温暖化が問題と言われて久しいけど、やっぱり冬は暖かい方が過ごしやすいに決まってる。
僕らが高校2年の冬、僕と優二と正樹は、みんな17歳だった。
僕たちは、その年のお正月に親や親戚からもらったお年玉を懐にして、正樹の部屋に集まり、真剣にあることを討議していた。
お年玉で買い物をする。と言っても、ゲームソフトや、新しい携帯や、i-podを買おうと言うのではないよ。
女。僕たちはお年玉で女を買いにいく相談をしていたのだった。

僕たちは大学付属の男子高校に通い、ソフトテニス部という体育会とは名ばかりで、実質同好会のメンバーだった。幽霊部員を除けば実際に活動しているのはこの3人だけ。
とりあえず、狭いながらも部室をあてがわれていたので、放課後、ここに集まるのが日課になってしまっていた。練習は・・・あまりやらない。
そして集まれば、最終的には女の話になる。
類は友を呼ぶというか、僕ら3人は揃って晩稲で、なかなか女子と仲良くなる機会も無く、あふれるほどの性欲を制御できずに、悶々とした学園生活を送っていたのだった。
3人とも、ルックスはそうひどいものでもないと自負しているし、学校のレベルだって、そう恥ずかしいというほどのものでもない。
でもダメ。17年間の人生において、女とはトンと縁がないところは仲良く一致する僕ら3人。
「オレ、もう女だったら誰でもいい!誰でもいいから女とやりたい!」
長身の優二は、青春のエネルギーがオナニーだけでは発散し尽くせず、顔いっぱいのニキビをテカラセながら、部室で怒鳴った。
イヤ実際問題、誰でもいいはずはないのだけど、性欲が極限まで高まった時、僕もペニスを激しくしごきながらそう思うことがよくあったから、やつの気持ちもよくわかる。
「正確に言うなら、普通以上の容姿であれば誰でもいい・・・だろ?」
3人のうちで一番ベビーフェイスながら、成績は1番優秀で、クールが売りの正樹が、冷静に切り返した。

高2ともなれば、異性交遊に関しては随分と格差が発生してくる頃で、進んでるヤツには当然彼女がいて、エッチまでやっちまってるヤツも多い。中には数人の女と器用に付き合う達人もいる。女子高の女の子を妊娠させてしまったヤツなんざ、親は青くなっているのだろうけど、学校では英雄だ。
でも、大多数の男子高生は、セックスなんてまだまだ夢のまた夢、下半身で過剰に生産される精液の処理に悩む毎日。
若さのパワーを、ちょっとやそっとの運動で発散させるなんて、しょせん無理な話なのだよ。
もちろん僕らだって、何の努力もしなかったわけではないさ。部活を利用して、女子高との合ハイに紛れ込んだ。
合コンで無いところがご愛嬌だけど、男女のグループでディズニーランドにも行きました。
結果は・・・いいお友だちでいましょう・・・
さらに一大決心して、街角でナンパの真似ごとをしたり。
結果は・・・苦痛と屈辱と、徒労感にさいなまれ、危うく自閉症になるところだった。
だいたい僕たち3人は、そういうことには向いていないのだ。それはわかってるてって。
でも、向いていないからと言って、あきらめられるほどの境地に達しているわけでもなく、結局同病相哀れむで、3人で部室で愚痴るしかなかったのだった。

国語の授業で習ったドストエフスキーなら、そんな僕たちの日常を「地獄」と呼んだだろうか。
そんなありふれた内的地獄に、石を放り込んでさざ波を立てたのは、部活の先輩、田上さんのアドバイスだった。
田上さんは僕らより2つ上で、今、大学1回生。たいしてもてるルックスでは無いはずなのだが、高校時代からガールフレンドが途切れることの無い、不思議で、なおかつ僕らを勇気づけるヒーロー的存在だったのだ。
「お前らさあ、早く女を知らなきゃダメだよ。彼女作るのは、童貞捨ててからでいいんだからな」
所用で近所に来たついでと言って、部室に寄ってくれた時、田上先輩は僕らに向かってそう言った。
「だいたい男子校の男どもは、女との接点が少ないから、どうしても女を高尚・神聖なものとしてとらえ過ぎるんだ。女性崇拝、フェミニズムと言ってもいいのかもしれないけど、実際の女はそんなに高貴なものじゃない」
僕たちはただ聞き入っていた。
(つづく)