それでも夜は明ける
3月11日(火) 18:00~ TOHOシネマズ六本木
好き度:★★★★☆ 4/5点
これを撮った勇気と、受け入れたアメリカの空気
それでも夜は明ける、前売り券を買っていたのでTOHOシネマズ六本木の7番スクリーンで観てきました。アカデミー作品賞を公開直前にとったGAGAマジック、仕事終わりの午後6時の割にはいつもの六本木と比べると正直ぜんぜん人入ってなかったですね~。まぁ人が入るタイプの映画ではないとは思いますが…w 「アカデミー作品賞」という売り文句ってもうあんまり通用しないのかなぁなんてことを思ったり…。まぁ内容が内容なので何とも言えませんが。あと、人が少なかったことが幸いして宇多丸さんを発見しましたよ~まえ発見した時と同じ席に座ってました。
というわけで「それでも夜は明ける」僕はすごくよかったと思います。グッとくる場面、苦しい場面があってよくアメリカでこの映画を製作して、そしてアカデミー賞というザ・アメリカな映画賞でこの映画を受け入れたということがすごいですよね。今年のグラミー賞の「SAME LOVE」といい、今年のアカデミー賞の「12 Years a Slave」といい、アメリカのそういう雰囲気がなにか変わりつつある感覚というかそういう空気感をリアルタイムで体感できている感じがします。
それでも夜は明ける、監督は「SHAME」のスティーブ・マックイーン監督。SHAMEもセックス依存症というものに真剣に向き合いつつ、主人公の過去に「あれ?虐待されてたのかな?」とか妹との関係も「あれ?なんか近親相姦のにおいがするぞ…」とかいろんな後ろにある意味とか裏設定みたいなものがすごくうまーく隠されている映画でしたね~。あとファスベンダーの巨大なチンコが画面を割拠したり、キャリー・マリガンのメンヘラ演技とか見せ場の歌唱シーンとかもいろいろあって、ラストのキレも最高でかなり好きな映画なのです~。
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そんなわけで今回の「それでも夜は明ける」も予想以上にというべきか予想外にというべきか、すごく抑えの効いた映画になっていて、いくらでもドラマチックにも逆に陰惨にもできた映画だと思うんですがとてもフラットにできている映画だと思いましたね~。過剰なドラマ部分を排したということで悪く言えば地味にもとれる映画だと思います。が、僕はこの過剰なドラマ性とかエモさを排した演出がすごくいいんじゃないかなあと思っていて、寄る辺ない感というか邦題のとおり勝手に夜が明けていく感じというのがすごく生きていて、奴隷という最低な行為を扱ってはいますが映画としてとても上品な映画だったと思いました。ただ、主人公の心情変化がところどころわかりにくいところがあってまだ理解できてないところがあったりするのも事実。。
そんな感じで文字通りフラットに作っていたぶん、ラストのプロデューサーブラッド・ピット自ら演じる大工のバランスがすごく浮いて見えるというか、今まで抑えてきた製作者側の感情がグッと出てきちゃっててもうちょい抑えて欲しかったかもしれないです。ブラピがストレートに正論のスーパーマンすぎてそこだけすごく説教くさすぎて感じてしまいました。そこのバランスがちょっと気になったり…
- ぐぅ聖人ブラピ。あたりまえのことなんだけど当たり前が通用しない時代なのです…
この映画、恐怖ライド系映画として、ゼロ・グラビティに近かったですね。というより、今年のアカデミー賞の映画、キャプテンフィリップスやダラスバイヤーズクラブにもすごい近いものがあるなぁと思いました。どうしようもできない巨大なものに巻き込まれるライド映画であり、行って帰ってくる話ですよね。しかも今までのハリウッド映画に代表されるアメリカ万歳のある種アンチ的な内容であることも、ゼログラはちょっと違いますが共通しているもののように思いました。今年のアカデミーの空気だったのかなぁなんて思ったりしました。あと長回しがすごくキツかった。ゼログラ以上に息が止まりそうだった長回しでした。
奴隷制度っていうのものが本当に最低のものであるということがほんとにちゃんとわかる映画でしたし、興味深かったのは奴隷になった人間はもちろん奴隷を使う人間も崩壊していくということ。
はじめにソロモンを買ったのはカンバーバッチ。この人は奴隷制度がおかしいことなんじゃないかというのを内心気づいている人でしたが、世間・時代の同調圧力に抗えず悪いと感じながらも流されている人で、これがすごくリアルでした。実際僕も同じ立場になったらぜったいカンバーバッチみたいになってると思いますもん。人間の弱さみたいなものと社会性との関係がすごく普遍性のあることだと思いました。憎々しく演じる脇役もよくって、みんな大好きポール・ジアマッティ、そしてポール・ダノもすっごくいい演技してました!
次に行ったのがファスベンダーの家。
ファスベンダーは妻がいるんですが、奴隷であるルピタ・ニョンゴちゃんのことが明らかに好きなんですよね。でも、当然黒人を好きになったなんて言えないし、黒人を好きになった自分を認めようとしない。でも明らかにルピタちゃんが好きってバレバレだかた奥さんの嫉妬心に火がついて…という、ここのファスベンダーの象徴する人間の弱さがすごい出てて、最後にルピタを鞭打ちにするところとか辛かったですね。奴隷って言っても肌の色が違うだけでおんなじ人間なわけで、当然好きになってもおかしくないわけで、だからこそこうならざるを得なかったこの時代そのものの残酷さをすごく感じました。
この「Roll Jordan Roll」という曲を歌う場面。黒人奴隷の老人を弔う場面なんですが、ここのシーンが本当に忘れがたくて、この曲がずっと離れない状況です。一生を奴隷のまま死んでいった老人を前にした主人公の本当に絶望的な場面、そこで「音楽」を聴いて次第に自分も口ずさみ、涙を流すシーンがものすごく印象に残っています。ただ、この周辺の主人公の心情変化がまだ理解できてないところがけっこうあるのです。頭の中で、手紙を渋々燃やす場面、この弔いの歌の場面、バイオリンを壊す場面の主人公の心情変化の流れの整理がまだ出来でなかったり…こういう感覚は非常に前作SHAMEに近いです。何回か観たい感じです。
ラストのテロップも衝撃でした。「証言者が白人の時、黒人の告訴は取り下げられる」というもの。なんたる理不尽。そして、このラストに加えてこの映画がアカデミー賞で作品賞をとったというこのもうひとつのラスト。ここでなにかが変わりつつあるのかもしれないと思いました。マックイーン監督はスピーチで「奴隷制度はまだ続いている」ということを言っていました。まだまだ根強くあるんだなぁと思っていたところに…
先日こういう記事を見まして。この映画で扱っている奴隷制度と地続きの問題ですよね。こういうところからはじまっちゃうんじゃないのかなぁって。この映画、「奴隷制度とかあんま知らねぇし…」みたいな、日本人に無関係なお話ではないですよ。非常に普遍性のあるむしろ身近な話かも知れないですよ。まだ、こんな横断幕がかかっちゃうわけだしさ。けっして無関係ではないと痛感しました。
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- スタッフ
- 監督 スティーブ・マックイーン
- 製作 ブラッド・ピット
- デデ・ガードナー
- ジェレミー・クライナー
- ビル・ポーラッド
- スティーブ・マックイーン
- アーノン・ミルチャン
- アンソニー・カタガス
- 製作総指揮 テッサ・ロス
- ジョン・リドリー
- 脚本 ジョン・リドリー
- 撮影 ショーン・ボビット
- 美術 アダム・ストックハウゼン
- 衣装 パトリシア・ノリス
- 編集 ジョー・ウォーカー
- 音楽 ハンス・ジマー
- キャスト
- キウェテル・イジョフォー ソロモン・ノーサップ
- マイケル・ファスベンダー エドウィン・エップス
- ベネディクト・カンバーバッチ フォード
- ポール・ダノ ジョン・ティビッツ
- ギャレット・ディラハント アームズビー
- ポール・ジアマッティ フリーマン
- スクート・マクネイリー ブラウン
- ルピタ・ニョンゴ パッツィー
- アデペロ・オデュイエ イライザ
- サラ・ポールソン エップス夫人
- ブラッド・ピット バス
- マイケル・ケネス・ウィリアムズ ロバート
- アルフレ・ウッダード ショー夫人
- クリス・チョーク クレマンス・レイ
- タラン・キラム ハミルトン
- ビル・キャンプ ラドバーン
- クワベンジャネ・ウォレス マーガレット・ノーサップ
- 作品データ
- 原題 12 Years a Slave
- 製作年 2013年
- 製作国 アメリカ・イギリス合作
- 配給 ギャガ
- 上映時間 134分
- 映倫区分 PG12