若い頃、観光地にある町に住んでいました。
駅に向かうには、細い路地を歩きます。
ある日、
板塀沿いの路地を歩いていると、大きな門から乗用車が不意に飛び出してきました。
風圧を感じるほどの速度です。
運転している中年女性が、此方を見る気配はありません。
突進する顔 だけでした。
その日から、
その門構えの場所を通るときは注意していますと、前回同様に飛び出して行きました。
同じ女性です。
そして、
暫くしてその場所を通った時、事故を見ることになりました。
自転車(ママチャリ)がひしゃげて横倒しの前で、警察官と、かの女性が話しています。
被害者は、すでに救急車で運ばれた後でした。
奇妙な笑みを浮かべて、甲高い声で喋っています。
中年女性から感じたものは、「黒い情念の影」でした。
突進する顔が、
事故としてシンクロしました。
情念の捌け口にされないように、気をつけて下さい。
短稿でした。