知行合一(ちこうごういつ)


知行合一とは、陽明学という中国の儒学者・王陽明(1472-1528)が起こした儒学の主要命題である。

意味を簡潔に言うと、

思ったら、行動する。

という、実践主義の思想である。

その為、日本にも数多くの信奉者がいるのが陽明学である。

世界でも稀に見る革命であった明治維新を成し遂げた志士の精神的指導者達に、陽明学に造詣が深い人が多いのがその実践主義を裏付けている証拠だろう。

有名どころでは、中江藤樹、熊沢蕃山、佐久間象山、川井継之助、吉田松陰、高杉晋作、大塩平八郎、西郷隆盛等など。

徳川幕府が、推奨していた朱子学は、権力側に都合の良い儒学であった。

「上が上でも、下は文句を言わず付き従わなくてはいけない」

という上下の秩序を重んじる思想が、朱子学であった。

しかし、陽明学は、

「上が上なら、下も下になるのはしょうがない。組織やグループの命運は上が握っている」

という、反体制的な思考を基礎とする儒学であった。

自ずと、体制側には都合が悪い。

長い戦国時代が終わり、江戸幕府を開いた徳川家康は、思想統制に苦心していた。

戦争のない社会を作る。

つまり、徳川の社会を未来永劫続けたい。

しかしいまだ、上下の秩序を問題とせず下克上の気風が色濃く残っていた、江戸開府当時。

それを、都合良く抑えるのには、武士に武芸への傾倒を捨てさせ、武芸学問奨励へと向かわせるのが良いと考えた。

その都合の良い学問が、朱子学であった。

上下の名分を重んじる上下関係を根本にする朱子学は、思想言論統制にピッタリであった。

家康の相談役であった朱子学の大家・林羅山が、幕府公認の正学として朱子学奨励の任が与えられた。

それと共に、他の学問が迫害された。

特に、

「上下関係よりも、正しさが重要視される」

上には都合の悪い陽明学は危険視され、後に風紀を乱すものとして禁止される事になる。

しかし、幕末になると長年続いた徳川の太平の世が動転するようになってきた。

ペリー率いる黒船来航からの開国騒動をきっかけに、公然と現体制であった徳川幕府に反発する勢力が台頭してきた。

そして、討幕運動につながる精神的な支柱となったのが陽明学であったといっても過言はないだろう。

現に、明治維新を成し遂げた志士を扇動したのは、陽明学に多大なる影響を受けた教育者達である。

人間は、保守的な側面が必ずある。

それは、命が限られているのを知っているから。

命が限られていれば、失敗は大きな痛手となる。

その度合いが大きければ大きいほど、その痛手は大きくなる。

だから、保守的にならざるを得ないのは、必然なのである。

そのため、思っても行動に移せない。

そして、いつのまにかその思いは、自分の中で消化して忘却(ぼうきゃく)するという自分自身の過程を作ってしまうのが常となる。

しかし、思っても動かなければ何の意味もない。

思って動かなければ、思う事自体が無意味となる。

失敗は怖いし恥ずかしい。

しかし、思いを無理矢理忘却する事は、人生における賢い選択ではあると思う。

それは、人間とは一人では生きていけない動物だから。

だが、夢やチャンスは掴み取る勇気のない人には、手に入れられないものである。

その過程には、苦難や困難、そして失敗や不遇も付きまとうだろう。

その闇が、抜けるという確証はない。

ただ、行動しなければチャンスを掴み取れない。

それが、資本主義における真の自由でもある。

そういう行動の大切さを、教授してくれるのがこの「知行合一」。

年を重ねると、どうしても行動に対する勇気が減退してくる。

言い訳になるが、私もそれは痛いほど実感する。

しかし、その行動力の減退具合に対し、自分自身にいつも嫌悪感を抱いてしまう。

年を重ねると共に、責任が増えてくる。

それを言い訳に、行動力減退の理由とし、自分自身の勇気の無さを隠してしまう。

ただ、責任が増えても行動する人はするのである。

環境が、行動できない原因にしている時点で、勇気が無い証(あかし)なのである。

古の偉人が、必ずしも環境が整っていたかと言うと、そうでもない。

と言うより、環境が整っていない人に偉人が多いのは何を表しているのだろうか。

古の偉人は、環境が整っていない中で、その出来る範囲で行動していたのである。

だから、時代が生んだ偉人などはいない。

どの時代に存在していても、偉人は少なからず行動して何かを成し遂げていたはずである。

その事実を勇気に変えなければいけない。

人間は、食べるためだけに生きているのではない。

痩せても枯れても、自分を安売りしてはいけない。

そういう行動の大切を教えてくれるのが、「知行合一」である。

あらゆる理由をつけて行動しない自分を正当化する私も、自戒の意味を込めて心にもう一度刻み込もうと思います。