ローストビーフとAging<熟成> 追記 | Ta助の厨房

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料理人 Ta助が
真の「食」を求める旅録

さて、ローストビーフの話題は昨日でひと段落。
クリスマスになんとか記事が間にあって、安堵しておるところでございます。

今日は一点書き残した〝熟成(エイジング)〟について追記させていただきます。



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さて、牛に限らず、動物はと畜直後からいわゆる〝死後硬直〟が起こる。

死後酸素を供給する血液の循環が停止し、まず酸化現象が停止する。
そして、筋肉に含まれるグリコーゲンが分解して乳酸が生成され、pHが低下し、
ATP(アデノシン三リン酸:生物体内の存在量や物質代謝における重要性から
『生体のエネルギー通貨』と呼ばれる。)の減少などによって、保水性が減じ筋肉が硬直する。

つまり、と畜直後から肉は硬くなるわけである。


しかし、食肉は一定の期間をおくことで食用に適した食感と食味をもつようになる。
この間に筋肉の構造基本単位である筋原線維(タンパク質)は酵素によって分解され、
筋組織の軟化が進行するとともに、呈味性ペプチドが生成してくる。
この一連の流れは「自家消化」と呼ばれている。

平たく言えば「新鮮な肉は硬い」が期間を置くことで「柔らかくなって旨味が増す」
これが〝熟成(エイジング)〟であり、以上が大雑把なメカニズムである。




人為的に、よりよい状態にエイジング処理するにはいくつかの方法があり、
ウェットエイジング、ドライエイジング、真空パックなどに分かれるが、
安定した温度を保つことのできる冷蔵庫や機材を持った精肉店や料理店でなければ
難しい場合が多い。そのため、今回は家庭でできるリード巻の方法を紹介した。


【 家庭でできる熟成〝エイジング〟方法 】

冷蔵庫のなるべく低温の場所(0~1℃が最適とされる)に
リードで巻いた肉を置いておくだけである。

置いておく日数であるが、牛肉は店頭に並ぶまでに
熟成期間を経ている場合もあるので、状態を確認してからとなるが
3日~1週間程度でも十分変化は望める。肉の臭いをかいでみて、
牛乳のような臭いがあれば、やや短めに、また、1日で黒ずみ始めるようなら
熟成が進んでいる証拠なので早めに切り上げたい。

また、今回のローストビーフでは、オーストラリア産の牛モモを使用した。
これは、オーストラリアから日本へ到着する間におよそ2週間は経過しているため
冷凍であっても少なからず熟成は進んでいるため、家庭で追熟せずとも
あるていど柔らかく仕上がるといったことに由来する。
当日作るなど急な時には、ひとつ覚えておいても良いかと思う。
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【 家庭でできる熟成〝エイジング〟と食中毒への注意点 】

さて〝熟成〟の過程で最も注意したい問題がひとつある。
それは、食材としての劣化となる腐敗や、細菌の繁殖による食中毒である。
クリスマス、正月と忙しないこの時期にこそ是非ご注意頂きたい。


食肉が原因となる食中毒の主因は、繁殖した細菌類が
加熱が甘く死滅せずに残存していた場合に発生する。(代表するものにO-157)

細菌類は外気に触れている個所でよく繁殖する為、以前の記事でも紹介した、
加熱処理しないで食べる生食、挽肉で作った加熱の甘いハンバーグ、
一部サイコロステーキのような結着・成形肉で焼きが甘い場合、そして、
ジャガード、テンダリング(細かい針を突き刺し柔らかくする)され
表面の細菌が中心に押し込められた状態で生焼け(レア含む)に仕上がった
ローストビーフなどもその原因となり、毎年これらが確実に発生している。


※詳しくは当ブログ2011/05/05~07掲載記事をご覧いただきたい。

【ポイント】

熟成の段階で、細菌の繁殖を極力抑えるため、
巻いたリードは肉汁がしみ込むので、毎日取り換えたい。

また、肉の表面に塩を摺り込んだり、ワインや油などで酸素を遮断することなどでも
確実ではないが抑えることにつながる。

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このあたり、一般的なレシピには登場が少ない方法ではあるが、
ひとつの方法として覚えておいて損はないと思う。

あとは、しっかりと表面を焼成することに尽きよう。





単純な料理ではありますが、いくつか配慮することで、
さらに美味く仕上がる料理がローストビーフであると思います。

それでは、素晴らしいクリスマスをお送りください!