「八朔の雪」人情に泣ける、料理にヨダレ | 本の話がメインのつもり

本の話がメインのつもり

気まぐれに選んだ本を読みながら、何となく見つけたジャンクな菓子ばかり食べます。

八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)/高田 郁

おいしそう!:食食食食 /5

人の優しさに涙:かなしいねかなしいねかなしいね /5



高田郁さんの「八朔の雪」を読みました。

惠さんのブログを拝見しモロに好みの設定だったので

さっそく……


澪は奉公先だった大阪の料理屋「天満一兆庵」を失い、

ご寮さんと二人江戸で暮らす。蕎麦を商う「つる屋」で江戸と

大阪の味覚の違いに振り回されながら奮闘する、

料理人澪の連作短編です。


『狐のご祝儀』ぴりから鰹田麩

 上方とは違う鰹出汁にどうにも慣れない澪。あるとき、出汁を引き終わった

 煮干を食べている子どもを見て、捨てている出汁がらを使って

 何か一品出来ないかと思案する。


『八朔の雪』ひんやり心太

 8月の「八朔」では吉原で「俄」という賑やかな催しがある。「つる屋」の

 旦那さん種市と医者の源斎が澪を連れて行ってくれた。

 ところが澪は吉原を出るのに必要な「切手」をなくしてしまう。


『初星』とろとろ茶碗蒸し

 種市が腰を痛めて、そばを打てなくなってしまった。澪は「つる屋」の

 雇われ店主として働いて欲しいと頼まれるが、江戸の料理にまだ

 慣れず、失敗して種市に迷惑をかけることを恐れていた。


『夜半の梅』ほっこり酒粕汁

 番付表に茶碗蒸しが載り、料理屋として繁盛する「つる屋」だったが、名料理屋の

 「登龍楼」の嫌がらせも受けていた。そんな中、澪の真似をして茶碗蒸しを

 店で出していたことに腹を立てたご寮さんが「登龍楼」の板場で大怪我を負わされる。



おもしろかったです。

時代モノ、料理モノ大好きなのでかなり好みのテイストでした。


登場人物がみんな優しくて、気持ちよく読める作品です。

「敵」っぽいのも登場しますが、

その悪意よりもそれに屈しない料理人澪の姿勢が

クローズアップされています。


その澪は勝気でちゃきっとした娘かというと、そうじゃないんです。

なんとも情けない様子に眉毛の下がった、おっとり系の18歳。

その澪が料理に関してはすごい入れ込みようなんです。


連作短編で過去のエピソードに意外なつながりがあったり、

飽きが来ないタイミングで「事件」が起こったりと

全体を通してかなりバランスがいいように感じます。


そしてやっぱり料理がおいしそう。

ポイント高いです。


大阪と江戸の料理、現代でも少しは地域差があるようですが、

江戸時代はもっと違っていたんでしょう。


澪は客に料理の文句をぶつけられながらも、

寛大な店主の種市や、母親のようなご寮さん、

医者の源斎先生、そしてなぜかいつも的確な

アドバイスをくれる謎の侍の小松原様に助けられて、

江戸で通用する絶品料理をいくつも作り上げていきます。


今でこそそんなに珍しい料理ではないのかもしれませんが、

その描写を読んでいるとどれも食べたくなってしまう。

巻末にレシピも付いていました。


何だかこの作品、次回作が出そうな終わり方でした。

まだ謎が残っているし、澪の一番の目的も果たされていない……

出たらいいな。


おもしろい本を教えていただきました。

惠さんありがとうございます。