第二回口頭弁論---その5---引田くん | 【実録】ネコ裁判  「ネコが訴えられました。」

第二回口頭弁論---その5---引田くん

聞きたい事はある程度、箇条書きにして作ってきた。

これを原告と証人に聞いていくだけだ。


あと、原告の質問で出された証人の回答は省いて聞いていく様にする。

同じ事を聞いても仕方ない。


タロウ     「えーと、では証人さん…。

         あなたがこの係争場所駐車場で見かけたネコはこの該当ネコ一匹ですか?」

引田くん    「通りすがりのネコは見た事がありますが、ほとんどこのネコです。」

タロウ     「では、車の上に乗っていたネコはこの該当ネコだけですか?」

引田くん    「そうです。このネコだけです。」

タロウ     「わかりました。」


もし100回に1回……。万が一にも、うちのニャン太が乗っているという可能性がある。

まぁ、その場合はその場合で手段は講じてあるのであるが…。


まぁいい。その話はまた別の機会に書くこととする。


タロウ     「証人は、『該当ネコが車に傷を付けた』と証言しましたが、その現場を見ましたか?」

引田くん    「ネコが飛び降りた後に、そのネコがいた周辺を見ました。そのあたりに傷が付いていたので

         ネコの傷だと思います。」

タロウ     「なるほど。あくまで推測なわけですね?その傷が付く前の車の様子は見ていますか?」

引田くん    「見ていません。」

タロウ     「と、言うことは……。

         ネコが車の上に乗る前に付いていた傷と言う可能性もあるわけですね?」

引田くん    「………。」

タロウ     「傷が付いていた箇所の、傷が付く前の写真はありますか?」

引田くん    「ないです。」

タロウ     「では、傷が付いた後の写真はありますか?」

引田くん    「ないです。」


割って原告川畑が発言する。


川畑      「傷の写真は書証で出しているでしょう。」

タロウ     「今、証人に質問しているのです!証人が撮影した傷の写真はないわけですね?」

引田くん    「はい。ないです。」

タロウ     「では、目撃証言のみですね。それも事後の確認からの推察ですね?」

引田くん    「そういう事になります。」


質問をかえよう。


タロウ     「証人、原告は『車全体にネコの傷があり全面塗装の必要がある』と訴状で書いてきましたが

         車の側面にもネコの傷が付くと思いますか?」

引田くん    「降りるときに付くと思います。」

タロウ     「普通、車くらいの高さなら……。ネコは飛んで降りますよ。

          先程、証人も『ジャンプして逃げる』と証言していますが……。」

引田くん    「四方八方に逃げますので…。逃げ方も一緒ではないんで……。」

タロウ     「なるほど。ま、いいです。」


質問をかえよう。


タロウ     「証人はこの被告宅内で該当ネコを見たと証言しましたが、

          このネコに給餌している被告又は被告家族を見ましたか?」

引田くん    「いえ。」

タロウ     「では、その写真も………。ないですね?」

引田くん    「ないです。」

タロウ     「証人はこの被告宅内で該当ネコを見たと証言しましたが、

         このネコと遊んでいる……例えばペットとして接している被告又は被告家族を見ましたか?」

引田くん    「いえ。」

タロウ     「では、その写真も………。ないですね?」

引田くん    「はい。ないです。」


イライラしている様子の川畑が、原告席で見える……。

しきりに自分の持って来た裁判資料を触り始める。


タロウ     「先程、証言で『ネコは四方八方に逃げる』とおっしゃいましたが……。

         その逃走経路を教えてくださいますか?」

引田くん    「はぁ?逃走経路……。ですか?」

タロウ     「そうです。見た時の状況の様子です。

         『ある時はコチラから逃げた…。』とか『ある時はここから逃げた…。』とか」

引田くん    「はぁ……。そうですね……。」

タロウ     「口頭で難しければ…。

          この原告から出された『撮影場所の駐車場見取り図』で説明してください。

引田くん    「ある時は道路の方に…。ある時は被告宅の方に…。ある時は西側に…。」

タロウ     「なるほど…。で、柵がありますよね。ネコはこれを越えて行ったんですか?」

引田くん    「はい。そうです。そしてたまに被告宅に逃げ込みました。」


ほほぅ。そこまでご丁寧に証言してくれるとは……。


タロウ     「原告側から出されている写真……。えっと甲2号証ですが……。

          8番と9番の写真を見てください。

          ここに駐車場の様子がわかる写真がありますが…。」


川畑が必死で写真を探している。


タロウ     「この柵とコンクリートブロックの隙間……。見たとこ5~6cmしかないですよね?

         いくらネコでもこの隙間は通れますかね?」

引田くん    「え?通れますよ。通れませんか???」

タロウ     「ワタシも現在、推察でお話していますが…。ワタシは無理だと思いますが…。」


川畑が割って入る。


川畑      「裁判官!!ネコは柔軟性がありますので!通れない事も……」

裁判官    「原告黙って!今、証人に対する被告の質問中です。」


また怒られている……。


タロウ     「あと……『この緑の柵の上に座っていた』と証言されていますが……

         この柵の幅…3~4cmしかないですよね?

         ネコが座るにはちょっと狭すぎると思いますよ。いくらネコでも……。

         まぁ、歩くことは出来るかもしれませんが……。」

引田くん    「………。」


畳み掛ける。


タロウ     「『柵をジャンプして逃げた』とも証言なさいましたが…。2mはありますよね……。この柵。

         一気にジャンプするのは無理だと思いますよ。

         また金網状なので、ネコが一旦途中を踏み台にして登るとも考えにくいでしょう…。

         戸板のような爪の引っかかる素材なら別ですが……。」

引田くん    「………。でも実際越えていましたし……くぐっていましたし……。」

タロウ     「まぁいいです。ワタシも現在推察で話していますから…。」


と、ここで一旦間を置いて裁判官にこう提案した。


タロウ     「裁判官、この柵下の隙間、柵の幅、柵の高さを撮影した書証を後日提出します。

         あと、この隙間、幅、高さでネコが通れるかとどうか…。

         知識のある獣医師の見解を取って提出致します。」

裁判官    「わかりました。準備書面と書証で出してください。」


原告席の川畑の唇がフルフルしている。

先程にも増して、裁判資料を闇雲にめくっている……。


「幾ら探しても用意していない物は出んよ……。」

と言ってやりたくなった。

                                       第二回その5 イラスト:

以下次号。