『ああ、これ青春時代に読んでいたらヤバかった』from Sons | 仕事とマンガと心理学

仕事とマンガと心理学

心理カウンセラーが語るマンガと小説についてのブログです。
心理学でマンガをみるとオモシロいので、それを伝えたくて
ぐだぐだお送りしますので、楽しんでくださいね!

こんにちは、プロフェショナル心理カウンセラーの織田です。

 

一番多感で理屈っぽい時期に

この人のマンガ読んでいたら

ハマりまくっていただろうなーと思いつつ

大人になって読んでも面白かった。

 

「Sons」

 

いろんな息子たちの物語。

 

三原順という人は

たぶん「はみだしっ子」が一番有名かな?

あれだけ小難しい理屈を漫画でこねた人は

まだいないような気がする。

 

で、はみだしっ子も好きだったんですけれど

私はこの人の作品では

このSonsを含む、

ムーンライティングシリーズが大好きなんです。

 

望まれない息子。

反発心でのし上がる息子。

誰とも違う「特別」にあこがれる息子。

認められたくてあがく息子。

良い子仮面に窒息して死んでいく息子。

 

様々な息子たちの物語が

このSonsです。

はっきり言って辛気臭い上に

小難しく、

物語もあちこち錯綜し

伏線が多くて読みにくい。

独特のユーモア感も

あまり一般受けしないもので

どっちかっていうと

海外の文学作品に香りが似てる。

 

でも、「三原順」という世界にしかない

独特の世界の乗り越え方が

確かにある。

それが、魅力なのです。

 

Sonsの主人公、D.D.(ディーディー)は

一本気で単純、おっちょこちょいと呼ばれつつも

内心はコンプレックスだらけで

悩みまくる癖に相談が下手。

不器用に生きたいならD.D.を見よ!みたいな男の子。

 

本当は、生きているんだから

そのまままっすぐ生きればいいものを

人間ってなぜ悩むんでしょうね?

 

D.Dの悩みというのは

自分の苦しみはどこからくるの?という

答えようのない悩みだったりして

心理学用語でいえば

それは自己否定感であり

必要なのは他者受容から自己受容へのプロセスであり

自我の幸福な確立だったりするんだけれど

そういう内面を

延々と描いているのがうっとうしくも魅力的。

 

この作品で面白いのは

劇中劇という手法を漫画でやっていることなんです。

D.Dが空想している狼男が主人公の物語。

ストーリーが首尾一貫しているわけではなくて

その時その時のD.Dの内面が

投影されている狼男ストーリーは

実際、本編より解りやすい(笑)。

 

でもこれ、ある程度本が好きだったり

空想が好きな子どもってみんなやっていることなんだと思うんです。

自分がなにかに苦しんでいるんだけれど

何に苦しんでいるかわからない。

だから、自分の心の動きが何なのかわからないまま

物語に投影させて、

物語の進行を投影のイメージのまま

動かしていく。

 

脳内箱庭セラピーです。

 

そう、こうやって、子どもは

自分の心を物語にする。

そうやって、最悪の事態をなんとか避けながら

生きにくいこの世界を泳ぎ渡っていく。

 

D.D.に多大な迷惑をかけたおすことになる

ウィリアムの息子、ジュニアは

物語を紡ぎ損ねてしまいました。

だから、すごく無茶な物語を

よりにもよって、現実世界で行動しちゃった。

 

生きる為にロシアンルーレットをするのに

生きる為のそれが

彼の死を招き

結果として彼が愛されたかった父親に

消えない刻印を残していく。

 

D.D.の親友(という言われ方は本人は不愉快でしょうが)のトマスは

「狼男の末裔」という物語を生きたがり

それが彼のプライドでもありました。

これがどういう悲惨な物語になったかは

ムーンライティングを読むと

笑いと共に知ることができる・・・(笑)

一番シリアスに決めたがったであろうトマス

ああ、あなたが一番ユーモラスだったりする。

同時に、人間の質としてはずいぶん違うんだけれど

彼は、D.D.の一番の理解者でもありました。

 

子どもって、すごい。

特にこの思春期のスタート時点ぐらいの子どもって

本当にすごい。

 

そしてこの年代にしかないそのゆらぎを

マンガにしちゃう三原順さん。

もっともっと長生きして作品を描いてほしかったなあ。

 

読んでてちっともリラックスできない

Sons。

でも、生きることにほんのりと希望を見出せる物語。

ああ、ちょっとがんばってみてもいいかな。

そんなに悪い世界でもないかな。

 

陽射しの中、少しだけ空を見上げてみる。

そんな形のさりげない希望を

思い出させてくれるマンガです。