たんぽぽっこのAH君は、以前にもどこかに書いたと思いますが、今年の発表会も彼の音に多くの人の目から、光るものが満ち溢れていました。彼の音にはすごく不思議な力があるのです。それは3年前から、発揮され、今年はその威力が何といっても凄かったです。本番2か月前の練習会では、まだよたよた弾いている時から、もう私の心が揺さぶられ、涙腺を刺激することすること。。。みんなに見られないようにするのが大変でした。

特に、目立ったジェスチャーをするわけでもなく、やたら曲芸師のように指を速く動かすわけでもなく、くどい言い回しをするわけでもなく、なぜなのかわかりません。ただただ自然に心が震えてくる響きがするのです。彼のどこにそのエネルギーがあるのかは、謎です。



彼は小学校高学年から陸上を始め、中2の陸上部の男の子です。とっても恥ずかしがりやで、自分の名前もあまりはっきり言わないどこにでもいる男の子です。彼は小1の時に、ママと一緒にたんぽぽにやってきました。まあ、はっきりいってスムーズにレッスンが進んだわけでなく、私達は、かなり苦戦をしました。ママのお迎えがお仕事で少し遅れると、ベランダで二人でいろんな話をして、ママを待っていました。カードの話、ゲームの話、学校での鉄棒の話、縄跳びの話もしたかな、他にもいっぱい話をしました。


3年か4年の時に、ママが「あまりにも練習をしないので、申し訳ないからピアノをやめます」って、ちょっと涙を浮かべてやってきたことがありました。AH君は黙っていました。「ピアノを辞めたいの?」と私が聞いても、黙っているだけでした。私は、「自分の気持ちはちゃんと言わなくちゃね」といって、その日は終わりました。そして、その後、レッスンは続いて行きました。

私は、基本的にやめる方は弾きとめません。それは十分に考えて決断したことだからです。自分で決めることがとっても大切ですし、「たんぽぽでは、またピアノが弾きたくなった時に弾ける力がある子たちが育っているとおもっているので、弾きたくなった時に、たんぽぽでなくてもよいから弾いてくださいね。」と、お話をしてお別れしています。


話は戻して、それからAH君が陸上を始め、ピアノのテクニックはさぼらずにやってくるようになりました。そして5年生の発表会で、トルコマーチを弾きたいと言って、何とギリギリセーフでしたが、本番はバッチリと弾きました。おばあちゃんちのピアノを弾く日が限られている中、必死に練習してきたし、私とのレッスンも、自分で何回もトライして練習をしました。その真剣さは、彼が一歩大人になり、彼のひたむきな一面が外に現れてきた年でもありました。ママも発表会で彼の頑張りに涙をしていました。昨年とは違う彼に、たんぽぽの仲間もママたちも驚いていたことを覚えています。


彼は「6年生までピアノを続ける」と、あのピアノをやめる騒動の時に決めていたそうで、その6年生の発表会がやってきました。彼の強い希望によりパッヘルベルのカノンを弾きました。

これがすごかった。ステージのスタッフ一同、会場のお客様全員が、彼のちょっと頼りなさげな、はかなげな、でもどこか倫としている音に、悩殺されてしまいました。ピアノを弾ける人もピアノをしらない人も、老若男女、みんなが「涙した」と、発表会後、だれもがその話を私にしてくれました。

そして中学へ進学し、部活も始まりましたが、何もなかったように、普通に毎週ピアノに通ってきました。(笑)

「中間が大変だ~」とか、「部活の練習がきつい」とか、時に私が「彼女できた?モテルでしょ?」と聞くと、そんなことはないと真っ赤になっていました。(また余談ですね)

中1になってから、ソナチネを始め、中2になってからはインヴェンションも初め、同年代の女の子たちとはペースがかなり違いますが、コツコツ練習を積み重ねて行きました。

「インヴェンションをやろうね」といっての1回目のレッスンは、「みんなこうやってこの曲を弾いていたんですね」と、ちょっと大人びた口調で話してくれました。


今、思い出しましたが、たんぽぽでは、隔年で2台ピアノを4年生からやっています。彼が4年の時に、ちょうどパートナーいなくて、裕衣先生(娘)と演奏をしました。それがとっても嬉しかったようです。裕衣先生が奇麗という話になったので、「私もきれいでしょ?」って聞いたら、答えに困って、ずっと部屋のすみを見つめていました。先生に失礼な事はいっちゃいけないけど、うそついてもいけないと、ものすごく困惑していたようです。(かわいい!)



中1の時は、ロマンティック・インテルメッツォを弾き、これも会場中の涙腺をふるわせました。まるで彼のために作られた曲のようで、とつとつと進んでいく時間の中に、何か興奮をする薬が音に入っているのではないかと思う響きでした。この年も発表会後、おじいちゃんが涙したとか、もうピュア過ぎて、自分の心も浄化されたとか、凄く好評でした。

そして中2の今年の彼からのリクエストは、カノンみたいにリフレインして、盛り上がっていくものがいいということで、何曲か候補を出しました。しかし却下されました。「もう少し音域が高いほうがいい」とか、いろいろ彼の思惑があるようで、クラシックではないけれど、アンドレキャニオンの本を2冊渡して、この中から選曲をするようにと提案をしました。彼が選んだ曲は、潮騒と、めぐり会いでした。

周りの期待など全く気にせずマイペースな彼は、いつものようにコツコツと練習をしてきていました。でも私はどこかで、潮騒は無理なのではないかと、心配をしていました。練習もめぐり会いからスタートして、なかなか潮騒を持ってこなかったからです。ま、この予想は見事に裏切られましたが(漠)

特に中学に入ってからの彼とのレッスンは、「彼が習いたいところをレッスンする」と言う形だったので、この2曲も彼のペースで練習方法を2人で考えたり、どう弾きたいか彼の意見を聞き、そうなるように一緒に研究を積み重ねて行きました。

そして今年の発表会の日、潮騒を先に弾いて(曲順も彼が決定)、めぐり会いを弾く曲間、テンポ設定(2曲目の冒頭は彼の独創的なプランで、凄く静かに語りかけるように、スローで)、そのすべてが、本当に自然で美しかったのです。毎年毎年、彼の音のオーラの発光が増えていると思いました。

もうみんな、彼の音楽の世界に引きずり込まれて、おぼれていました。発表会後のアンケートやメールも彼の演奏について、涙が止まらず、どんなに感動したかというものばかりです。

しかし、生真面目な彼は「中3では、受験勉強を頑張るので、ピアノをお休みします。」とのこと。そこで最後のレッスンでは、今まで弾いてきた発表会の曲をちょっと私にサポートされながら、弾いていってくれました。楽しかったね。

「高校行ったらまたね」と言ったら、硬派な彼は、「行ってみないとわかりません」といいつつも、ニヤッとしていました。ふふふ、これはOKということかな?

ママへ。
本当にいつも遠くから、そっと見守っっていただき、そしてこんなに素直な男の子に育てて下さり、本当にありがとうございます。彼の音は、彼そのものなのです。また彼が復活して、たんぽぽの発表会で弾いてくれるのをみんなで待っています。



しかし、彼の音のオーラは、なんなのか、いまだに不明のままです。
http://www.k4.dion.ne.jp/~t-piano/

↓ランキングに参加しています。↓応援クリックお願いします↓

人気ブログランキングへ
にほんブログ村 クラシックブログ ピアノへ<br />
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ ピアノ教室・ピアノ講師へ
にほんブログ村