ツンデレ | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

ツンデレ

タロウ     「いいですか!?……だいたいアナタっ!ウチと同じ町内で商売やってるんでしょうっ!」


「暇」発言で今まで抑えていたワタシの怒りに火がついた。


川畑      「………ワタシが中心でやってるわけじゃありませんが……。」

タロウ     「中心だろうがそんな事は関係無いですっ!!

         親兄弟身内が店やってて……アナタも手伝っているんでしょうっ!!」

川畑      「ええ……。」


なんとか反論しようとする川畑……だがワタシの勢いは止まらない。


タロウ     「町内で裁判沙汰なんか起して……『店に影響がある』とか『親に知られたくない』とか……

         ワケのわかんない事言ってんじゃないのっ!!」

川畑      「ですが……。」


「ですが」……無視。


タロウ     「いいっ!?裁判は公開が原則なのっ!!

         それが嫌なら最初から裁判なんか起すんじゃないのっ!!」

川畑      「しかし……。」


「しかし」……無視。


タロウ     「裁判の途中で事実が判明してきたら……その時に『ごめんなさい』って取り下げりゃ……

         今みたいな事にはなって無いよっ!!」

川畑      「それは……。」


「それは」……無視。


タロウ     「最後までとんでもない推測の難癖付けて……自己主張したのはどっちなんだいっ!!」

川畑      「あ……う……。」


もう日本語が出ない模様。

これも……無視。


タロウ     「とりあえず用件1は決定だからねっ!キッチリ払ってもらうよっ!!」

川畑      「あ……はい……。」


勢いで了承の川畑。


タロウ     「2と3は、アナタの腹次第だから……よ~~~く考えて2週間以内に返事するっ!!」

川畑      「……はい……。」


よ~~~く考える事も了承の川畑。


タロウ     「わかった!!!?」


とりあえず言う事終了。


……………。


……………。


……………。


ここで電話を叩き切ってやろうとも思ったが……

少々大人気なく怒ってしまったので、川畑の反応を見る事に……。


暫くの沈黙の後……。


川畑      「あ……あ……あの……ちょっと聞いてください……。」


少々ビビリ感のある川畑……。


タロウ     「ん!?まだ何かあるの!?」


「ちょっと言い過ぎたかなー」って心のどこかで小さく反省しつつも、まだ怒り収まらぬワタシ……。


川畑      「ワタシも……謝罪しない気持ちは……無いことも無いです。」


おぉ……エラい変わり様……。

怒った甲斐があった……ちょっぴり反省した甲斐があった……。


しかし「無いことも無い」とは……またこれ随分どちらにも取れる物言いである。


川畑      「ただ……引っ越してきたばかりで……右も左も分からない……。

         そんな中での提訴……そんなワタシの心情も理解してください。」


いや……「訴えよう」なんて思った事も無いから「そんな心情」わからない……。


「引っ越した事」の心情なら分からんことも無いが……それと一緒に「提訴の心情」も抱き合わせ販売は

公正取引委員会も黙っちゃいないであろう……。


普段なら更にツッコむ所であるが……ちょっぴり反省の意味も込めて……とりあえず黙って聞いてみる。


川畑      「アナタはここの町内で生まれて、ずっと生活されている様子ですが……

         店を開店したのも5~6年前……引っ越してきたのは今年に入ってからなんですよ……。」


なんだかさっきまでの強気豪気発言から一転。

お涙頂戴の気弱同情路線に方向転換である。


これが世に言う「ツンデレ」であろうか……。


川畑      「アナタみたいに町内に顔が利くわけでもありません。

         ……ワンルームの賃貸住宅に住んでるんですよ。」


町内に顔が利くかどうかは長年積み重ねてきた「山田屋」の実績の賜物であろう。

こればかりはワタシ一人の努力では無い。


この点については同意する。


川畑      「引っ越してきても誰も近所に知り合いがいるわけでもないし……

         相談できる人もいないし……。」


だが、店を開いて5~6年なら……それなりに事情を話せそうな知人・友人がいてもいいのではないか?


引田くんはどうした?

動物愛護の山本さんはどうした?


川畑      「だいたい……町内会長さんが誰かなんてのも知らないんですよ。」


知らなければ調べる。


川畑      「ゴミの日だって知らせてもらってません。」


それも調べる。

分からなかったら聞く。


川畑      「……………。」


黙って聞いていたが……どうにも弱気な「カマッテチャン」の様相を呈してきたので反対に質問してみる。


タロウ     「あのさ……『ワタシ引っ越してきました川畑です』って近所に挨拶に行った?」

川畑      「行ってませんよ……ワンルームの賃貸でもやらなきゃいけないんですか?」


いや……「いい」とか「いけない」の問題ではない。


「引っ越してきました」と言わなければ……誰も川畑が「引っ越してきた」事に気づかないではないか……。

他人で分かっているのは不動産屋と仲介業者くらいである。


それでは町内会長さんが誰かもゴミの日がいつかも分からなくて当然である。


タロウ     「あのさ……そういう事くらい……自分で言わなきゃ……まわりはわかんないでしょ……。」

川畑      「……………ええ……。」

タロウ     「それで、その時に洗剤の一つでも持っていけば随分印象変わるもんだよ。」

川畑      「……………はぁ……。」

タロウ     「ゴミの日くらい……エレベータホールとかマンションの掲示板に貼ってないの?」

川畑      「……………一度……確認してみます……。」


どうやら全くその辺りの処世術に欠けている様子である。


それはそれで本人の責任なのであるが……

随分と弱気になってしまったので……可哀想になってきた。


改めて質問。


タロウ     「町内会費……払ってる?」

川畑      「払ってませんよ……ワンルームですよ……それは強制ですか?」

タロウ     「いや……強制ではないけど……月に200円ですよ。」


先程から思うのであるが……「いい」とか「いけない」とか「強制」とかどうとか……

「0」か「1」か……「YES」か「NO」しか無いような思考回路である。


まぁこれくらいは……ってアナログな判断は出来ないのであろうか……。


川畑      「無理ですよ……ワンルームマンションに住む……僕なんか低所得者ですよ。」

タロウ     「……………。」


いやいやいやいや……BM乗ってるヤツは「低所得者」を盾にしない。


いつもなら間違いなくツッコんでいる箇所だが……

川畑のあまりの弱気な豹変振りに……バッサリいけなくなっている。


川畑      「アナタは町内とか近隣住民とか良く言いますけど……決して外から入ってきた人にとって

         住み心地のいい場所じゃありませんよ。」


ここも反論のしようが無い。

ワタシはこの町に外から入ってきた立場になった事が無いのであるから。


川畑      「全然……なにも教えてくれない。」

タロウ     「だから聞けばいいじゃないですか。」

川畑      「だから聞く人がいないんですってば……。」


ものすごい理屈である。

それでも「この理屈」が川畑の正論だとすると……もう反論のしようが無い。


川畑      「だから……謝罪文を書く気は無いことも無いですが……

         誰かに見せるとかどうのってのはやめてくれませんか?」


あまりの「弱気川畑」にこの一点も譲ってやろうかと思った。

だが、ここまで譲ってしまうと、なし崩し的に全て無かった事にされてしまいそうである。


心を鬼にした。


タロウ     「どして?」


鬼のワタシの精一杯の反論である。


川畑      「そんなんされたら本当に困りますよ。」

タロウ     「いや……ウチはアナタのせいで随分困ったんですけど……。それをナシにしろと?」

川畑      「ええ……できれば……。」


なんだかな……って話になってきた。

それでも心を鬼にする。


タロウ     「ま。町内会長には連絡しますよ。ワタシとアナタのやり取りで終わらせてしまったら、

         今後アナタが別の町内の人を訴える歯止めになりませんもの。」

川畑      「…………。」

タロウ     「謝罪文がイヤなら報告書を回すだけですから……。」


この一言で「書く」と言ってくれれば問題ない。

そう祈って返答を待つ。


川畑      「……………。」


無言である。





以下次号。