プリ | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

プリ

………プッ


タロウ     「もしもし」

プリ      「……あ……もしもし……。」

タロウ     「あ……オレ…タロウ……。」

プリ      「あ……タロウ……はいはい……なに?」

タロウ     「ああ……ちょっと相談があってさ……今どこ?」

プリ      「今、家にいる。」

タロウ     「お。よかった……。ちょっとパソコン立ち上げてくれる。」

プリ      「いいよ……。て言うか……もう立ち上がってる。」


プリ……。

中学と高校の同級生である。


プリ……昔から趣味がマンガとかアニメとかプラモであった。

まだパソコンが高価であった当時……。

MSXなるパソコンもどきのゲーム機が少し流行った時代である。

いち早く購入し……イロイロいじって遊んでいた……根っからのオタッキーである。


ただ「オタッキー」と言っても決してネクラなわけでは無い。

友達も多いし社交的である。

言うなれば「社交的なオタッキー」である。


この「社交的」と「オタッキー」と言う相反する性格が共存する希少種である。



つい1ヶ月ほど前に……近所の家電量販店で仕事をしているプリを偶然見つけた。

実に10年ぶりくらいの再会であった……。


聞くとウェブデザイナーを目指して修行&就職活動中なのだという。

家電量販店での仕事は「バイトのつなぎ」らしい……。



タロウ     「あのさー。プリさー。パソコン詳しいでしょ。」

プリ      「まあな……普通の人よりはって基準なら詳しいと思うよ。」

タロウ     「なにを……ご謙遜を……。ちょっと動画で困ってるんだけど……。」

プリ      「なに?どうした?」


……とここで事の顛末を話す。


プリ      「そうか……まずasfをaviかmpegに変換すればいいわけね……。」

タロウ     「そう!そういう事!」

プリ      「オレもウェブデザイナー目指してはいるけどさ……動画は専門外だな……。」


一瞬よぎる不安……。


タロウ     「なんとかなる?」

プリ      「うーん……。その動画を見てみないとわかんないけど……。」

タロウ     「頼まれてくれる?」

プリ      「100%自信ないけど何とかしてみる。」

タロウ     「頼む。」


もう頼みは君しかいない……。


プリ      「もし……ダメだったら……誰かできるヤツに横流しするけどいい?」

タロウ     「いい!!いい!!OKOK!!オレじゃどうにもならんから……。」

プリ      「よしわかった。受けた。」

タロウ     「助かる!」


交渉成立である。


プリ      「じゃ……早速ネットで送ってくれ。その……問題のファイル。」

タロウ     「OK。じゃ……この前聞いたアドレスにメールで……ってちょっとファイルでかいよ……。」

プリ      「じゃ……MSNメッセを立ち上げるから……これで送ってくれ。」

タロウ     「OK。」


パソコンの前に戻りMSNメッセでプリに直接ファイルを転送する……。

ものすごい便利な世の中になった……。


光ファイバーの中を通りファイルはあっという間にプリの元へ……


プリ      「期限は?」


「大至急」と言いかけて言葉を呑んだ……。

いきなりお願いしてそれも図々しい。


タロウ     「できるだけ早く……だけど……今度の日曜までには欲しい。」

プリ      「……わかった……。」

タロウ     「その予定で書面を作っちゃうから……。」

プリ      「……スゲープレッシャーだな……・」

タロウ     「すまん……。」

プリ      「ま……やってみんとわからんし……。」


……と言葉に詰まる……。


プリ      「週末はちょっと小旅行に行くからさ……。」

タロウ     「え?」

プリ      「だから金曜までには何とかするよ。」

タロウ     「……ふぅ…。」


焦った。


プリ      「じゃ…早速やってみるから。」

タロウ     「ありがとう……。あ……今日12時くらいまでは起きてるから……

         なんかわかんないことがあったら電話して。」


本寝になってしまうかもしれなかったが……一応こう言っておいた。

電話が鳴れば起きるであろうし……。


プリ      「わかった。」


………………。



電話を切る。


ユミコ     「終わった?」


イライラがマックスである。

語尾でわかる。


タロウ     「終わった。終わった。……さあ寝よう。」

ユミコ     「ホントだよ……。寝るよ。」


再度就寝。


………………。


果たしてプリは上手くやってくれるであろうか?

その不安がずっと頭の中にあるが……自分でどうにもならない以上仕方ない……。

託すしかないのである。


………………。


「♪♪♪♪♪……」

ケータイが鳴る。


ケータイに起こされた……。

時計を見ると11時を少し回った頃……。


「プリ……わからん事があるのかな?」と思いつつ……ユミコとイチコが起き出すと……また災難なので

素早くケータイを取る。


着信は……やっぱりプリだ……。


タロウ     「どした?……なんかわからん事がある?」

プリ      「いや……。」

タロウ     「どしたん?……やっぱ無理か?」

プリ      「いや……出来た。」

タロウ     「はぁ!?」


「出来た」……「変換できた」とい言う意味であろう……。

だが一瞬理解できなかった。

ワタシがあれだけ苦しんだのに……。

ものの30分で………。

恐るべし…プリ!!

恐るべし…オタッキー!!


プリ      「で……これをどうすりゃいいの?」

タロウ     「そうだな……連続写真にしてもらえればいいんだが……。」

プリ      「それも出来た。」


………………。

絶句である。


プリ      「一応……。1秒刻みと0.5秒刻みと0.25秒刻みと……3タイプ作ったんだけど……。」

タロウ     「参りました……。」

プリ      「で……どれにする?」

タロウ     「そうだな……。」

プリ      「ちなみに……ビデオが25秒ほどだったから……1秒で25枚。0.5で50枚だな。」


すごい数である。


プリ      「まぁ……一枚づつ印刷しなくても……10枚づつ印刷してもいいんじゃない?」

タロウ     「そうだな……。」


そのとおりである。


タロウ     「じゃ……0.5で……。」

プリ      「OK。……じゃ……今から送るよ。」

タロウ     「ああ……今は……チビが寝たところなんで……できれば明日が……。」

プリ      「じゃ……分割してメールにつけて送っておくわ……。」

タロウ     「ありがとう!恩にきるよ!!」

プリ      「いいって事よ!!……今度ビールで!!」


………一杯たかるか……安いものである……。


タロウ     「OKOK。今度ビールで返す。」

プリ      「じゃあな……裁判がんばれよ。」


涙が出てくる……。

持つべきものは愛する家族と頼もしき友である。

ワタシには人間が何よりの宝である。


………………。


とりあえず寝る事にする……。




翌朝……まるでサンタの靴下を確かめるようにパソコンのメールを開く。


連続写真が50枚……と既に印刷できるようになった10枚単位の写真が5枚

ファイルで届いている。


「こんな嬉しいことは無い」

そう思いながら出勤の支度にかかる。


寝室ではユミコとイチコがぐっすり寝ている。

朝……7時の事である。

                                 プリ イラスト:

以下次号。