舞台「オンディーヌを求めて」に登場する“黒い人” | てるブロ

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三倉茉奈さん・佳奈さんが主演された舞台「オンディーヌを求めて」に登場する“黒い人”についてはその解釈が諸説あるようで、今更ながら自分も自分なりの見解を書いてみたいと思います。



●メグの部屋に現れた“黒い人”


アルコール依存症の禁断症状で、アルコールが切れた状態で現れる妄想・幻覚を表現している


あいとメグが2人とも不合格となるパターンのエンディングの中で、あいはアルコール依存症で、“黒い人”が見えるのはそのせいだとも語っていました。このようなサイト などでアルコール依存症についていろいろ調べてみたりもして、アルコール依存症の末期症状でアルコールが切れた状態の時に現れる漠然と“誰かに襲われる”といった妄想や幻覚を表現しているのかな、と解釈することにしました。


その妄想や幻覚の苦痛から逃れるために我慢していた筈のアルコールを飲む、というわけで、メグにワイン(それも、シャトー・ラトゥールの1988年)を勧められても「じゃあ、ちょっとだけ」などと気が進まない素振りだったあいが“黒い人”が度々現れるようになると「ウイスキーない?」とアルコールを要求するあたり、見えない“黒い人”に怯えながらその存在を打ち消すかのように震える手でバーボンの入ったグラスへ手を伸ばすあたりの描写からも、そのように解釈してみました。


ただし、アルコールが切れると妄想・幻覚が現れる状態ともなると、起きている間はほぼ飲み続けていて仕事など日常生活に支障をきたすような末期のかなり重症な症状のようですので、果たして舞台「オンディーヌ」のオーディションでまともな演技ができたのかかなり怪しくなってしまいます。それに短時間に妄想や幻覚が起きる頻度があまりに多いような…。疑問が残るところです。



●あいを襲った2人の“黒い人”


メグとリュウの“2人”に裏切られ傷ついたことを暗示している


このシーンはいくら考えても正直言ってよく分からないのですが、次のシーンであいがメグとリュウの関係を知ったと語っていますので、メグとリュウの2人に裏切られた衝撃やあいが受けた心の痛みや傷を暗示し表現しているのかな、と解釈することにしました。つまり、2人の“黒い人”=メグ+リュウということになります。


次のシーン、あの晩きっとあいはメグに付き添ってパーティー(おそらくはメグがニーナを演じた舞台「かもめ」の打ち上げパーティー)に出席して周知の事実としてメグとリュウの関係を初めて知り、パーティー途中で会場を飛び出し部屋に帰ってワンピースのようなパーティー衣裳から(日課の自主練のために)稽古着へと着替える途中でそれまでこらえていた涙が溢れ出し自失状態で床にへたり込んでいた、そこへ後からメグが呑気に「大阪で生まれた女」を歌いながら帰ってきたところから芝居が始まる、という設定にしてあります。(あいが下着姿でスローモーションで歩くところは、襲われて衣服を剥ぎ取られて下着姿で帰宅中、ではなくてまだ芝居が始まる前で単に舞台中央の所定の位置へと移動中、という解釈です。)


あいが襲われるシーンの背景が(ニューヨークの)繁華街のようだったりするのも演出意図がありそうで気になるのですが…、すべて都合よく無視することにしました。




“黒い人”に関してはなかなか釈然とした答えが見つからずあれこれ考え続けていましたが、あまり“黒い人”にこだわり続けると“木を見て森を見ず”になりそうで…。例えばあいがニューヨークへ渡ろうとした動機など、物語の根幹を成す重要な要素を見失ってしまいそうな気もします。自戒も込めて、物語の本筋や倉本先生がこの本を通じて伝えたかったであろうメッセージを考えて、それに合わせて良い意味で自分に都合よく解釈することにしました。(きっとかなり独創的な解釈かも知れませんが。)


それにしても、舞台を観た皆さんの見解がいろいろと分かれているようなのは、果たして倉本先生の意図されたところなのでしょうか。リアリズムにこだわる倉本先生の作品に、結論は各々の観客の感覚や解釈に任せる、といった抽象的な表現は無いようにも思われ…。もしも“正解”が存在するのだとすれば、倉本先生の脚本・演出に何か足りない部分があって表現したいこと、伝えたいことがもしかしてうまく観客へ伝わっていなかったのでは、そんな気さえ少ししています。(黒い人に襲われるあい、下着姿のあいの描写の見た目のインパクトがあまりに強すぎて、もしかしてそれ以外の認識を鈍らせているような…。)単に自分の理解力が低いだけのような気もしますが…。


おっと、うっかり批評家やメディアのように批判めいた記事など書いたりして、オオサコヒロシさんやワタセタモツさんのように先を尖らせた割り箸でブスッとされてチンチン沸いた油の中へジュウッ、なんてことになるといけませんのでほどほどにしたいと思います。



【おまけ1】

“黒い人”役の水津聡さんが書かれたブログ記事、万が一見逃された方のために。


元 11☆9の者らのブログ

能勢←のせで『オンディーヌを求めて』


能勢・浄るりシアターでの本番前の稽古の様子。富良野塾の看板女優だった(そして初演時にはあい役を務めた)演出助手の森上千絵さんから、あい役の茉奈さんだけでなく佳奈さんもバレエ指導を受けていたことが分かります。特に茉奈さんの立ち姿が美しいですね。


元 11☆9の者らのブログ

今日は、1200からと、1630から。


この作品に欠かせない大事な小道具、ですね。そして、楽日本番前のお2人の表情、落ち着いて引き締まったとてもいい表情をされているような気がします。



【おまけ2】
舞台「オンディーヌを求めて」の余韻もまだまだ醒めやらぬ中、昨日の12月5日(日)には初台の新国立劇場小劇場でチェーホフ原作の舞台「かもめ」を観てきました。

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演出は、舞台「さくら色 オカンの嫁入り」を演出された西川信廣さん。演じたのは西川さんが副所長を務められる新国立劇場の演劇研究所の4期生の皆さん。(劇団かもめ座の養成所17期生だったあいとメグの姿、ちょっぴりかぶります。)ニーナに限らず、登場人物一人一人が生き生きとしてその個性が際立っていて、とても魅力的な「かもめ」でした

ちょうど1年前は、同じ新国立劇場の中劇場で舞台「パッチギ!」の初日の幕が開いて間もない頃。佳奈さん演じるキョンジャを観るために何度か通った新国立劇場、懐かしい形をしたクリスマスツリーでした。

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