元気の“つて”で五味選手と練習する事になった俺。


いよいよだ。

元気が興味深そうに見つめている。


「お願いします!」

と彼は握手をしてきた。時計の針が止まったかのように空気が張り詰めている。

ガシッ!!!

レスリングの差し合いで力比べが始まった。

俺はフィジカルには自信を持っていたため彼の 組み力に驚いた。

「思ったよりパワーあるな。」


だけど なかなか寝技にならない。

初めてスパーをするモノ同士は 必要以上に慎重になるのだ。


練習場には俺たちのスパーを見ている野次馬もいる。

広い練習場で 俺と五味選手の 「ハァハァ」
という息づかいが響いている。

先に仕掛けたのは俺。


「レスリングでガチャガチャやってても埒があかねぇ」


俺は彼に 飛びつき、寝技に引き込んだ。


引き込んだ時、 意外と相手の寝技の力量はわかる。

俺は


「イケる!!」

と思った。


俺は彼をボコボコにしなければならない。 ケイシュウ会で

“寝技の高瀬” で通っている誇りがある。


俺はしばらく 彼の頭を抱えて様子を見た。


彼にはあまり パスガード(相手の足を越えること)の概念がなさそうだ。

動きがない。


「ラスト4分!」

元気が時間を知らせる。

「一本目で 差を見せつけなきゃダメだ。」


俺は 彼の体を前に引き寄せ 彼の右手を左手で深く抱え込んだ。


「よしっ」


この状態から 腕十字に行くか迷った。


しかし俺が選んだのは

相手の腕を抱え込んで固定し、反対側の手の拳を相手の頸動脈に突き立てる技……

柔道家の小室宏二が発明した技、 相手の肩と腕を極め 同時に締めも極めるという 当時あまり知られていない技を繰り出した。


「メキメキメキッ!!!」


と五味選手の肩が鳴った。


しかし 俺が一番力を入れているのは 締め。


俺の右手の拳が彼の首元に、これ以上ないくらいめり込んだ。


「タップしねえと落ちる(失神)ぞ!!」


心でそう叫び 最後の 力を振り絞り、締め上げる。


彼は抜けない腕とめり込んだ拳に苦悶の表情を浮かべている。


「極まるよ!!」

元気が叫ぶ。


技が完璧に極まり、ついに



時計の針が動いた。



続く