店の外 | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

店の外

暫くすると店から川畑が出てきた。

ひょっとしたら、このまま出てこないのではなかろうか……と心配した瞬間であった。


川畑      「お待たせしました。……で……なんですか!?」


一応聞く耳は持って来たらしい。

だが、その態度と姿勢は横柄極まりない。


腕を組み仁王立ちで「聞いてやってやる」感タップリである。


このまま持って来たミッションQを渡す流れに持っていこうかと思ったが……

そのふてぶてしい態度を見て、少々回り道をする事にした。


まぁ……このままコチラの事情を話したところで、受け取る流れにはならないだろうというのが

正直な気持ちである。


タロウ     「あのー。とりあえずですね……川畑さん……。」

川畑      「なんですかっ!???」


案の定である。

既に食って掛かっていらっしゃる。


タロウ     「先程アナタが申し上げた『個人情報保護法』ですが……5000件以上の個人情報を

         有する事業者に対して適用される法律ですが……ご存じないみたいですね……。」

川畑      「…………………。」


黙って聞いている。


タロウ     「次いで……『プライバシーの侵害』ですが……私生活上の事実、又は事実らしく

         受け取られるおそれがある事を公開する事によって、私人が不快に感じたり

         不安を覚える事例の事です。」

川畑      「だから……っ!!ウチの親父は不快に思ってるでしょうがっ!!」


ああ……そう噛み付くか……。


タロウ     「残念ですが……ワタシが親父さんに話した事は裁判の流れとその結果です。

         裁判自体が『公開』である以上、私生活上の事実を公表した事にはなりませんよ……」

川畑      「…………………。」

タロウ     「それに断っておきますが……訴えたのはアナタですよ。

         アナタが起したアクションですよ。」

川畑      「それはそうですがっ!!訴えなければ話にならないでしょうがっ!!!」

タロウ     「……いや……それはアナタの勝手な判断です。それに訴えたのは紛れもない事実です。」

川畑      「…………………。」

タロウ     「裁判が『公開』である以上……ワタシが誰にその内容を話そうとも……その事を責められる

         謂れはないですよ。」

川畑      「…………………。」


噛み付けるなら噛んで頂きたい。


タロウ     「裁判の過程と結果……『訴える』『訴えられた』『勝訴』『敗訴』は公然の事実であって、

         これを公表した事により個人の名誉や品位が低下するとはされていません。

         ……だってそうでしょ?裁判で負けた事が公表される事で名誉毀損や侮辱罪に

         当たるのであれば……新聞もニュースも放送できませんよ。」

川畑      「…………………。」


だんだん小さくなってきている模様。


タロウ     「『負けた』事が名誉や品位を低下させるなら……そもそも裁判は成り立ちませんよ。」

川畑      「…………………。」

タロウ     「アナタはワタシを訴えたわけですから……訴えた以上、その顛末の責任は取るべきでは?」


黙って聞いてはいるが……どうにも落ち着きがない……。

話の中に「訴えた」「訴えられた」の文言が入る度に、周りをキョロキョロ見回す川畑。


川畑      「………あの……もう少し言葉を選んでいただけませんか?」


お願いですか?


タロウ     「……はぁ?どういう意味ですか?」

川畑      「そんな……『訴えた』とか言われると心外です。」


キョロキョロと周りを見ながら小声で話す。


この辺りは夕方ともなれば会社に帰るサラリーマン……早く終わったサラリーマン。

買い物途中のおばさま達で賑わう往来である。


タロウ     「『訴えた』って事ですか?……大丈夫……先程も言ったとおり『訴えた』や『訴えられた』が

         品位を低下する事情にはなりませんから。」

川畑      「ですが……。」

タロウ     「それに『心外』ってなんですか?……まるでワタシが『ありもしない事』を声高々に

         言ってるみたいじゃないですか!それこそ『心外』ですがっ!」


だから店の外に出すべきじゃなかったぞ……川畑。

ワタシはそう思ったのだ。


タロウ     「こっちはまだ話したい事まで……話が進んでないんですけど……どうします?」

川畑      「ええと………。」

タロウ     「営業妨害と威力業務妨害のご説明もしないといけないみたいですし……。」

川畑      「…………………。」


「怒り最高潮」から「困惑最高潮」に宗旨変えである。


タロウ     「なんなら場所を移しますか?どこでも結構ですよワタシは……。」

川畑      「…………………。」


だんまりの川畑。


タロウ     「店の中で話しましょうか?」

川畑      「いや………それは困ります。」

タロウ     「じゃあ……駅前のコーヒー屋でいいですか?」

川畑      「そんな近所じゃ困ります。」


公開の裁判を自ら起しておいて……近所で困ると言うのはどういう事情であろう……。

法律の根本も……裁判の根本も分かっていないのであろうか?


タロウ     「じゃあちょっと離れた……ネミーズでもガヌトでもヌカイラーズでもいいですよ。」


車で15分の範囲内にネミーズもガヌトもヌカイラーズもある。


川畑      「……ガヌトで……。」

タロウ     「わかりました。……では……車を取って先にガヌトに行ってますから……

         すぐに来てください。」

川畑      「わかりました……親父に急用が出来たと説明して……すぐに行きます。」




さて……戦いの舞台の変更である。




以下次号。