瀋陽は寒冷地にある都市なので、冬期の暖房は地域暖房である。毎月111日から建物の中は温水が通って、室温を20度に保ち、これが春の3月いっぱい続く。





厳寒期に建物を保温するから外壁は厚い。私たちのいる新実験棟の外壁の厚さは50-60 cmある。東京あたりの10-20 cmとは大違いだ。





瀋陽では暖房の入る前の10月の終わりが一番つらい時期である。10月初めの気温の20度がぐんぐん下がって、10度、5度、時には零度にもなる。しかし厚い外壁のおかげで、この時期は暖房がなくても室温は下がってせいぜい18度くらいである。





そういうわけで、瀋陽の暮らしには日本にいるときに比べて不便なところもあるけれど、不便は慣れてしまえばどうと言うことはない。それよりも冬の室内の暖かさは快適そのものである。日本でも札幌なら良いかもしれないが、東京あたりの冬と比べると、瀋陽の方が遙かに住みやすい。





今の瀋陽は見渡す限り高い建物が沢山あるし、建築ラッシュも凄い。研究室の窓から東を見るだけで、クレーンをたちまち10基以上数えることが出来る。





ところで、私のお気に入りの散歩コースは、大学の正門付近から歩道橋(中国では天橋という)を渡って北にある国立金属研究所を通り抜けたところにある運河の周辺公園と緑道である。このあたりは瀋陽一の陸軍病院があるし、二中と呼ばれる瀋陽最高の公立高校があるし、瀋陽の中心からわずか数キロだし、公園も豊かに整備されていて高層住宅マンションが立ち並んでいる。





このあたりの高層住宅マンションは床面積1平方メートルが2万元近いらしい。日本円で40万円だから日本と比べて余り違わない。それでも売れに売れているのだから今の中国の庶民の実力はたいしたものである。





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金属研究所の敷地に接して直ぐのところに、この手のマンションがありこれは数年前に建てられたものなので10-20階くらいしかないが、しゃれた作りになっている。





そこを通っているとき、屋上から人が壁につり下がって作業をしているのが見えた。ちょうどその下を通り抜けるところだったから、「上で作業をしているから立ち入り禁止」くらいの標識は作れよな、と思って上を眺めた。





立ち止まって眺めていると彼らは大きな白いパネルを壁に貼ろうとしている。大きいパネルなのに太い綱にくくられた作業員は軽々と作業をしている。このパネルを壁に貼っている。





翌日見ると、白い板の上に塗料が掛かって、既存の壁と同じ色になっていた。





結局理解したのは、しゃれた建物に住んでは見たが、経費節減か、手抜きかは知らないが、建物の壁が薄くて寒い。それで建物の外側に(厚さ4-5 cmの)発泡スチロールの板をおそらく自前で人を雇って貼り付け、これに金属ではなく合成樹脂の粗い網をかぶせてセメント混じりの塗料を上から塗るのだ。





建物の壁を一斉にやるところもあるが、必要なフラットが自分のところの壁だけこうやって貼り付けるようだ。





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なるほど、なるほど。中国ならではの現実的、実質的なやり方である。そしていってみれば、この頃日本でもはやりの外断熱である。





でも、いくら何でも日本ではこのようなことは思いつくまい。建物の外に発泡スチロールを張って、その上は薄いセメントを塗っただけでは、建築基準法を通るまい。発泡スチロールは可燃物だろう。こんな工法をするとコンクリート造りの高層ビルが真っ黒なすすを上げる炎で包まれることになる。





それにしても、このような工法を考え出す人たちは思考が柔軟である。ただただ感心するしかない。日本人とは文化が違うのである。



20091110