通りに点在する街灯の明かり

その輪のひとつから洩れた闇の塊

その中に自動販売機の光りだけがぼーっと浮かび上がっている

男は携帯電話を耳に当てながらじっとその辺りを見据えていた

闇の続きとも自動販売機の影とも区別がつかない辺りにヤツは潜んでいる

彼はそう思っていた

息を殺し、自身も闇と同化させながらヤツが動き出すのをじっと待った

やがて、視界に一人の女の子が現れ、自動販売機の前を横切った

姿格好からして学生のようだ

その時、俄に闇が騒がしくなった

ついにヤツが闇の中から姿を現したのだ

黒い影は大型昆虫のように地を這い、彼女の後を追った

慌てて彼もその後を追う


女の子がビルの角を曲がる

ヤツも曲がった

「ギャッ」という短い悲鳴が聞こえたような気がした

遅れて彼も駆け込んだ

そして、得体の知れない物に襲われる女の子の姿が目に飛び込んでくるかと思い、一瞬身構える

しかし、そこにはヤツの姿も彼女の姿もなかった


ビルの谷間の細い路地

切れかけた街頭が点滅してはいるものの真っ暗ではない

その路地の十数メートル先には夜でも交通量の多い大きな通りがある

身を隠す場所も暗がりもなかった

彼は暫し呆然として立ちつくした

ふと足下に携帯電話が落ちていることに気づいた

それはさっきまで自分が握りしめていた物だった

——駆け込んだ拍子に手からすべり落ちたか?

拾い上げると何かヌルッとしたものが手に付いた

明かりに翳すようにして見る

——血だ‥‥!!
男はラップトップのパソコンを凝視していた


血しぶきをあげながら一瞬にして液晶画面から消え失せたもの

それは、ほんの数分前まで自分に笑顔を振りまいていた女

赤い飛沫に汚れた画面は一度大きく揺れたが

その後は全てが凍てついた時間となって過ぎてゆく


彼の思考回路も再起動が必要かのようにフリーズしていた