東雲うい誕生日月間も残すところあと一週間ほどになった。
てなわけで、いつもの「たきびがライブ行きました。楽しかったです」「それはあなたの日記ですよね」ではなく、たまにはヲタク力を向上するブログでも書こうと思う。
なお、東雲うい生誕祭「ういたんさい」は9月29日天草で開催される。チケットはまだいくらか余裕があるみたいなので、迷われてる方は来たほうがいいと思う。
このテーマを語る上で誤解のないように前置きすると、マキタスポーツは「すべてのJ‐POPはパクリである」などど述べているが、もちろんそんな単純な話ではない。
将棋の定石のように、長い歴史の中でベターと思われているやり方があるというだけの話だ。定石だけ覚えていてもプロの棋士にはなれない。かといって、定石を知らないプロの棋士はいない。定石を自分なりにアレンジして更に強くなるのがプロ棋士であり、基本としてまず定石がベースになるのである。
たとえば軽音楽の場合、一小節の長さは4分音符4つである。これを3/8とかにしていることはあまりない。この基本的な決まりごとが定石なのだ。
曲の構成にも定石はある。
アイドル楽曲の多くは、
イントロ(8小節か16小節)
Aメロ(8小節)
Bメロ(8小節)
サビ(16小節)
間奏(8小節)
Aメロ(8小節)
Bメロ(8小節)
サビ(16小節)
間奏(16小節)
落ちサビ(8小節)
サビ(16小節)
アウトロ(16小節)
と決まっていることが多い。
それが人間にとって心地よい構成だからであり、またミックスなどファンのリアクションもこの構成がいちばん反応がよいからであろう。
そのような将棋の定石のようなものがあり、その定石の中でクリエイトされているのが楽曲である。
だから、たとえばイントロが8小節でどの曲にも同じミックスが入るからといって、それが「パクリである」ということではない。
そこを履き違えず、作曲家さんへのリスペクトを抱いた上でこれからの文章を読み進めてほしい。
そして、その定石は知らないよりも知っていた方がアイドルヲタクライフが楽しくなることは間違いないので、知るのはいいことだと思う。
J‐POPの定石の中で、もっとも定番化しているのはサビのコード進行である。
これは日本のJ‐POPがテレビのコマーシャルと共に進化したという歴史背景があり、結果としてJ‐POPが印象的なサビのある曲=名曲というサビ至上主義になっているからである。最近ではタイパを意識して、間奏を飛ばすという若い人もいるらしいので、この傾向は更に強まるとぼくは考えている。
そしてそのサビの印象を強くするためには、定石に従ったコード進行を使った方がいい。それは何百年という音楽の歴史で、人々が培った心地よさがその定石にあるからだ。
また、慣れ親しんだコード進行は、たとえメロディが初見でもリスナーに安心感を与える。初めて聴くはずなのに、なぜか聴いたことあるような気がするという感覚があることで、その曲を好きになった経験はないだろうか? 人間には過去に好きになったものと似たものを好きになる傾向はある。これまでリスナーが聴いてきた音楽と雰囲気が似ている曲、つまりコード進行が似ていれば、それだけでリスナーを安心させる力があるのである。
そこで近年のJ‐POPでよく使われる4つのコード進行は、
王道進行
カノン進行
小室進行
丸サ進行
である。そしてこれらの進行はアイドル楽曲でもよく使われる。
だからヲタクが覚えていて損はない。
王道進行は ディグリーネームがⅣ-Ⅴ-Ⅲm-Ⅵm (4536)で進む進行だ。キーがCならばコード進行はF→G→Am→Emになる。日本人好みの起承転結があり、まさに王道の進行である。ユーミンの「卒業写真」、サザンオールスターズの「いとしのエリー」、モーニング娘。の「LOVEマシーン」、あいみょんの「君はロックを聴かない」、アニソンだと涼宮ハルヒの「God Knows」などで使われている、とにかくJ-POPの「王道」進行である。
この進行が「王道進行」と名付けられたのは2008年ごろという話だ。そして2010年ごろからのブームになったロコドルでは、まさにその名の通り「王道」なのでデビュー曲によく使われた。
古くはMONECCO5のインディーズデビュー曲「恋~気まぐれな夏~」にメジャーデビュー曲「キミを待ってる」、最近ではNYDSの「タテヨコミギナナメ」、POTIONの「スキスキスキス」がこの進行である。
王道進行参考動画
カノン進行はⅠ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ(1563 4145)が基本になる進行。キーがCならばC→G→Am→Em→F→C→F→G。
ただ、この進行は原曲がクラシックのカノンという世界中で使われているもののため、その派生も多い。たとえばビートルズの「Let it be」はⅠ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅳ、C→G→Am→Fになるけどカノン進行に入れられることもあれば、これをLet it be進行、もしくはポップパンク進行と呼ぶ人もいる。ただ、個人的にはリスナーレベルでは、これもカノン進行としてとらえていいと思う。それ以外にも上昇クリシェ、下降クリシェ、ツーファイブなどいろんなパターンがあるが、とにかくカノン進行なのだ。その辺は詳しい人に聞いてください。
かつてJ-POPではカノン進行は一発屋の進行と呼ばれていた。インパクトの強い進行のため、この進行を使った曲はヒットするが、それ以上のインパクトを次に生み出すのが難しいからだ。
大人の階段のぼる♪ のH2Oの「思い出がいっぱい」、BOROの「大阪で生まれた女」、KANの「愛は勝つ」、大事MANブラザーズバンドの「それが大事」、岡本真夜の「TOMORROW」など、この曲は知っているけどそのアーティストの他の曲がわからないという曲がカノン進行には多い。また、藤井フミヤの「TRUE LOVE」や河村隆一のように、バンドが解散してソロデビューするヴォーカリストが最初のヒットを狙うときにサビにカノン進行を使うことも多い。あまりにもインパクトが強いため、あまり多用は出来ない(河村隆一は多用しているけど)。ここでヒットを出したいときに効果的に使うことが多いというイメージの進行だった。
それが大きく変わったのが2019年のあいみょんの「マリーゴールド」である。2016年にデビューしたあいみょんは、2019年にこの曲のヒットで音楽チャート1位に躍り出るが、カノン進行というのはインパクトの強い諸刃の剣のような進行だから、一発のヒット曲は生まれるが、その後はヒットに恵まれないのがそれまでの定説だった。それをあいみょんはカノン進行以外でも、カノン進行でヒットしたアーティストが生き残れるのを、その後の活躍で証明したのである。これは大きな変化だった。
そのぐらい麻薬のような爆発力と危険性を持つカノン進行だが、そのぶんやはり良い曲がカノン進行には多い。そもそも、ここでヒットを出したいときに使われるコード進行なので、カノン進行が使われた楽曲はかなり力が入れられているケースも多い。
個人的にはMONECCO5の「なんてんまんてん」「ラクガキアクセル」「朝からカツカレー」をカノン三部作と呼んでいるが、アイドルが元気よく踊るのにぴったりな進行だと思う。
カノン進行参考動画
小室進行の小室とは小室哲哉のことである。六文銭の小室等ではない。
Ⅵm-Ⅳ-Ⅴ-Ⅰ(6451)、キーがCならばAm→F→G→Cとなり、マイナーコードから始まる珍しい進行で、小室哲哉が多用したため、こう呼ばれている。桑田佳祐もよく使っているが、日本以外ではあまり見られない進行である。
なぜこの進行が日本でしか流行らないかという理由の一説に、日本の学校のチャイムがこの進行だったからという説がある。学生時代、授業の終わりを待ちわびたあのわくわく感が、この進行で呼び戻されるから、日本人はこの進行が好きだというのだ。
というわけで学校のチャイムの話が出たから勘のいい方はおわかりだろうが、chem LiLyの「ハジメノBeat」はこの進行を使っている。
ちなみにMONECCO5では「キセキノサキヘ」「僕達の唄」などがこの進行である。マニアックだけど熱狂的なファンが好きになる曲に多い。
で、ドルヲタ的にいえば、この進行は「サイレントマジョリティー」をはじめとする欅坂46が多用していたイメージが強い。乃木坂46はカノン進行が多かったのだが、欅坂46は小室進行だった。
それでわかるのは、いわゆるアイドルアイドルしたアイドルは王道進行やカノン進行の楽曲を得意にするのに対して、主流じゃないけど熱狂的なファンを生みやすいアイドルの楽曲によく使われている傾向にあると思う。90年代は小室進行=ヒット曲の代名詞だったのだが、この変化は面白い。
また王道進行やカノン進行でイメージをつくりながらもグループの奥行きを増やすためのアクセントとしても小室進行はよく使われている。SKE48の「パレオはエメラルド」やAKB48「会いたかった」も小室進行を印象的に使っている。
かつては時代を表す代表曲によく使われた進行だけど、現在では、正統派ではないけど独自の個性で熱狂的なファンを生むアイドルや、正統派アイドルでも新たな成長をするとき、また変化球的に曲を出すときに、小室進行がよく使われているとぼくは感じている。
小室進行参考動画
以上の王道進行、カノン進行、小室進行がいわゆるJ-POPの三大コード進行と呼ばれるものである。
この三つが定石であり、アイドル曲に使われているパターンも多い。たとえばAKB48グループのシングル曲106曲の内、カノン進行36曲、王道進行16曲、小室進行13曲と、半分以上の65曲でこの三大コード進行が使われている。
ところが最近のJ-POPではこの三大コード進行に並ぶコード進行が出てきた。
それが丸サ進行である。今やネットでは「丸サ進行使いすぎ問題」と言われるほど、2020年代を代表するコード進行である。
丸サ進行はⅣM7-Ⅲ7-Ⅵm-Ⅰ7(4361)、キーがCならFMaj7-E7-Am7-C7というコードだ。
洋楽では1980年に発売されたサックス奏者、グローヴァー・ワシントンjrの「クリスタルの恋人たち」が有名で、その「クリスタルの恋人たち」の原題「Just the Two of Us」にちなんでJust the Two of Us進行と呼ばれていて、80年代から90年代の洋楽ポップスの定番になっていた。
ただ、J-POPではそれら洋楽ポップスの影響を受けて、FLYING KIDSの「幸せであるように」や小沢健二 featuring スチャダラパーの「今夜はブギー・バック」などで使用され、ドリカムの「決戦は金曜日」という大ヒットもあったものの、洋楽の洗練されたテイストが強すぎたのか、一般化されるほどではなかった。日本でもヒットしたジャミロクワイの「Virtual Insanity」のように、日本人が歌うよりも洋楽として楽しむ進行のイメージが強かった。1999年に丸サ進行の名前の由来になる椎名林檎の「丸の内サディスティック」が収録されたアルバム「無罪モラトリアム」が発売される。シングルカットされた「ここでキスして」はⅠ-Ⅲ-Ⅵ-Ⅴのオーシャンゼリゼ進行なのだけど、この「丸の内サディスティック」がJust the Two of Us進行を使っていて、そのために15年後に丸サ進行と呼ばれる進行の原曲のように扱われることになるのだ。
なお「丸の内サディスティック」はシングルカットされていない。当時だと洗練されすぎて受け入れられなかったのだろう。この曲のセンスが一般的になるのには15年かかった。
1999年発売当時はアルバムの一曲に過ぎなかったこの曲が2010年ごろになると、やっと時代がセンスに追い付いて、ネットを中心にリバイバルヒットするのである。
そして、ネットで流れる「丸の内サディスティック」に影響を受けた人たちが、特にいわゆるパソコンで曲を作るDTM界隈を中心に、この丸サ進行を多用することになる。
YOASOBIの「夜に駆ける」(2019年)やAdoの「うっせぇわ」(2020年)のヒットでこの進行は定番になり、ブレイク前のあいみょんの2ndシングル「愛を伝えたいだとか」もこの進行を使っていたので2020年代になってリバイバルヒットした。
そしてこの波は確実にロコドルにも来ている。
Re:fiveの「ダンデライオン」、Sunny Honeyの「Sunny days」は丸サ進行である。
特にSunny Honeyには驚かされた。
アイドルのデビュー曲は基本、三大進行が多い。しかも、王道アイドルというキャッチコピーがあったからてっきり王道コード進行でデビューするかと思っていたら、丸サ進行だったのだ。最初、PV見たとき、まるでグローヴァー・ワシントンjrがサックスで吹きそうな歌いだしのフレーズは鳥肌ものだった。うまく流行を取り入れているなと感じだ。
丸サ進行参考動画
「クリスタルの恋人たち」(Just the Two of Us)
もちろんすべての楽曲が紹介した4つのコード進行でできているというわけではないが、リスナーレベルでこの4つのコード進行をサビや場合によってはAメロやBメロで見つけることで、楽曲の魅力を再確認できる。
また、同じアイドルの楽曲で、発表された時期のタイミングでどのコード進行がサビに使われているかと考えると、なんとなくその時点での作り手側のアイドルへの捉え方も見えてくるようにぼくは考えている。
脱皮できない蛇は死ぬように、アイドルは生き続けるために進化をする。ダーウィンが言ったように、生き残るものは、強い者でもかしこい者でもなく、変化に対応できる者だからだ。その進化の過程で、どのようなコード進行の曲が用意されているのか、そこを考えるのは非常に楽しいとぼくは感じている。
最後に、そうやって東雲ういさんも進化を続けている。
ぜひ、16歳になる直前の東雲ういの生誕祭「ういたんさい」に集まりましょう。
#東雲うい誕生日月間