倉庫にて
ワタシの店の裏。
昔は居間であって今は倉庫と化してしまった場所がある。
そう、問題のシロクロが上がってくる「問題の場所」である。
約16畳のそのスペースは、今や大型の冷蔵庫1台、冷凍庫1台、ショーケースタイプの冷蔵庫1台。
ビールのケースが4~5段になって「ずーん」と……
箱で仕入れた玉子……それに常温保存できる野菜の為のカゴが3~4個転がっている……。
キッチンだった場所には業務用の魚焼き台がある。
サンマなどは一度に10匹程焼ける代物だ。
本当に「居間」であった過去など見る影も無い……。
僅か2畳ほどのスペースに圧縮された「居間」であった部分は……
14インチの小さなテレビと、これまた小さな「ちゃぶ台」のようなテーブルのみである。
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ふと昔を思い出してみる……。
まだ今の様に何台も冷蔵庫は無く……魚の焼き台も無かった……。
普通のキッチンがあり普通のテーブルがあった。
そして普通の冷蔵庫もあった。
居間らしい「居間」であった頃だ。
……だが、今思えば高校生の頃から、この居間でメシを喰った覚えが無い。
飲食店をやっていれば、おのずと店でメシを喰う事が当たり前となってくる。
キッチンを2箇所使うに当たってのメリットがない。
調味料も食器も2箇所に分けなくてはいけないからだ。
それに奥に入ってしまっては店番も出来ない。
暇な時に店番をしながらでも……案外「家の事」は出来てしまうものである。
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ワタシが中学・高校に通っていた頃は……ここでコロコロしながらテレビを見ていたものだ。
妹とチャンネル争いもした。
コタツで居眠りもした。
宿題なんかもしたような………僅かであるが、そんな記憶がある。
そのワタシも妹も、次々と実家から出て生活するようになると………
利便性の面から見ても「居間」が「倉庫」となってしまうのもご理解頂けるであろう。
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只今、夏のロングバケーション真っ盛りのイチロウは、このたった2畳の場所がお気に入りである。
冷蔵庫達が「ブゥンブゥン」と唸っていてもお構いなしで、
それに負けないようにテレビのボリュームを上げて応戦している。
網戸にしていても、この季節は暑い。
冷蔵庫達の放熱量は結構バカにならないのである。
これにもイチロウは独自の戦法で対応している。
店にある製氷機の氷で、病気でもないのに毎日「氷枕」である。
だいたい2時間置きに店に氷を取りに来るのである。
ここまで悪条件でもイチロウはこの「たった2畳」のスペースが心地良いらしい。
子供と言うのは総じて狭いところが好きである。
「母体回帰」などと言う人もいるが……難しい事はわからない。
そういえば……ワタシも押入れや物置が好きだった……
なぁんだ……ただの遺伝なのかもしれない。
そのイチロウが毎日朝から「たった2畳の居間」でテレビを見ている。
今では朝の日課「ネコ捜索散歩」が終わった後……他に用事が無ければイチロウはココに引き篭もる。
夏休みには子供向けのマンガが朝からやってくれている。
最近は「名探偵コナン」や「ポケモン」の再放送らしい……。
時代は随分変わった……
昔々、ワタシの頃は……毎年毎年「妖怪人間ベム」や「ドロロン閻魔君」であった。
同じストーリーで分かり切っているのに、毎年毎年見ていた覚えがある。
「ワタシの子供時代と一緒だな……」などと思い……「嬉しくもあり悲しくもあり」である。
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日付は8月16日。
いつもの様に朝から引き篭もるイチロウ………。
「引き篭もる」と言っても……けっして内向的な子供ではない……。
学校では活発な方だ。
ただ……無類の「テレビ好き」である。一応彼の名誉の為に断わっておく……。
……10時半過ぎである。
イチロウ 「父さん!父さん!100円!100円!」
とイチロウが奥から飛び出してきた。
イチロウ 「ネコ!ネコ!父さん!ネコ!ネコ!」
えらく興奮気味である。
タロウ 「ネコってシロクロか?」
イチロウ 「違う!シロクロじゃない!!」
そう言うと少し考え込むイチロウ……。
イチロウ 「シチサン!!」
?
イチロウ 「シチサン!!シチサン!!シチサンのネコ!!」
シチサン?
意味がわからない。
イチロウ 「とにかくカメラ持って来てよ!!早く!早く!!」
なにやら意味がわからん
わからんのであるが……えらく慌てている様子なので、とりあえずカメラを持って奥に行くことにした。
イラスト:妙
以下次号。