人吉みそぎ旅 | 平準司@神戸メンタルサービス カウンセラー養成・個人カウンセリング・心理学の講演、執筆を行っています!

8月の1週目、日本全国がいちばん暑いお盆前のこの時期に、私は“禊ぎ(みそぎ)”のために人吉に赴いたのである。

 

前日まで福岡でセミナーなどを行っていたのだが、私が帰るその日、大きな台風が九州地方に上陸するとの予報であった。

 

で、数日前から飛行機は軒並み欠航になるといわれていたのである。

 

「無理して帰らなくとも、ここは一つ、温泉‥‥、いや違う、禊ぎに向かうべきではないか‥‥」

 

と、自分にやさしくすることにした結果、人吉温泉旅‥‥、いや違う、人吉みそぎ旅に向かうこととなったわけである。

 

この日、人吉は台風一過のものすごくよい天気で、ものすごい暑さであった。

 

熊本と鹿児島の県境の山に囲まれたこの田舎町は、町中に素晴らしいお湯が湧き出す一大温泉郷である。

 

何度か来たことはあったのであるが、いつも通りすがりに数軒の日帰り入浴を楽しむだけであった。が、あまりにそのお湯が素晴らしいので、町中のできるかぎりの温泉を堪能したいと思っていたのである。

 

この町の人々に銭湯代わりに使われ、愛されている温泉は、それはそれはもう、レトロな遺産級の施設である。

 

写真を見ただけで、温泉マニアなら魂が吸い込まれ、「ぜひとも、この温泉につかってみたい」と思わされるような渋い温泉なのである。


 

また、このエリアには、民宿並みの安さを誇る宿から、それこそ、一人のお客様を徹底的にもてなすような名旅館まで幅広い宿泊施設が点在する。

 

その中で、私がナンバーワンの宿だと思っているのが、『旅館たから湯』である。

 

この宿は、まず、浴室が素晴らしい。

 

さらに、お湯も満点に近いほど素晴らしい。

 

人吉ではこの旅館のあるエリアのお湯がいちばんよいといわれており、できればこの宿に泊まりたかったのであるが、一人で泊まるには髙過ぎたのである。

 

「うちの会社が上場し、しこたま株式利益が出てきたときに、女房を連れてくる宿としてとっておこう‥‥」

 

ということで、『民宿しらさぎ荘』が一人旅行の今晩の宿である。

 

この宿はもともと日帰り入浴施設として、お湯がいいとの評判の施設であった。そこに鯉料理の料理屋が併設され、そして、泊まれるようにと民宿が作られたのである。


 

ところが、これが民宿らしからぬ、超渋くて、広くてよい宿なので、ここに泊まることとしたのである。

 

さて、鯉料理といわれても、みなさんはピンとこないかもしれない。

 

しかしながら、私のような田舎者には鯉料理はなじみがあり、そして、これは贅沢料理なのである。

 

年に数回、なにかの行事のときにしか食べられない鯉のあらいを酢味噌で食べる旨さ‥‥。これは幼児体験として、私の魂に刻まれているのである。

 

ということで、この日は鯉のあらいに始まって、鯉濃までのフルコース‥‥、懐かしい味を堪能したのである。

 

さらに、人吉は球磨焼酎の本場であるので、焼酎の飲み比べセットなんかをサービスで提供してくれるのである。

 

そのまま宿でバタンキューと寝ればよいだけなので、多少、飲み過ぎかという状態で床についた。

 

そして、いつものようにマッサージを呼んでもらい、あとは揉みほぐされながら寝るばかりとなったのである。

 

この日のマッサージさんは、全盲のおばあさんであった。

 

長年のキャリアから繰り出される秘技で、この凝り固まった体をほぐしてもらいながら私は爆睡状態となり、時間が来たところでおばあさんはそっと部屋を出ていかれたのである。

 

が、まもなく‥‥。

 

ドタンッ、バタンッ、ドタンッ!

 

「うーーー、いてててててててーー!」

 

なにごとかとびっくりして廊下に飛び出してみれば、2階の私の部屋から1階に降りる途中、おばあさんが階段で滑って転んで、したたかに腰を打ちつけたところだったのである。

 

民宿のおじさんは風呂掃除に出ていたのかだれもおらず、私が看病するハメになった。

 

「救急車を呼びましょうか?」

 

「それほどではない。もう少ししたら、迎えが来るから」

 

ということで、外で待つこと約10分。汗だくになりながら、お迎えのライトバンの運転手に事情を話し、そして、おばあさんは帰っていかれたのである。

 

当然、私はすっかり覚醒した。

 

そして、覚醒した私はすることがないので、世界を救う旅に出ることにしたのである。

 

ドラクエ疲れ×睡眠不足のこの体、きょうこそは休めようと決めていったにもかかわらず、さらに疲れの増した人吉の夜であった。

 

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