1週間ほど前、本屋さんをぶらぶらしていると、三木卓の小説『K』がぼくの目に飛び込んできた。

 『K』とは四十数年間つれそった三木の妻のこと。夫婦であるというのに未知の部分をいっぱいに抱えた『K』の不思議な人物像が、何か突き放したような、しかし瑞々しい文体でひょうひょうと書かれていく。読み進めていくと、三木の『K』を失った哀しみや愛おしさが、文章のずっと向こうから伝わってくる。


 新聞やラジオなどで高い反響があるということは知らなかった。このブログでいつだったかすでに書いたように三木卓の書いたもののいくつかは読んできた。

 『路地』とか『裸足と貝殻』とか『鎌倉日記』Ⅰ・Ⅱなど。好きな作家だ。『我が青春の詩人たち』も面白かった。

 岩辺さんが三木卓の編集した『詩の玉手箱』を数日前にちょうど紹介している。ぼくも、この詩集は好きで、京都の好きな本屋さんで買った。

 三木は、子どもの本、アーノルド・ローベルの『がまくん・かえるくん』シリーズを翻訳していることで知っている人もおおいだろう。


 本のことで書いたので、他に2冊…。

1冊は、岩波ジュニア文庫『しあわせに働ける社会へ』(竹信美恵子著)。若者たちの就職の困難がなぜ生まれているか、わかりやすく書かれている。就職のために何社も回っている若者たちが、その困難がどこから来ているか、どこを突破口にこうした時代を変えていくかについても。派遣社員としてしか働けない若者たちや、学生たちが読むといいなと思った。

 もう一冊は、ぼくの個人的趣味の世界。堀江敏幸著『回送電車』。これはまた独特の文体。読んでいるとグイと心が言葉のつくり出す世界にひき込まれていく。