昨日はフランス全土でストライキ。いつもは十分程度で行ける隣の駅まで、一時間近くかかってしまった。公共機関が時間通りに動くのが当たり前の日本がレアなのかもしれないけれど、それにしても本当に不便。

しかし、日本と比べてもフランスの雇用状況が劣悪なのは明らか。特に若者の雇用事情がひどい。現在、フランスの失業率は全体で8%。そのなかでも15才から24才までの失業率は20%に上る。2010年にはこの年代の失業率が22.8%にまで上昇するという見通しまである。若者の失業率がここまで高い理由として、フランスの法制度が挙げられる。フランスでは従業員の解雇が法律で厳しく制限されている。そのため、仕事の能力が保証されていない新卒者の採用を企業がためらうのである。

このようななか、若者の雇用市場は大きく二極化している。ひとつはグランゼコールという、一般の大学とは別の超エリート校の卒業生たち。各分野のトップに立つべく訓練された彼らは、就職に関しても引く手あまたである。他方、通常の大学の卒業生たちは、卒業後3~4年、複数の会社の契約社員をして、それから正社員になるか、あるいは特定の企業のインターンをして正社員を目指すことになる。しかし、このインターン制度を企業が悪用した。優秀なインターン生に正社員と同じだけの仕事を押し付けながら、給料をほとんど払わない、ひどい場合はタダ働きをさせる、しかも最終的に正社員として採用しない、という事態が多発したのである。このため政府は、2008年からインターンとしての雇用を原則禁止とした。

グランゼコールと一般の大学との格差は、僕自身フランスに来てから何回か感じてきた。前のホストファミリーの子供のひとりが、グランゼコールを中退して一般の大学に編入した大学生だった。エリートコースを外れた息子のことを話す母親の曇った表情が、これから待ち受ける就活の厳しさを物語っていた。

逆に、グランゼコールを卒業した修復士の知り合いは、独立して活動しているにもかかわらず仕事が途切れることがない。「日本では大学で学んだことと仕事との間に一貫性がないらしいね」と語るときの彼の自慢げな表情が、エリートとしての自負を垣間見させていた。

ただ、グランゼコールを卒業したからといって、必ずしもすべてが順風満帆というわけでもない。グランゼコールを卒業し、金融関係の仕事をしていたにもかかわらず、職場の人間関係に疲れてしまい下水工に転職した人もいると聞く。また、それぞれの業界のトップがグランゼコール出身のエリートで固められてしまうため、現場との距離があまりにも開き、業界全体が社会の変化に柔軟に対応できないという問題も起きているらしい。

人種による雇用差別もフランスでは大きな問題である。ILOの調査によれば、同じ学歴、同じ職歴で名前がアフリカ系の学生とフランス本土系の学生の履歴書を企業に送付したところ、110社のうち70%もの企業がフランス本土系の名前の学生を優遇したらしい。企業による人種差別のためか、郊外に住むアフリカ、アラブ系マイノリティ学生の失業率は、現在40%に達している。

サルコジ大統領もマイノリティ学生の雇用問題には対策を講じている。しかし、その対策も十分とは言えず、評価は低い。実際、パリ郊外、マイノリティ学生が多いパリ第十大学の構内には、サルコジを批判する多くのポスターが貼ってある。サルコジが中指を突きたて微笑んでいる合成写真、またサルコジを犯罪者に見立てて罵倒したポスターが校舎の壁を埋め尽くしている。

参考資料:「東洋経済」(2009年1月10日号)