第二回口頭弁論--その15--反対尋問 | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

第二回口頭弁論--その15--反対尋問

前にも書いたが、ワタシは「ワンサイドゲーム」が嫌いだ。


裁判を野球に例えるのもどうかとは思うが……。

正直この第二回口頭弁論は………当の昔にコールドゲームであろう。

多分、「山本さんの証言」あたりでコールドである。


その後、ゲームは続行され……被告質問を難なく三者凡退にし……

裁判官の雨天一時中断があり………いよいよ大詰めである。


ちなみにスコアの詳細はと言うと………。


先攻:川畑、後攻:山田

………で………「28対1で山田のリード」ってかんじだ。


いざ9回裏……。野球であれば9回コールド……スコアボードに「×」がついている状況だ。


野球ならやらない……だがワタシはやる……なぜなら裁判だからである。


さくっとばしっと反撃である。


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裁判官     「では…。原告も、宣誓書に前回署名捺印してますから……。このまま………。

          証言台にどうぞ。」

川畑      「はい。」


いくつか書類を持ち……証言台に座る。


裁判官     「ワタシのほうから2~3……。」


そう言うと裁判官が資料を見ながら……。


裁判官     「該当ネコを被告宅内で見たのは……何回ですか?」

川畑      「私自身は4~5回です。」

裁判官     「では該当ネコがクルマに乗っているのを見たのは?」

川畑      「4~5回ですかね……。」

裁判官     「あとは………。まぁいいでしょう……。被告どうぞ。」


早い早過ぎる……。

まぁ、裁判官も「今更」感なのであろう。


タロウ     「では……。」


作ってきた質問事項……細かいものも入れると約30項目。

ただ……今までの証言や発言で証明されたものは省いていく……。

あと、裁判官も早く終わりたがっている様子なので……その辺りも加味していく。


タロウ     「簡単に聞きますから……単刀直入にお答えください。」

川畑      「……………。」


返事くらいしろ。


タロウ     「準備書面に3ヶ月間調査とあるが、係争場所の駐車場で見かけたネコは

         この該当ネコだけですか?」

川畑      「はい。」

タロウ     「では……車の上に乗っていたのを目撃したのは該当ネコだけですか?」

川畑      「そりゃ……そうでしょう。」


一つ心配していた事が解決した。

「ニャン太がもし乗っていたら……。」である。


まぁ乗っていたら乗っていたで………。

川畑氏を「偽証罪・詐欺未遂罪」で刑事告訴できるし民事でも「詐欺未遂罪」で提訴できた。

詳しくは機会があれば書きたいと思う。



タロウ     「では……車の傷は該当ネコがつけたものだけですか?」

川畑      「このネコしか見かけていないって言ってんだから…そうでしょう!」


まだ、キレるな……まだ……。

たったこれしきの質問で……。


タロウ     「他の場所で……他のネコが傷をつけたという可能性は?」

川畑      「ないと思います。」


出た……。「思います。」


タロウ     「3ヶ月間調査とあるがその期間はいつからいつまでですか?」

川畑      「3月初旬から5月末までです……。6月からはワタシ……駐車場を変えましたから。」


ほぅ……。1月27日から4月20日までではなかったのか……。

係争期間外ではないか………。

まぁいい。


タロウ     「該当ネコに対し被告又は被告家族が給餌している現場を目撃した事はありますか?」

川畑      「ないです。」

タロウ     「では……写真も……。ないですね?」

川畑      「ないです。」

タロウ     「では、該当ネコに対し被告又は被告家族がペットとして接している現場を

         目撃した事はありますか?」

川畑      「ないです。」

タロウ     「では……写真も……。ないですね?」

川畑      「ないです。」


ちょっと唇がフルフルである。

まぁいい。


タロウ     「平成17年ハ1234号、祖父への提訴はなにを区役所で調べた結果なんですか?」

川畑      「区役所の住宅地図です。」

タロウ     「同訴訟で、女の子を間違えて提訴した事に対する被告への謝罪はしましたか?」


ムッっとする川畑。


川畑      「訂正したでしょう!!その訴訟は既に取り下げていますし、

         本訴訟では女の子の記述を削除していますよ!!その件は関係無いでしょう!!」

タロウ     「関係無くは無いでしょう!ワタシはこの記述を乙号証として提出していますよ!!」


裁判官の顔を見てみる。


裁判官     「本件とは関係無いと言えば無いですが……。乙号証で出てましたね……。

         原告どうなんです?」

川畑      「………訂正はしました。」

タロウ     「謝罪は?」

川畑      「してないです。」

タロウ     「してないですよねぇ……。」


聞こえるように独り言で言ってみる。


川畑      「……………。」


人の間違えには厳しく……自分の間違えは認めないタイプだな……。


この質問で実感した。


タロウ     「原告は前回の口頭弁論で訴状内容の一部……

         係争期間を3月初旬から1月27日と訂正されたが、

         通常一般人が引越しの日付を1ヶ月以上間違えるものなんですかね?」

川畑      「……………。」


ちょっと悩んでいる様子である。


川畑      「ワタシもお店を経営してましてねぇ……。部屋の賃貸契約をしたのが1月27日で……。

         引越しをしたのが2月の初旬です……。……一度に引っ越したわけではないので、

         3月の初旬までは、二重生活のような感じでした。

         だから初め訴状には『3月初旬』と書いたんです。」


「被告が2月中旬に『ネコ発見時の報告』をしているので……。

それより前から被害があると言いたいから変えました。」


とは言わんだろうとは思っていたが……言わなかった。


タロウ     「準備書面に『ネコ撃退用スプレー』とありますがメーカー及び品番は?、又使用頻度は?」

川畑      「使用頻度は……。気が付いた時に適当です。」

タロウ     「適当では困るんですが……。」

川畑      「………週……1~2回でしょうか……。」


困った様子である。

歯切れが悪い。


タロウ     「で……。メーカー及び品番は?」

川畑      「わかりません……。貰い物ですから……。」


はぁ?


タロウ     「貰い物だとわからんのですか?」

川畑      「ええ。友達から貰いましたから。」

タロウ     「じゃあ『使用上の注意』も読まないんですか……。危ないですよ。そういう使い方。」


作戦名「ちくっとちくっと」である。


思うに多分、実際は使っていないのであろう。


タロウ     「訴状及び準備書面に『車全体に傷』とありますが……

         傷はクルマ側面にも付着しているんですか?」

川畑      「ええ。全体です。」

タロウ     「それを立証するものは?」

川畑      「写真が出してあるでしょう!!」

タロウ     「ああ。そうですか……。では『あれ』から判断しろと………。」


質問はまだある。

まだキレるな………。頼むぞ。


タロウ     「では……。その傷が……ネコが付けた傷である事を立証して欲しいんですが………。」

川畑      「わかりませんか!?写真で……!!」

タロウ     「ええ。跳石や砂埃で細かい傷くらい付くでしょうし……。そう思いません?」

川畑      「………………。」

タロウ     「跳石や砂埃で付いた傷が無いと言えますか?」

川畑      「………………。」

タロウ     「ですから……例えば『ネコの爪の形と車の傷が一致するのかどうかの

         科学的見地の基づいた調査及び報告』は無いんですか?」


川畑……少々苦笑いしながら……。


川畑      「そんなもん……。あるわけ無いでしょう!!」


川畑……。苦笑いしている場合ではない。

「いや……。それが無いと………。」……と言いかけたが……やめた。


タロウ     「では、『該当ネコが付けた傷』との『科学的見地の基づいた調査及び報告』もないですね?」

川畑      「もちろん。」


胸を張ることではない。


タロウ     「車の修理代金はあくまでの原告の『希望箇所』の額であり『必要箇所』ではない

         印象を受けますが?」

川畑      「鰹オートでネコの傷の箇所の修理見積もりをお願いしたら出てきた金額ですので……。」


歯切れが悪い。


タロウ     「準備書面に『防御策の為にコインパーキングを利用していた』とありますが……。

         その場所と使用頻度は?」

川畑      「コインパーキングが空いていればそこに停めていました。」

タロウ     「ですから回数です。週何回?」

川畑      「週2~3回でしょうか……。」

タロウ     「1回あたり何時間?」

川畑      「わかりませんよ!イチイチメモしてるわけじゃないし!!場合によって違うでしょう!!」


いや。メモしておけ。

訴える以上………。


タロウ     「場所は?」

川畑      「係争場所駐車場から西へ行った角のコインパーキングです。」

タロウ     「じゃ……係争場所駐車場から……50mくらいですね……。」

川畑      「もっとありますよ!!」

タロウ     「ま。いいです。測ればいいですから。」


実際測ればいい。


タロウ     「そのコインパーキングに他のネコはいませんでしたか?」

川畑      「見ていません。」

タロウ     「では……コインパーキングで……他のネコが乗る事は?」

川畑      「見ていませんからわかりません。」

タロウ     「そのコインパーキングに屋根はありますか?」


知っていたが聞いておいた。

裁判官は知らないわけであるし……。


川畑      「ありません。」

タロウ     「では……密閉型車庫でも……ありませんね?」

川畑      「はい。」


ちょっと間を置く。

裁判官を見る。

随分疲れている様子である。


タロウ     「原告は『ネコがクルマの上に乗る事で被害を被った』と主張していますが……。

         どうしてカバーをかけるという単純な防御策を取らずに放置したんですか?」


重要質問事項である。


川畑もったいぶった様子で………ゆっくり答え出す……。

随分余裕の表情である。

さっきとは一変である。


川畑      「まず……。カバーをかけるという事は……カバーを買うという事です。」


その通りである。


川畑      「その費用が勿体無い。」


はぁ?


川畑      「それにカバーをかける時間が無い……。手間がかかります。」


はぁ?


川畑      「なのでカバーはかけません。」


………理解不能である。

胸を張って言う事でも、余裕を持って言う事でもない……。


もし、こんな理由で「カバーをかけない」自己防衛が許されるなら……。

今の社会は異常である。



気を取り直して……聞こえる様に独り言。


タロウ     「……要するに『めんどくさい』って事ね。」


裁判官には聞こえた様子である。

書記官にも………。


書記官、口元が笑っている。


タロウ     「ここからは……一般的見解でお話ください。例え話ですから……。」

川畑      「どうぞ。」


質問の資料を確認する……。


タロウ     「ペットの責任とはエサを故意に与えた場合に発生するものだと思いますか?」

川畑      「ですから!今回のような場合!!ネコが家に上がり!エサを食べ!!……」


いきなり激しい口調となる。

キレだした……。


タロウ     「いや。『今回の』ではなくて……一般的にあなたがどう思うか……お答えください。」


こちらは冷静にさえぎる。


川畑      「…………。」


考え込む。

こちらの要求がわかっていない様子である。


タロウ     「『はい』『いいえ』で結構です。」


裁判官割って入る。


裁判官     「被告……。その質問は必要ですか?……本件とは関係無いように思いますが……。」

タロウ     「いや。聞かせてください。原告の考え方がワタシにはわかりませんから!」

裁判官     「………。では手短にお願いします。」


OKである。


タロウ     「で…原告……。どうなんです?責任は?」

川畑      「………。あると思います。」

タロウ     「環境庁は『無し』でも原告は『あり』っと…。」


また独り言を言いながらメモをする。


タロウ     「では、動物が無断で侵入しエサを食べた場合でも発生すると思いますか?」

川畑      「………。発生すると思います。」

タロウ     「これも『あり』っと……。」


傍聴席で杉森のおばさんがクスクスやっているのがわかる。


タロウ     「では公園のハトにエサをやったら、公園のハトはワタシの責任下ですね?」

裁判官     「被告……。」


怒られそうなので、この質問は切り上げた方が良さそうである。


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ちなみにこの後、


「例:鯉にエサを与えた場合はどうか?」

「例:魚屋が商品及びゴミ箱をネコに荒らされた。この場合はどうか?」

「例:農家がイノシシやサルに作物を荒らされた。この場合はどうか?」

「 例:お魚咥えたドラネコ追いかけて裸足で駆けてくサザエさんはこのドラネコの飼い主となるか?」


と用意しておいたのであるが……聞けなかった。


怒られるのは間違いなさそうである。


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タロウ     「では…。原告は『ネコが被告宅に上がっている』事を何度も主張されていますが……。

         係争場所駐車場でもよく見かけますよね?

         『係争場所駐車場に居着くネコ』とは解釈できませんか?」

川畑      「はぁ!?意味がわかりません。」

タロウ     「では…。原告は『ネコが原告のクルマの上に乗っている』事を

         何度も主張されていますが……。『このクルマの持ち主のネコ』とは解釈できませんか?」


顔色が変わる。


川畑      「こっちは被害者ですよ!!!」


怒ってしまった。


タロウ     「だって、ネコがクルマの上で堂々と昼寝しているんだから……。

         『このクルマの持ち主のネコかなー』って思う人もいますよ。きっと。」

川畑      「……………。わけがわからんっ!!!」


怒っている。かなり怒っている。

唇がフルフルだからすぐにわかる。


タロウ     「裁判官……。もう少し聞きたい事がありましたが……時間も時間ですから…もういいです。」

裁判官     「そうですか。では終わりにします。」


時計は5時半を回っている。

裁判官も書記官も汗だくである。


ワタシも暑い。

ただ格好がTシャツ一枚なので救われている。


裁判官    「では……次回の日程を決めます。」


そう言うと秘書官とスケジュール帳を眺めながら考える。


書記官     「では次回、9月17日の4時で……。よろしいですか?」

タロウ     「はい。」


川畑、まだ唇がフルフルである。


川畑      「いいですっ!!」


書記官に怒っても仕方ないではないか……。


書記官     「では、9月17日で…。」

裁判官     「わかりました。では………。双方、その日が結審としますので!!

          それの2週間前……。8月中には必ず出せる書証とか書類は全部出してください!!」


裁判官も苛立っている様子である。

暑さは万人を苛立たせる様子である。


書記官     「では…。今日はこれで閉廷します。一同起立。」


終わった。


まだ書類をカバンにしまっていないので、すぐにワタシは出られない……。


ユミコと杉森のおばさんは既に外に出た様子である。

「杉森のおばさん……。店始める時間……過ぎちゃったな……。」などと思いつつ書類を急いで片付ける。


書記官と川畑も、片付けをしている。


怒りながら片付けをする川畑に

ちょっと一言言いたくなった……。

                                   第二回その15 イラスト:

以下次号。