面打 能面師 新井達矢の制作日記

面打 能面師 新井達矢の制作日記

日本の面に向かう日々

東京は西の外れ羽村市にて能面などを打っています。

面の制作と修復、木彫教室の講師、お囃子が主な日々。
気の向くまま適当に書いておりますので、たまに覗いて頂けたら幸いです。

以下は私の連絡先です。
omenkotapa@gmail.com

1月20日にBS日テレで放送された番組。

民法局で歌舞伎以外の伝統芸能の特番というのは珍しいですね。

内容には様々ご意見あるかと思いますが、企画を実現されたスタッフの方々に敬意を表します。



https://m.youtube.com/watch?si=oByVoJhcVtT8HZP6&v=mCzEJxC64oU&feature=youtu.be


その中で私のコーナーのみ全編YouTubeにアップされました。何という大盤振る舞いでしょうか。


謳い文句は様々な場面でメディアの方々が付けてくださいます。

最近は私よりも若年、同世代で能面制作に携わる人も増えてきました。魅力的な世界なので当然でしょう。

中には非常に上手い方もいます。

二世さんや現役バリバリの師匠に師事している方は、受け継ぐべき手本、資料、型紙等あるでしょうから、強いです。

経験年数ではありません、熱意と適性があれば早

道も可能かもしれません。

私は20歳で師匠を亡くしましたので、自力で揃えつつ、諸先輩方から譲り受けたものもありますが、まだまだです。

形の無いところからの面打なるものを探り続けるべきなのかもしれません。

同年代の方に比べれば制作年数は長いですが、仕事の良し悪しとは関係ありません。

古の名品と比べれば自信や奢りは一瞬にして吹き飛びます。















これはごく僅かに感じられるシミのような色を面相筆で描き込んでいるところ。

古色の一種ではありますが、ざっくり肌に濃淡を与える段階などもっと変化がわかりやすい工程をお見せした方が良かったですね。


ここで煤液について話していますが、重要なのは、これだけで肌の古色が表せるわけではないことです。

煤に絵の具や墨を混色する、絵の具に煤を僅かに混色するなど、その加減がミソということを加えてお伝えします。


年明けは修復に明け暮れたので、アップできる面の画像がありません。。





いやいやが始まり大変なことも多くなりましたが、

画面を見て「パパだー」と言ってくれました♪



前回も書きましたが、改めて。

番組のホームページをスクショしたものを上げさせて頂きます。








能狂言と文楽を特集するテレビ番組は少ないので貴重かもしれません。

十六の制作工程を追って頂いたわけですが、今まで来て下さった取材で多くの工程を撮影したいと仰っても、その日数は4日くらいが普通でした。

(完全密着の映画「面打」三宅流監督は別です)

しかし今回は6日来られました。年末の忙しい時期にも関わらず毛描きなどの繊細な工程も撮影されたいとのことで熱心に来て下さったのは良かったです。

しかし何分くらい使って下さるかが気になりますが、5分もあれば長い方だと思います。 


カメラが向けられていると、彩色工程などは殊の外パホーマンス的になってしまうことがあります。

”今のこの角度、この手つきが撮りたいのだな”というカメラマンさんの空気が伝わってくるので、何となくそこで止まったり。。。

本当に集中したら手元に抱え込み、チマチマと微調整を際限なく繰り返すので、画になりにくいのでは思いますが、余計な気遣いかもしれません、




これは1994年に地元羽村市の広報課内の「テレビはむら」で作られた番組の一部です。

名前の漢字や年齢が違いますが…

昨今のようにスマホで気軽に撮影できる時代ではなかったので良い記念になりました。

これより2年前に撮影した他のケーブルテレビの番組があるのですが、VHSのため10年以上段ボール箱に入れっぱなし。

カビだらけで見られないでしょうね…

修復の大変なようですし。

NHKの首都圏番?に複数回、MXテレビの朝の生番組出演のため自宅工房から中継、そのあと高校に行ったこともありました。

それらも全てカビだらけでしょう…


テレビ新聞等から度々取材を受けていた時期は、何か際物?話題作りというか、まだまだ業界では本当に相手にされていない証拠のような気がして少し嫌煙していたこともありました。

真に能楽界に関わっている大先輩は、それほどメディアに露出されていません。




平成21年の○ド○ッ○天国の動画。

こういうの上げたら問題でしたら消します。




宝生型の大悪尉。

こちらはスクショです。





この時期まで書かずに、とうとう大晦日です。

こちらに掲載していない面の画像を幾つか。



増女は沢山打っていますが…

何度も修正を重ねました。

個展会場の催しで、この面をシテ方の先生が掛け紋付で羽衣を舞われました。



短時間の舞台ですが、ダメな部分に気がつけたのです。

目じりは短いより、長めの方が美しく見える、艶やかな雰囲気が出るため墨入れを伸ばす癖があるのですが、それも限度があり、過ぎると目尻ばかりが目立つ落ち着かないものになります。

同じ種類の江戸期の優れた面、左右の目尻の差し渡しの寸法を図ると殆ど同じ。

感じの違う面でも寸法が決まっていることがわかります。

その範囲の中で遊ぶ、これが重要なのでしょう。



増女は目尻の短い名品も多いですが、長くすると天人や女神の清浄、崇高さに加え、人間的な艶や深い思いのようなものを感じさせるような気がするのです。

兎に角優れた古面を横に置いて写さなければ本当の面は打てないようです。。



この十六はご依頼で打ったものです。

本面は栄満打では?と思う面。

あまり評価されている面打ちではありませんが、やさしめの彫り、淡い色調の彩色から柔らかな印象を受けるので、もっと古いのでは?と思わせるような面を打つ人のように思います。

ただ、何かそこに弱さがあるようで…



目の彫りが優しい、特に上瞼の眼窩の深さが浅くペラっと見えるような気もしました。

最初は本面のそうした特徴を変えて打ってみたいと思ったのですが、彫り進める内にそのような、気持ちは消えました。だんだん良さが分かるというのでしょうか、見え方感じ方が変わってきました。



こういったことは本面を横に制作している場合は度々あることで、最初気に入らなかった面も、次第に良くなり、ついにはお気に入りになったり。



しかし彩色は変えました。

目の墨入れの仕方と肌に赤味を刺す範囲を広げ、華やかな雰囲気を加味しました。


















この面は金剛流のシテ方山田伊純先生のご依頼で打ちました。

角材の状態から完成までをテレビ番組としては多い回数、細かく撮影して頂きました。

もう一般的には若くもなく、もの珍しさは無いので取材は久しぶりです。今まで撮影して頂いたことのない繊細な工程もご披露したのでどうなりますでしょうか。

以下当該番組ホームページのスクショです。






10月に一度仕上げた大童子に手を入れました。



一度お舞台に使って頂きましたが、やはり物足りない。

再び彩色に手を入れました。



骨がモノを言いますが、彩色から受ける印象は大切でしょう。

古色の調子、毛描き、疵彩色、光沢…






今年もお世話になりました。



子供は可愛すぎます。



テレビのために写真を選んでいたところ、これが最も初期の面の制作風景だと気がつきました。

ただ彫っているのは木ではありません、発泡セメントなるものだったような…

不動明王の面。















通常の口を開けた、小獅子に髪を生やしたような面ではなく、仏像に近い表情のものを。

それも成田山新勝寺さんのご本尊に似せて欲しいとのご依頼で制作しました。



これは図面というか原寸大のデッサンです。

創作面のため当然お手本はありませんので、型紙も無いのです。

その場合は上記のような絵を描いてから進めます。

この次に塑像を作る方も多いですが、図面から簡単な輪郭型を起こして木に向かいます。


参考にした古い本の写真。

口を閉じた仏像に近い珍しい型の不動面。




蔵王権現にも使えるように口が開いているのですね。



不動明王がシテとして登場する現行曲は「調伏曽我」だけ?のようですが、五流全てにあるわけではありません。







仏像から離れ、能面ナイズされた色々な不動があって面白いです。

明王の漠然としたイメージを形にしたというか、能楽の象徴性や、不動明王でも蔵王権現でもなく流用が効くようにした事情があるかもしれません。


しかし今回のご依頼はバッチリ不動さん。

半ば復曲能「成田山」の専用面として制作しました。

 





















図面は描きましたが彫りながら決めて行きます。

特に厚みは103ミリに設定していましたが、粗方形が出来た段階で計測ところ110ミリに。

能面らしい大きさに収めるため奥行きは薄くしていますが、形を求める中で成り行きで厚みが残ってしまったようです。耳が影響しました。 


工夫し甲斐のある彩色です。

先ずは木を変色させ、剥落彩色に備えます。



胡粉等の白下地は行わず、天然白緑の下地。

胡粉より安定していて剥離し難い、ヤニを止める作用があると聞いたことがありますが… ヤニ止め効果は無いらしいです。

古能面の下地に緑のものがあったというのは先輩方からお伺いしていますが、いつか私も修復で出会いたいものです。



この画像ではかなり濃く写っていますが、上塗りは天然白群です。

以前蘭陵王面を制作したときに購入した高価な絵具。

それ以来初めて使用しました。

頭髪は赤口朱土。

数回塗布の後、表面を濡らして剥落や傷を付けました。

所々下地の白緑が露出しますが、これが狙いの一つ。


※この画像は色がおかしすぎますね。

金具を接着し、各部に朱や墨をさし、適宜落ち着かす。髪飾りには金泥、髪は松煙を刷り込んで隈取りとしました。

この段階は表情が決まりかけ、グッと楽しくなります。


青を抑えるため、茶色系を避けた鼠色の古色を肌全体に施して研ぎ出し、様子を見ます。

金泥の下地として、赤黒い色で眉を描きます。

この後金泥を重ね、研ぎ出すことで金の眉に少し赤が露われます。



0.5ミリの銅板を叩き出し、目と歯を作ります。そして本物の鍍金(メッキでなくトキン)、漆とマコモで古色を付けました。



仏像の様式は能面に比べれは遥かに緩やかですが、外れています。

しかし能面として異質です。

こんな珍しい面の制作をご依頼下さった鈴木啓吾先生に感謝申し上げます。




こちら矜羯羅童子として使われる大童子。

穏やかまん丸顔な印象の矜羯羅童子さんですが、制多迦童子さんとして小天神が使われるようなので、この面が良いようです。








肌の赤みは抑えめです。


















昨年の同じ会場、東京都あきる野市の「クラフトサロン縁」さんで開催しております。


新作は増女のみです。