたのはもう一年以上前だよ」と。

そして僕は値段にして文庫本3冊分をこの1冊に託したのです。


ここで簡単なあらすじ。


軸となる人物はふたり。大学の先輩(男)と同じクラブの黒髪の乙女(もちろん女性)。先輩は黒髪の乙女に恋をし、彼女と距離を縮めるべく、「ナカメ作戦」を実行。『偶然』の出会いを…あくまでも偶然(!?)の出会いで彼女との距離を縮めていこうと試みるのだが、肝心の彼女はいわゆる天然さんの部類。果たして先輩の片思いの恋はいかに?キュートでポップな片想いストーリー!


と、先輩目線であらすじを書きましたが、本の構成としては先輩目線で書かれたものと、黒髪の乙女の目線でかかれたものが互いに進行していきます。さらに全体は4部構成となっているためそのときの目的というかテーマがはっきりしている。1~4章ともそれぞれの章の中でバラバラなものがひとつにまとまっていく感じでストーリーは展開されていくためリズムがあります。このテンポに乗ってしまい、もったいないと思いつつも2時間、2時間の二日で読みきってしまいました。


さらにさらに、文章が独特である。少し古い感じで書かれているため癖があり多少読みづらい。おかげ僕は途中まで大正から昭和の京都が舞台かと思っていたくらいですが、おそらく時代は現代です。

確かに読みづらい部分はあるが、その癖がおもしろく、この本がきれいに仕上がった基礎となっていると僕は思う。


文章だけでなく、内容も少し特殊で、どこまでが現実の世界観でどこからが空想なのか混乱してしまいがちだが…これも味と思い読むことがコツである。どうやら漫画にもなっているようだが、これは小説として読んでこそ世界がみえる気がする。映画やドラマなんてもってのほかだろう。と、僕が言ったのは読めばわかるはず。


いろいろとこの本の特徴を挙げましたが、この本で最も何がいいって…黒髪の乙女がかわいいんです。非常に。おそらく僕がこの乙女に出会っていたら間違いなく恋をするだろうってくらい。

本の中で先輩が彼女のよさを語った部分があったのでそこから抜粋。


例えばここに、「鼻毛が一日に1メートル伸びる男」という誰が何を目的に作ったのかてんでわからん映画を観てさえ感涙する心優しい乙女がいて、お化け屋敷にぶら下がる蒟蒻に「おともだちパンチ」で立ち向かう闘志を持ち、「かつて京都と福井は一本の鉄道で結ばれていた」という法螺話にも真摯に聞き入れる素直さで、(中略)しかもその乙女は清楚な佇まいにちぐはぐな、巨大な緋鯉を背負ってる。


おや?伝わってないかな?でも僕は非常にかわいいと思いました。だって、

ボーッとしたことでそわそわした自分をもてあまし、部屋にある緋鯉のぬいぐるみをぽかぽか叩いたり、むぎゅっと押しつぶしたりするんですよ?

お見舞いにいったのに、彼女の人柄からかお見舞いされてる人から南瓜を受け取り、戦利品をもちかえる私欲な私達をお許しくださいというんですよ?

まだまだかわいらしい部分が本に詰まってます。反則です(〃∇〃)



恋愛をテーマにした本は今まで手にした事はほとんどなく、ドラマや映画だけで十分だと思っていた僕ですが…この本だけは別でしたね。

ほっこりする。笑える。こんな本ならハードカバーでもどんどん読んでいきたい、そう思いました。


本を読んで衝撃を受けたのは岸本佐知子さんの『気になる部分』 『ねにもつタイプ』以来です。あの独特の世界観はどこか通ずるものがあります。


この本を読んだ人とあぁでもない、こうでもないと語り合いたい、久々にそう思った作品でした。


べた褒めしすぎました…反省。うむ。

・読みづらい文体が苦手な人 ・ありえない話が苦手な人 ・雲をつかむような感覚が苦手な人 ・不思議ちゃんな女の子が苦手な人 は立ち読み必須です。



ふぅ…

ただでさえ漫画が増え、重量感の増した本棚がハードカバーの本が並ぶことによって余計にきしみ、今にもこの一箇所が地面へずんと落ちてしまいそうな感じです。

でもいいんだ。

僕は自分の集めている本に重みのないものはないと信じているから、むしろ見た目以上の重量があることを知っているから。