第二回口頭弁論--その11--網戸 | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

第二回口頭弁論--その11--網戸

ワタシは「ワンサイドゲーム」と言うのがキライだ。

野球でもそうだ。


いくら応援しているチームが勝っていようとも、見ていて面白くない。


極々稀に休日にパチンコに出掛けたりするのであるが、

運良く出過ぎていると飽きてしまう。

せっかく「連チャン」していて儲かっていても飽きてしまうのである。


そんなワタシ「山田タロウ」である。



さて、川畑の直接ワタシへの質問タイムである。


いったいどう来るのか?

「食べてます」か?……それとも新しい大技が繰り出されるのか……。




川畑      「では質問します。」


資料に目配りしながら切り出した。


川畑      「被告が答弁書と一緒に出された『保健所のネコ発見時の通報記録』ですが……。」


今々、話したではないか……。

何を聞いてくるやら……。


川畑      「ここの記録の先頭に、『保護』とありますよね!

         これは被告がこのネコを保護していると言う証拠じゃないんですか?

         保護であれば当然責任が発生すると言うものではないのですか!?」

タロウ     「……………。」


手が付けられない………。


タロウ     「あのー。原告?『答弁書』をちゃんと読んでいますか?

         もう少し熟読してから質問したらどうですか?」


皮肉ってやった。


タロウ     「裁判官。答弁書に記載してある内容と重複しますが……追加説明してもよろしいですか?」

裁判官    「あぁ。どうぞ。」


裁判官も疲れ気味である。

時計は5時ちょっと前……。


タロウ     「『保健所のネコ発見時の通報記録』には『保護』『失踪』の二種類しか分類がありません。」


川畑………ワタシの即答に、少々驚いた様子であるが……何も驚く必要は無い。

当然の返答だ。


タロウ     「『逃げた』とか『いなくなった』とか『失くした』場合には『失踪』と分類され、

         『見かけた』『捕まえた』の場合は『保護』と分類されます。

         これは、パソコンでの管理上、日時順で並び替えたり…条件で並び替えたりして

         問い合わせがあった場合に迅速に対応できる為に取っている措置だと思います。

         分類が『発見』『情報』などと細かくなっていれば、問い合わせの時に

         迅速に対応できないじゃないですか!

         それに、保健所としては………。この『保健所のネコ発見時の通報記録』は、

         動物が誰の所有物かと言うことを証明する為の記録ではありません。

         失踪動物を元の飼い主に戻す為の記録なんです。」


一呼吸。


タロウ     「わかりますか?」

川畑      「……………。」


返事が無い。


川畑      「次に……。被告は『答弁書』内で、『写真に写っているネコを飼育していない』

         書いていますが……。ネコが勝手に上がってエサを食べ……。

         くつろげる状況を作っている以上…………。飼育していると言う事になるんじゃないですか?」

タロウ     「はい。なりません。」

即答してやった。

得意の「食べてます」だ…。

タロウ     「原告………。今の裁判官との質疑応答を聞いてました?

         ………資料をいじっていらっしゃった御様子でしたけど……。」


もう一丁皮肉ってやった。


タロウ     「このネコは網戸を開けます。サッシも開けます。

         それにあなたが訴状に記載している期間……。ウチには飼いネコがいました。

         完全に『室内飼い』にしていない為にサッシと網戸を常に開けていて……

         ……なんの問題があるでしょうか?」

川畑      「裁判官!」


突然相手を裁判官に変えて……なにやら資料を取り出す。


川畑      「被告はサッシを締め切っている場合があります!

         これは被告の証言を否定するものであり………。」


裁判官     「原告ねぇ……。出したい書証があるなら…全部出してください!

          小出しにしないで!!………全部必要部数のコピーを取って事前に出してください!」


ちょっと呆れて怒り気味である。


裁判官     「まぁいいです。出したい物は全部出してくださいよ!後で!!……はい…………続けて。」


ちょっと気まずい顔の川畑。

同じ事を何回もするなよ………。


川畑      「サッシを閉めてる写真がありますよ!これはどう説明するんですか?」


こっちもちょっと呆れ顔である。


タロウ     「サッシ閉めてちゃ……いけないんですか?」

川畑      「ネコが出入りするんでしょう!!」

タロウ     「ネコが出入りするってねぇ………。うちのネコでもサッシと網戸くらい自分で開けますよ。

         それにその写真の撮影期日はいつですか?」


川畑……また資料を探す……。


川畑      「……今はちょっとわかりませんが………。それがどうしましたか?」


こっちが聞きたい。


タロウ     「いいですか?この部屋の中に人がいてエアコンをつける場合もあるんです。

         テレビがあって見れるようになってますし……。

         雨だって降っていたかもしれない。

         まぁ……なんにしても『ウチがサッシを閉めようが開けようが……』

         ……あなたの関知しないところでしょう?」


全くもってウチの勝手である。


タロウ     「それに最近……うちの飼いネコが祖母の家に行ってからは……。

         まぁ貴方に訴訟を起されたってのも要因ではありますが………。

         祖母は気が付くとサッシを閉めているんです。

         『覗かれてるかもしれない』と思うのも毎日毎日嫌でしょう!!」

川畑      「だったら野菜が腐るでしょう!!」


どうする?

本当にそんな心境だ。


タロウ     「だから!ワタシと母と女房は『サッシが閉まっていれば開けます』よ!!

         『知らない人に覗かれてるかもしれない』と毎日思っている

         祖母の心境がわからないのですか?」


間髪入れずに川畑………。


川畑      「祖母は別に住んでいるんじゃないんですか!?

         『答弁書』『飼いネコが引っ越した』とありますが……これはですか!!!?」


話は超脱線気味。

手が付けられない………どうしよう。


タロウ     「ウチの祖母がどこにいようと勝手じゃないですか!!

         祖母は毎日、起きたら店舗のある『ここ』に来ます。夜までいます。寝る時に家に帰ります。

         裁判官!!そこまで説明しなきゃならないんですか?」


裁判官。苦笑しながら呆れ顔。


裁判官     「原告………。質問変えて…。」


仕方なく質問を変えざるを得ない様子の川畑。


川畑      「………えっと……。『答弁書』内でも書いていますし、今さっき裁判官さんの質問の時も

         答えています………『ネコがサッシを開ける』と!!

         ワタシの作った準備書面内でも書きましたが……『ネコが重いサッシを開ける事は出来ない』

         と思いますが!どうなんですか?」


「どうなんですか?」と聞かれても……。

どうなんですか???


まぁ、このことに対しては……たった3日で作り上げた『被告準備書面』内でも書いたのであるが……。

仕方ない……。勿体無いが先行して教えてあげよう。


タロウ     「………。あのですね……。原告『川畑』さん………。一つ言っていいですか?」


ちょっと勿体つけた。


タロウ     「『ネコが重いサッシを開ける事は出来ない』と思います……。じゃ駄目なんですよ。裁判。」


キョトン顔の川畑。


タロウ     「それはあくまで『推察』であって『断定』ではないんです。『証拠』ではないんです。」


わかっているのであろうか?


タロウ     「『ネコが重いサッシを開ける事は出来ない』と言うことを証明するのは……。

         訴訟を起したあなたが立証すべき事なんです。それが出来ないのであれば………。

         ワタシの主張が通ることになります。まぁ……。最終判断は『裁判所』ですので……。」


続ける。


タロウ     「又、ワタシが『開ける事が出来る』と言うのを強く主張したいと思えば………。

         ワタシが『開ける事が出来る』証拠を提出するだけです。」

川畑      「だからどうなんですか!?」


半分キレた


タロウ     「ワタシは『開ける事が出来る』と主張しますが……。なにか?」


                                       第二回その11 イラスト:

ちょっと長くなりそうなので…

以下次号。